26 自覚

「おまえ、さっきまでなかなか珍しいメンツで集まってたな~。なあなあ、どんな集まりなんだ?」

 教室に戻ると同じクラスメイトの晴人が声をかけてきた。

 察するに、さっき隣のクラスで集まって俺が優輝、中川さん、和泉さんと話しているのを目撃したのだろう。

「率直に言えばテニス部での集まりだな」

「へえ~テニス部か。夏休み中に何かイベントでもあるのか?」

「来週の月曜日からさっそく木曜日までの合宿があるんだよ」

 俺たちの学校は明日終業式があり、すぐに夏休みに入る。

 そして俺が所属しているテニス部では来週の月曜日から木曜日までの三泊四日の合宿がすでに予定されている。

「それは面白そうだな。好きな人とかがいるなら最高じゃないか。こっそり夜中に二人きりになったりとかなあ!」

 晴人が俺の話を聞いて、一人で勝手に盛り上がっている。

「あくまでいればの話だろ」

「あくまでいればの話って、前に和泉さんが気になるってお前言ってなかったか?」

「まてまて、そんなこと言った覚えはないぞ」

 とは言いつつも頭の中で考える。

 俺は本当は和泉さんのことが好きなのだろうか。

 しかし真っ先に思いつくのは和泉さん一人だけではなく、優輝と和泉さん二人の姿。

 それを考えて俺は理解した。

 きっと俺は優輝と和泉さんがうまくいくことを一番望んでいる。

「うん。間違いないな」

 自分に言い聞かせるように声に出した。

「へえー。そういえば、さっき和泉さんとは別にもう一人の女の子がいたよな。あの黒髪ロングのかわいい女の子、名前なんて言うんだ?」

「それって、中川さんのことか?」

「へえー、中川さんていうのか。実は俺、最近あの子のことが気になっててさ。良ければ紹介してくれないか?」

 気に……なってる……?

 紹介……してほしい……?

 これを言われた途端に、俺の頭の中が乱れていくのが実感できた。

 そして、さっきまで考えていた和泉さんと比較して、俺は嫌というほど自覚をしてしまった。

 

 それを自覚した途端にこれまでの会話全てが腑に落ちた気がした。

 そして晴人に対する返答も、考えずとも浮かんでくる。

「嫌だね。本当に好きなら自分から声をかけろ」

 本当に中川さんのこれまでのことを、現状のこと、そしてこれからのことを心の底から考えることができるのなら、もしかすると俺よりも晴人の方が中川さんにふさわしいのかもしれない。

 だけど明らかに下心が伝わってくる晴人に、俺は先越される気がまるでしなかった。

 初めての恋ではないけれど、初めての恋を感じている。

 今日の晴人との会話で、テニス部の夏合宿での俺のやるべきことが明確に決まった。

 


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