10 男女混合ダブルス③
「それで雅也、結衣ちゃんとはどうだったんだ?」
「何が?」
俺たちが歩き始めてすぐに優輝が和泉さんについて質問をしてきた。
しかし、「どうだった」だけでは具体的に何についての質問なのかはよくわからない。
無論、どういった方向性の質問なのか、なんとなくだが想像はつくが。
「だから、結衣ちゃん本人についてだよ。実際に関わってみてどう感じたんだ?」
想像した通り、和泉さんのテニスの実力などに興味があるわけではなかった。
適当に受け流してもよかったが、後々のことを考え、今俺が感じている和泉さんに対する印象を素直に話すことにした。
「明るくて負けず嫌いって印象かな」
「明るいのはわかるけど負けず嫌いなのか?」
「前回テニスの大会で一回戦負けしたことがよほど悔しかったのか、練習するぞって感じの雰囲気全開だったからそうなのかなって」
「そうなのか~。でもあんな雰囲気なのに根は負けずらいってなんかいいな!」
どうやら俺が言った情報は、優輝の和泉さんに対する好感度アップに貢献したらしい。
「雅也もいい人だなって思わなかったのか?」
「さすがに今日はほとんど一緒にテニスしてただけで、あまり話したわけじゃないからまだ和泉さんに関してはよくわからないよ」
「まあ、これからお前はどんどん結衣ちゃんの良さに気づいていくさ」
優輝が俺に和泉さんをすごく推してくる。
しかし、そんなことをしていいのだろうか。
「そんなに俺に和泉さんを推してきて大丈夫か?もしも俺も和泉さんのことが好きになれば取り合いになるぞ」
「そうなったら残念だが、お前には諦めて泣いてもらうしかないな」
優輝が自信満々に言い返してきた。
どうやら和泉さんとの関係に関しては、俺に対してかなり自信があるらしい。
でも、名前呼びしてるぐらいなので実際そうなのだろうが。
「まあ今のところはないから安心しておけ」
「お前が結衣ちゃんの魅力に気づいた時が怖いわー」
そんなことはないだろうと内心思いつつも、実際どうなるかは分からない。
とりあえず、いったん和泉さんに対する話題が途切れたので次は俺が気になっていることを質問することにする。
「そういえば、お前のペアの相手はどうだったんだ?」
その相手が中川さんだということはわかってはいるが、当然こちらは何も知らないというスタンスを貫く。
「すげえ無口の人だったよ。俺が話して相手は特に言葉での返事をすることはないけど反応はするって感じ。でもテニスはけっこう上手だったぜ」
「でも相手が何も話さないってことはお前のことよく思ってないってことじゃないのか?それってかなりやりづらくないか?」
中川さんから実際のことは聞いているがあえてこういったことを質問してみた。
「いや、こちらを明らかに避けて最低限の反応しかしないって感じではなかったと思う。なんていえばいいのかな、こちらを警戒するってよりかは単純に緊張して話せない、みたいな感じ?よく分からないな」
「ようするに人見知りな感じってことか」
「そう、それだ」
どうやら最初に俺が中川さん対して抱いていたのと同じような印象を優輝も抱いているらしい。
「でも相手が話さないって、ダブルス大丈夫なのか?」
「まあテニスは最低限の会話をすれば大丈夫だしなんとかなるだろ」
どうやら優輝は中川さんとは特に仲を深めようといったことは考えてないらしい。
すでに気になっている相手である和泉さんがいるので当然といえば当然だが。
とはいえ、優輝が俺から見た和泉さんに対する印象を気にしたように、俺も優輝から見た中川さんに対する印象が気になる。
「ところでその相手はどうだったんだ?」
「うん?それはさっき話したが?」
少し言葉が早とちりしてしまった。おかげで下校開始当初の会話を立場を逆にして繰り返した形になってしまった。
「いや、そうじゃなくて相手のルックスとかがどうだったかって話。お前ダブルスの話が出た後に俺にいってきたろ、一緒のペアになった相手とは仲良くなれるって。なんだかお前の口ぶりから察するに仲良くなりたそうな気配がないから実際どうだったのかと思ってな」
後半はなぜか言い訳っぽいことを長々と口にしてしまった。
「いや、それがその女の子自体はすごくかわいかったぜ。正直に言うと結衣ちゃんに匹敵するぐらい」
「じゃあなんで何もしないんだ?」
そういって優輝の考えを催促する。
「どんなにルックスがよくても会話がない以上一緒にいても面白くないし、どう考えたって結衣ちゃんと一緒にいたほうが楽しいよ。だから浮気するようなことはまずしないね」
やはりそうか。俺が前に考えた理屈を立証するかのような回答だった。
今の優輝からすれば、中川さんは和泉さんよりいい女かそうでないかの二択なわけなので、当然優輝が和泉さんのほうがいい女と判断した以上、これ以上二人の仲は縮まらないだろう。しかし、中川さんはこういったことを高校入学当初から味わっているのだろう。
それを経て、現在ボッチになっていると考えると、とても胸が苦しくなる。
「どうした?なんだか複雑そうな表情してるぞ。なんかお前の癪に触るようなことを言っちまったかな」
優輝がなんだか申し訳なさそうな表情でこちらを見てくる。
「いや、ぜんぜん大丈夫だよ」
「そうか。ならよかったわ」
そう言いつつ、俺はふと考える。
どうして俺はこんなに一人で中川さんのことを考えて、一人で同情して、一人で悲しくなってるんだ。
それはきっと、中川さんと会話をして、中川さんの考えを知って、中川さんの笑顔を見てしまったから。
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