25 試験結果と後ろ姿
一組のホームルームが終わったため、俺と和泉さんは四人の中で最も結果が気になる優輝のもとへ向かった。
ちらりと中川さんの方を見ると、相変わらず周りには誰の姿も見えなかった。
しかし、少し前までの中川さんと比べると若干だが印象が変わったように感じた。もちろんいい意味でだ。
それはさておき、さっそく俺たちは優輝に結果を尋ねた。
「お前、結果はどうだったんだ?」
俺がまず初めに優輝に声をかける。
「来るのが早いな、って結衣ちゃんもいるのか」
俺には驚かないのに、なぜか和泉さんの存在には驚いていた。
「わたしも結果が気になっちゃって……」
「そ、そうか」
若干優輝が照れているように感じる。
俺の前でいちゃつくのは勘弁してほしいものだ。
「それで、結局のところどうだったんだ?」
「ちょっと待ってろー」
そう言うと優輝は机の中に手を伸ばして何かを探し始めた。
そして見つけると俺たちに自信満々に見せてきた。
「これを見ろよ!なんか想像以上にいい点数だったんだよ!」
優輝が興奮気味な様子で俺たちに訴えてきた。
テストの点数を見てみると、数学70点、物理67点、化学72点、生物75点と懸念していた理系科目は想像以上に良かった。ただ……
「英語52点、国語55点、社会科目の点数も英語と国語と大して変わらないし……理系科目はいいんだが、文系科目が低いなぁ」
「普段のおれからすればそっちも高い方なんだよ!むしろ理系科目が異常なんだよ。ついにおれの頭、覚醒したんじゃねーか?」
「覚醒したなら全教科八割ぐらいは取ってもらわないとな。和泉さんだってそれくらい取ってるんだぞ」
「え、そうなの……」
そう言って和泉さんの方を優輝は見た。
「わたしも英語以外は毎回7~8割ぐらいだよ。今回は英語も6割だったんだ!」
どうやら和泉さんも嬉しいのか優輝に明るい表情で話した。
「そ、そうなんだ……はは、、」
和泉さんのその言葉を受けて、優輝はだいぶショックを受けているようだ。
「だ、大丈夫だよ!私は今回の試験勉強をほとんど英語に費やしたわけで、優輝くんは理系科目全教科に試験勉強を費やしたわけでしょ。その場合、やらなきゃいけない勉強量は優輝くんの方が圧倒的に多いんだよ。それで理系科目全教科の点数を上げてる優輝くんはわたしから見ればかなりすごいよ!」
和泉さんが純粋な気持ちで優輝に言っていることは十二分に俺には伝わってきた。
だが……
「でも、おれは……」
やはり優輝の歯切れは悪い。だけど気持ちは分かる。
好きな女の子よりもテストの成績が悪いことを考えるとやはりやるせない気持ちになるのだろう。
「次のテストでいい点数取ればいいんじゃねえの。別に今回の試験は現在の学力を表している一種の指標にすぎないわけだし、これからいくらでも変えていくことができる。だから次もっと頑張れよ」
優輝の気持ちが分かるからこそのアドバイスを俺は送った。
「そうだな。次の機会もあるわけだし、今落ち込んでもしょうがねえよな。分かったぜ。だから雅也、次もテスト前の時は勉強を教えてくれ!」
「はあ、分かったよ」
「よっしゃー、ていうかよく考えれば普通に赤点は取らなかったわけだし、これで夏休みを全力でエンジョイできるぜ!」
「そうだよ!やったね優輝くん」
「ああ」
優輝のいつも明るい雰囲気が戻ってきた。
和泉さんも今の優輝と話している方が楽しそうだ。
そんなこんなしていると中川さんもこちらに近づいてきた。
「結果はどうでしたか?」
ひっそりと俺に声をかけてきた。
やはりクラスの中だと、どこか話しづらさがあるのだろうと感じられる。
「二人とも赤点は無かったよ」
「そうですか、それならなによりです。では私がここで話していても無駄に視線を集めるだけなので部活の時にまたお話しましょう」
「あ、ああ」
そう言って中川さんは俺たちからすぐに離れていった。
周りを見ると中川さんの自意識過剰……というわけではなさそうだ。
普段は無口で一人なわけだが、正直ルックスはかなり高い。
喋ったことはないが、気になってるという男は多そうだ。
逆に何もしてないのに視線を集める中川さんを良くなさそうに見ている女子も数人だが見受けられた。
このことについて中川さんはどう思っているのだろうか?
どうでもいいと思っているのだろうか?
それとも辛いと思っているのだろうか?
俺は中川さんの考えを知りたいと中川さんの俺から離れていく後ろ姿を見て、強く思った。
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