28 優輝の決意

 夏休みに入り、あっという間に夏合宿が始まる日がやってきた。

 カーテンを開けると、夏らしい力強い日差しが降り注いでいる。

 朝八時に学校集合であり、そこからバスに乗って移動するため、まだ時間に余裕がある。

 なので一通り、夏合宿でやろうとしていることの確認を済ませる。

 実際に合宿が始まってみないことにはなにも分からないが、スケジュール表を見るにおそらくだが自由に使える時間は夜時間や朝ごはんまでの朝の時間、あとは水曜日の自由時間。

 行動を起こすのであればこのいずれかの時間を使わなければならないだろう。

 とはいえ俺が自由にその時間に動くことができたとしても、相手がその時間を自由に動くことができるとは限らない。

 結局のところ、どのように事を運ぶかを想像することはできても、実行できるとは限らないのだ。

 そのため、状況を把握して臨機応変に計画は変えていく必要が必ずあるだろう。

 うまくいくかどうかは知らないが、どうか合宿が良い結末を迎えてほしいと心のどこかでそう願った。


「おい雅也、来るのが遅いぞ」

 どうやら優輝、中川さん、和泉さんの三人は俺が集合場所に着くとっくの昔に集合場所に着いていたようで、優輝にダメ出しの言葉をもらってしまった。

「悪い悪い、ちょっと寝坊してな」

「こんな楽しみなイベントに寝坊するとは、なんていうか雅也って感じだな」

「俺って感じってどんな感じだよ」

「ふふっ、なんとなくわかる気がします」

 なんと優輝の言ったことに対して、中川さんが乗ってきた。

「わたしもなんとなくわかるな~、ほんと島崎くんって感じ」

「ははっ、だろー!」

 和泉さんも乗ってきたせいで、優輝が調子に乗ってしまった。

 とはいえみんな楽しそうで何よりである。

 この合宿で俺が何らかのアクションを起こせば、この光景はもう金輪際見ることができないかもしれない。

 この光景を壊してしまうと考えると、どこか胸がチクりと痛む。

 だけど一度芽生えてしまった想いは止められない。

 友情など軽々と超えてしまうほどに。

 

 そのまま流れに任せてバスに乗車した。

 俺が窓側の席に座り、隣には優輝が座っている。

「ああー、楽しみだなー」

「そうだな」

 優輝はずっとそわそわしていた。

 最初は純粋に楽しみだからだと思っていた。

 だが、どこかいつもの優輝とは違った雰囲気を感じられた。

 会話が止まり、俺は窓の外を眺めていた。

 移り変わる緑の風景を見て、夏だなと感じていると

「雅也」

 と優輝から何か覚悟が決まったような声音で俺の名前が呼ばれた。

「なんだ」

「今の四人グループは楽しいか?」

「ああ」

 楽しいに決まってる。

「このままも続いてほしいか?」

「ああ」

 続いてほしいに決まっている。

「ごめん」

「なんで急に謝るんだよ」

「おれが四人グループを壊してしまうかもしれない」

「どうして?」

 俺は優輝の続きの言葉を促した。


「この合宿中におれは結衣ちゃんに告白しようと思っているからだ」


 どこか強い意志を持つ眼差しで、俺に言い放った。

「おれはさ、勉強会とか下校中とかで実際に結衣ちゃんと話していて改めて思ったんだ。おれはこの人のことが好きなんだ。もっとこの人のことが知りたいってな。だからみんなには悪いけど、おれは結衣ちゃんに告白しようと思う。成功しても失敗しても、多分今のような四人組には戻れないと思う」

 それを話す優輝の姿は、とてもいつもの元気な優輝からは想像できないような様子だった。

「だからなんだ?」

 俺はわざとらしく強気に優輝に問いかけた。

「だからって……」

 珍しく、優輝は言葉に詰まっているような様子だった。

「だから許してほしいのか?違うだろ。お前が告白すると決めたんだろ。だったら、俺たちのことなんて気にせず、全力でいけ。俺も中川さんも手伝うぜ」

 俺は心を無にして、優輝が欲しているであろう言葉をかけた。

「雅也……ありがとな!」

「おう」

 俺はなんてペテン師なのだろう。

 優輝は俺に正直に和泉さんに告白したいと話してきた。

 じゃあお前は何だ。

 優輝が和泉さんに告白することを決めなければ、勝手にグループを壊していたのではないだろうか。

 俺はグループのことを考えているつもりで本当は自分のことしか考えてなかったと今回の優輝との会話で痛いほどに実感した。

 そんな俺が中川さんと付き合う権利なんてあるのか考えてしまう。

 だから贖罪のつもりで、優輝の告白がうまくいくように全力でサポートしようと心の中で決意した。

 しかしこの瞬間、夏合宿で俺のやるべき大きなことが一つ増えたため、開始早々に自分の立てた計画は崩壊したのであった。


 




 

 

 

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