9 男女混合ダブルス②

 男女混合ダブルス大会をすることになり、俺のペアは和泉さんになった。

 和泉さんとペアになること自体は別に問題ではない。問題なのは俺の心情が複雑なな点である。

 でも、少なくても今日から木曜までの四日間は一緒に練習するために和泉さんと関わらなければならない。

 優輝が気になる相手とは言え、それを理由に引け目を感じて、あまり関わらないようにするというのはお門違いな考えだろう。

 そんなことを考えて、一人で葛藤していると和泉さんから声をかけてきた。

「これまで、そんなに話したことなかったよね?」

「そ、そうだね」

「テニス部に入部してるってことは高校生になる前からテニスやってたの?」

「一応小学生の時からやってるよ」

「すごいなー。じゃあ、かなり上手そうだね」

「ある程度はできると思うけど、そこまで上手くはないよ。前回の大会でもベスト16だったし」 

 小学生の時からやってはいるものの、週に一、二回程度しかやっていなかったため、昔から一緒にやっている同級生の現在のレベルと比べると、俺のレベルは二、三段程度落ちるだろう。

「それでもすごいよ。わたしは高校からテニスを始めたからまだ全然下手で……だから早く上手くなりたいんだ」

「きっと毎日練習すればすぐにうまくなるさ」

 どうやら和泉さんは高校からテニスを始めた初心者らしい。確か今日のお昼休みのとき、澤田さんとの会話で前回の大会では一回戦で負けたと話していた。テニスはかなり難しい競技でうまくなるにはそれなりに時間が必要なので、一回戦負けというのも納得である。

 それにしても、和泉さんはかなりの向上心があるように感じられる。できれば早く上達してほしいものだと俺は純粋に思った。

「それで、これからどうする?とりあえずラリーするか?」

 ずっと立ち話するわけにもいかないので、俺は練習についてどうするかを和泉さんに提案した。

「そうだね。でも、わたしまだかなり下手だから変なところにボール飛ばしちゃうかも……」

「そういうことは気にしなくていいよ。最初はみんなそんなものだし。気楽にやろう」

「ありがとう。じゃあそうすることにしようかな」

 こうして俺と和泉さんのダブルス大会に向けた練習一日目が始まった。


 練習を始めて二時間ぐらいが過ぎ、今日の練習が終わった。

 今日はラリーや軽いゲーム形式での練習を二人でずっとしていた。

 一緒にテニスをしてみて分かったが、和泉さんはところどころではボールを変なところに飛ばすようなミスをしていたが、基本打ち返したボールは相手のコートに返っていたため、そこまで初心者という印象はあまり抱かなかった。

 これでも下手だというのだから、もしかしたら相当大会で負けたのが悔しかったのかもしれない。

 優輝から聞いた話や俺が直接見た和泉さんの印象は、明るくて可愛いといった感じだったが今日の一日でその印象は結構変わった。

 もちろん、明るくて可愛いのはその通りなのだが、かなりの努力家で負けず嫌いという性格も持ち合わせていそうなので、優輝が気になる相手になるのも納得であった。

 そんなことを考えながら、校門の近くで優輝が着替えから帰ってくるのを待っていると中川さんが俺の前を通ったので声をかけた。

「中川さん。今日の練習はどうだった?」

「・・・・・・」

 しかし、中川さんは口を開こうとはぜずにその場で足を止めた。

 そして、俺はそんな中川さんの姿を見て、何か言いづらそうな、かなりどんよりとした空気を感じていた。しばらく、中川さんの言葉を待っているとようやく中川さんは重い口を動かした。

「れ、練習自体は普通にやりましたよ。ですが……今日はお相手の方とはほとんど言葉を交わしませんでした。正確に言えば、私がテンパって言葉を発せなかっただけですが……」

 やはりそうなったか……優輝はかなり明るいやつだし、中川さんにとっては荷が重い相手だったのかもしれない。

「まあ、なんだ、自分のペースでその相手と打ち解けていけばいいんじゃないか」

「が、頑張ります。では私は帰りますね」

「うん、じゃあね」

 そう言って中川さんは一人で帰っていった。

 その後ろ姿を見つつ、ふと優輝の目に中川さんはどう映ったのかが気になった。

「おう、雅也。待たせたな」

 ようやく優輝が合流した。

「おせーよ、じゃあ帰るか」

「そうだな」

 そう言って俺はお互いに質問攻めをしあうような羽目になりそうな予感を感じつつ、帰路に就くのであった。


 

 

 

 



















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