30 方針

 ミーティングが終わればすぐにテニスができると思っていたが、予想と反してその後は弁当が手渡され、昼食の時間となったため、テニスをするのが結局午後からになってしまった。

 そして現在は球出しやサーブ練習などの基礎練が終わり、練習が試合形式となっていた。

 俺が今何をしているかというとテニス……ではなく日陰のベンチで優輝と和泉さんが試合しているのを見学していた。

「それにしてもお二人はよくこの暑さの中、ずっとテニスができますよね」

「だな。基礎練だけでぶっ倒れそうになった俺たちとは違う」

 隣に座っているのはもちろん中川さんであり、俺たちは基礎練だけで倒れそうになったため、現在は休憩中である。

 ふと中川さんを見る。

 いつもの結んでいない長いつやのある綺麗な黒髪はポニーテールに結ばれていた。

 俺はいつもの姿の方が好みだが、このポニーテール姿も真新しさと色っぽさが出ていてとても魅力的に思えた。

 プランに変更が無ければ、すぐにでも合宿前に立てた計画を実行したいところだったが優輝との約束ができたため、今は本命に考えていた行動をすることができない。

 なので優輝の件は最低でも明日の夜には決着をつけたい。

 そのためにも優輝の件は早めに中川さんに伝えなければならない。

「中川さん」

 そう言って俺は中川さんを真剣なまなざしで見る。

「な、なんでしょうか。改まって」

 若干だが中川さんに動揺が見える。

 一体何に動揺しているのか皆目見当がつかないが今はスルーだ。

「実はさ、ちょっとお願いしたいことがあって」

「そ、それは何ですか?」

「それは……」

 そして俺は中川さんに優輝が和泉さんが好きなこと、そして合宿中に告白するのを俺と一緒に手伝ってほしいということを伝えた。

「なんだそういうことでしたか。それなら全然かまわないですよ」

 あっさり手伝ってもらえるという返事をもらい、こちらとしては万々歳なわけだが中川さんがどういうことをお願いされると思っていたのかだけは若干だが気になった。

 とはいえ今はそんなことを気にする意味はないため、それよりも計画を考えることの方が先だろう。

「でも、具体的にどう手伝うつもりですか。話を聞くに私たちにできることはそう多くはないように感じるのですが」

「そうなんだよなー。優輝に頼まれたのはいいけど俺たちに手伝えることってなんだろう」

 確かに中川さんの言うことは最もであり、優輝が和泉さんに想いを伝えるのが全てであり俺たちにできることがあるのかは疑問ではあった。

 俺たちは少しの間考えを巡らせて沈黙の空間を作り上げていたが、そんな空間を破ったのは中川さんであった。

「告白するのに最適な場所を探すのはどうでしょうか。やっぱり告白するシチュエーションって大事だと思うんです」

「なるほど、確かにそれは大事だね。あ、ならそれに加えて告白する時刻とかも重要なんじゃないか?朝、夕方、夜それぞれの時間帯で周りのシチュエーションとかも全然違うと思うんだ」

「確かにそうですね。では私たちのやることは告白するのに最適な場所のピックアップとその場所で告白するのに最適な時間帯を見つける。でいいでしょうか?」

「いいんじゃないか。じゃあさっそく夕食前と夜にそれぞれ近場を探索してみるか」

「ですね。確か今日のテニス練習は午後の五時までで夕食は午後の六時半から。なのでこのテニスの練習が終わり次第一時間半ほどの自由時間があるのでまずはその時間で探索してみましょうか。この時間に何か島崎さんは予定とかはありますか?」

「いや、特にないよ。じゃあそれでいこうか。くれぐれもこのテニス練習でこの後歩けないほど体力を消耗しないようにしないとな」

 俺はそう言いながらラリーの死闘を繰り広げている二人を見た。

「ですね」

 そう言って中川さんも二人の姿を見た。

 なんとなくだが中川さんと意思疎通が取れた気がする。

 あの二人のように熱い気持ちでテニスをすることはもうできない、と。

 もう二人と一緒のフィールドに立つことはできない、と。

 これから手助けをしようとしている二人と俺たちはどこか距離を感じる。

 でもそれは声に出して言う必要がないこと。

 そんなところだろうか。

 そんなこんなで俺たちの合宿での最初の方針が決まったのであった。



 

 

 

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