4 まさかの流れ

 中川さんに対する俺のイメージとの違いに驚きつつも、とりあえずは会話に沿って進めることにした。

「その、クラスで一人って辛くないのかなと思って少し考えてたんだ」

 全くそのことについては考えてなかったが、中川さんがボッチになった経緯を自分なりに考察してたなんて口が裂けても言えるわけがない。

「そ、そうですか。そうですね……確かになにか懸念点があるときに誰にも相談できないのは辛いかもしれません。でも基本的にクラスにいるときは授業を受けるだけですからそこまで辛いわけではありませんよ。むしろ一人なのが楽なくらいです。お昼を食べるときに多少寂しいと感じるときはありますが……」

 どうやら思ったよりボッチでいることを苦と思ってるわけではなさそうだ。

 わりとボッチでいることを気にしている感じだったが、先輩にそう思われたくなかっただけらしい。でも、なんとなく気持ちが分かる気がする。ボッチであることを知られたら先輩は気をつかうだろうし。

「そうなんだ……」

「……」

 まずい、なんて返したらいいか分からず会話を止めてしまった。

 何か話さなければ……

「そういえば、中川さんはどうしてテニス部に入部したの?」

「単に中学のときにテニスをやっていたからですよ。でも、だからといって全然うまいってわけじゃなくて……」

「じゃあもっとうまくなりたいからテニス部に入った感じ?」

「そう思うのが普通でしょう。でも、私はそういうたいそうな理由じゃなく、テニスをただやりたくて入っただけなんです。特別練習しようなんてことはあまり考えてないんです。もしかすると本気でうまくなろうとしている人にとって私の話は不快かもしれません。もし島崎さんの気を悪くしてしまっていたらごめんなさい」

 確かに本気で部活に打ち込もうと考えている人は一定数いるだろう。中川さんの考えが気に食わないという人もいるかもしれない。でも、俺はどんな理由で部活に入ってもいいと思う。

「俺は全然大丈夫だよ。むしろ俺も中川さんよりの考えかな。そのスポーツが好きだから入部するっていうのも立派な理由だと思うよ」

「そうですよね。ありがとうございます。少しは自分の入部した理由を前向きに捉えられるようになった気がします」

 そういえば、初めはたどたどしかった中川さんの口調も今は治っていた。聞くつもりはなかったが、ふとさっき考えた疑問について話してみようと思った。

「それならよかったよ。ところで話は変わるんだけどさ、中川さんってもしかすると人と話すのが好きだったりする?」

 それを聞いて中川さんは目を丸くしていた。

「どうしてそう思ったのですか?見たらわかると思いますが私は人と会話するのが苦手ですよ」

「そう思った理由はこの会話だよ。俺が中川さんに質問するとけっこうしっかりと返してくれるよね。だから中川さんは人と会話するのが苦手っていうけどその人っていうのは初対面の人っていう意味なんじゃないかなと思ってね」

 俺の答えに中川さんはさっきよりも目を丸くしていた。

「凄いですね。全くもってその通りです。私はかなりお喋りなんです。でも、初対面の人じゃないからといってお喋りになるわけではありません。最近ようやくどういった人に対してお喋りになるのかが分かりました」

「その人って…?」

「うーん。今はまだ秘密です」

 そう言いつつも、少し中川さんが微笑んでいた。

「えー」

 とても気になる。その人というのに俺も含まれているわけだし。

「よし、二人ともそろそろ店を出て解散にしようか」

 ここからって時に部長から声がかかった。


 外に出たとき時刻はすでに午後八時を回っており、ひんやりとした空気を肌で感じた。

 ほかの席のグループとはどうやら別行動のようだった。

「ではまた部活の時にな。二人とも」

「島崎くん、中川さん。またねー!」

 部長と宮内先輩はどうやら一緒に帰るらしい。あまりにも自然に映ったため、これは二人の仲を疑っても許されるのではないだろうか。

 そして、俺たち二人はその場に取り残された。

「とりあえず、一緒に帰る?」

 女の子を夜中に一人で帰らせるのはどうかと思い、咄嗟に声をかけてしまった。

「そ、そうですね」

 しかし、返事はまさかのOK。

 流れにまかせて会話を進めた結果、二人きりで帰ることになってしまった。

 

 


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