24 和泉さんの試験結果

 月曜日から水曜日にかけて行われた定期試験が終わり、今日はテスト返却日である木曜日。

 そして現在、俺のクラスではホームルームが終わり、待ちに待ったテスト結果を聞く放課後の時間が訪れた。

 部活はもう少し後の時間なのでテストの結果を聞く時間ぐらいは十分にある。

 そして俺がもっとも早く結果を知ることになるであろう人は、おそらく同じクラスである和泉さん。

 しかし、俺はクラスの中で和泉さんと話したことはない。

 テスト結果は夏のスケジュールなどにも影響を及ぼすため、今すぐにでも聞きたいわけだが、現在和泉さんは委員長であり友達でもある澤田さんと楽しそうに会話している。

 客観的に考えれば、クラスメイトAというような立場である俺が、クラスの人気者である二人に割り込むのはさすがにまずいと思い、和泉さんは後にして一組である優輝と中川さんの結果を先に聞こうと思い、教室を出ようとすると、後ろから肩をたたかれた。

「どこいくの?」

 振り返るとそこには和泉さんの姿があった。

「一組に行って優輝と中川さんの結果を聞こうと思ってな」

「じゃあ、わたしも行くよ」

「行くよって、さっきまで澤田さんと話してたんじゃ……」

「最低限のことは話したから大丈夫。それに、わたしだって優輝くんや中川さん、それに島崎くんの結果が気になるよ。だってテスト期間に一緒に勉強した、大切な友達なんだから」

 和泉さんがはっきりとした口調で俺に話した。

 和泉さんは俺たちのグループをとても大切に思ってくれていることが伝わってきたため、俺は純粋に嬉しく感じた。

「そっか、そりゃそうだよな。じゃあ一緒に一組に行こうか」

「うん!」

 そう言って、俺たちは一組に向けて歩き出した。

 もっとも一組は俺のクラスの隣だが……


「まだホームルームが終わってない感じだね」

「そうだなー」

 どうやら優輝と中川さんの結果を知るには、もう少し時間がかかりそうだ。

「そういえば和泉さんの結果はどうだったの?」

「ふふっ、逆にどうだったと思う?」

 自信ありげな顔で俺に問いかけてきた。

「さあなー、まあその様子なら結構良かったんじゃないのか」

 俺は率直な意見を述べた。

「なんと63点!平均点より高かったの!すごくない!?」

「まじか。全く英語できないのに平均超えちゃったのか」

「そうそう。暗記したところがそのまま問題に出てきたのが多かったおかげだよ。あの勉強法を考えてくれたのは島崎くんなんでしょ?栞ちゃんから聞いたよ。だからありがとね」

 ん?栞ちゃん?

「それは全然いいけど、中川さんのこと名前で呼ぶようになったんだな」

「一週間も一緒に勉強してればそりゃ仲良くなるでしょ。それにお互い名字呼びだとお互いになんとなく距離感じちゃうし。だからお互い名前呼びすることにしたんだよ」

「でも俺の前では和泉さんと呼んでた気がするんだけど」

 テスト前日に通話したときは確か和泉さんと言ってた気がする。

「おそらく名前呼びが照れ臭く感じたからじゃないかな~。確かに栞ちゃんが最初に結衣さんと呼んだときはとてもたどたどしかったもん」

 その場面を思い出したのか和泉さんはくすりと笑った。

「なんとなく想像つくな」

 そう言って俺もくすりと笑った。

「だよね~。栞ちゃんってほんとかわいいよね」

「そうだな~。あっ」

 話の流れで無意識に和泉さんの問いかけに乗ってしまった。

 今更失言に気付いてももう遅い。

「へ~。島崎くんも栞ちゃんのことかわいいと思ってるんだ~」

 和泉さんがニヤニヤした顔で俺を問い詰めてきた。

 控えめに言って凄い腹立つな。

「だったら悪いか。それに中川さんのことをきちんと見ることができる男なら百人中百人が中川さんのことをかわいいと言うと思うぞ」

 あくまでも客観視点での考えを述べる。

「ちぇー。そういうことじゃないんだけどなー。まあいっか」

 何がまあいいんだか分からないのでこれ以上は無駄な発言をしないように俺は黙り込んだ。

「あっ、そういえば島崎くんは英語のテスト何点だったの?十位以内常連なら八割ぐらいは取れてるよね?」

 さっきの会話が気に入らなかったのか、はたまた和泉さんが英語のテストで割といい点数を取ったと思っているからなのか、和泉さんは意地の悪い声音で俺に問いかけてきた。

「八割ぐらいもなにも俺は十割だったが」

「え、十割ということは……つまり百点!?」

「まあ、そうだが」

「ご、ごめんなさい。これからも日頃から英語の勉強に励みます」

 俺の点数を聞いた途端に和泉さんの声音から力が消えた。

「お、おう。頑張れ」

 どうやら少しだけ芽生えた自信が一瞬で消え去ったらしい。

 まあこれで和泉さんの勉強意欲が増加するのであれば万々歳だろう。

「あ、一組のホームルーム終わったね」

「それじゃあ聞きに行きますか」

 そう言って俺と和泉さんは一組のクラスに足を踏み入れた。

 

 

 

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