3 安直なイメージ

「な、中川さん」

 緊張しているせいか、少したどたどしくなってしまった。

「な、なんでしょうか...」

 案の定、たどたどしい返事が返ってきた。相手のほうが緊張してると分かると自分は逆に冷静になる時ってあるよね。俺は緊張しつつもいつもの調子にかなり近づいた気がする。

「同じ一年だよね。クラス何組なの?」

「い、一組です」

「そっかー、ちなみに俺は二組だよ」

 クラスが違うのなら知らないのも納得だ。しかし、一組の男連中はこんなにもかわいい人がいるのになんの音尾沙汰もたてないとはよっぽど意気地なしばかりなのか?それとも……

 少し気がかりなので少々踏み込んだ質問をしてみることにした。

「そういえばさっき友達はほとんどいないって言ってたけど、逆にいえば少しは友達いるってこと?」

「いえ……ほとんどというのは言葉の綾というか語弊があるというか……」

 これはなんていうか、、、緊張というよりかはむしろ普通に口ごもっているといった感じだ。さっきとは少しばかり雰囲気が違うことを感じつつも俺は言葉を待つため、黙って沈黙を続けることにする。

「単純に友達が一人もいないと思われたくなかっただけです……」

 沈黙に耐えかねてか、ボソッと話した。

 中川さんがしゅんとなって、小動物みたいになっている。

 まさかほとんどいないというのが単に中川さんが意地を張っていただけだったとは…

 俺はその友達っていうのがかなりの悪女かなにかで間接的に中川さんをいじめてるのかと深読みしてたけど全然違ってたわ。

 ていうか中川さんの意地張ってる動機かわいすぎでしょ…

 それはともかくとして、まだ話しそうな雰囲気を感じるので中川さんが話の続きをするのを待っていると…

「実は私のクラスは明るい女の子が多くて、私はこんな性格なのであまりクラスに馴染めなかったんです。最初は気を使って話してくれた子もいましたが徐々にそういった子も減っていき、最近ではほとんど一人でいます。でも、その話してくれなくなった子を攻めてるわけではありませんよ。様々な話題の話ができる明るい女の子たちのいるグループと内気で話の弾まない私なんかとでは、どちらと一緒にいたほうが楽しいかどうかなんて一目瞭然に決まってます。そして男子もその女の子たちと話している場面をよく見ます。その女の子たちの中にはかわいい子がたくさんいるので色恋の噂もちらほら聞こえてきます。男子にとってみれば私のことなんて眼中にないことでしょう。こういった経緯で私は一人ぼっちになってしまったのです。すみません、面白くもない話をこんなに長々と語ってしまって……」

 話を聞く限りだと、どうやら中川さんはクラスの中では生粋のボッチのようだ。クラスに友達がいないというのはあまりいい状況とは思えないが、ひとまずはいじめられてないということが分かったので安心した。

 しかし俺はもっと違うところについて考えていた。それは中川さんの周囲についてではなく、中川さん本人についてである。

 さっきまでの会話や調子、口調などから中川さんには友達がいなくてもあまり気にしない天然系な感じのイメージを俺は抱いていたが、意外と普通に状況把握できてそうな感じはする。それに話し方であっても、さっきまではおどおどしており、そもそも普通に会話を展開することができるのか不安なレベルだったが、今回の自分のことを語っているときはおどおどしている様子はなく、むしろ生き生きと語っていたくらいだ。

 思うに、中川さんは内気といってもそれはずっと内気というわけではなく限定的というか、言い換えれば極度な人見知りといった感じなのではないだろうか。むしろ、少しでも会話をする間柄になればわりとおしゃべりさんになるような気がする。しかし、人間関係というのを確立するうえで第一印象というのはかなり重要である。俺は中川さんと会話をしなければならなかったために会話をして、結果としてこういった中川さんの内面について知ることができた。だが、仮にクラスで友達作りをするといった場合を考えるとどうだろう。この場合、視点を中川さんではなく友達づくりをしようと中川さんやそのほかの人に話しかけようとしている人にすると分かりやすい。

 まず、その人は中川さんに話しかけたとしよう。しかし中川さんは極度な人見知りだ。当然会話はうまく弾まない。その人は中川自身さんに興味があるわけではなく、いわば友達にしたい人を厳選している立場だ。当たり前だが、いい感じに話を打ち切り、別の人と会話をしに行くだろう。仮にその別の人が明るく話が弾んだならば、その人と仲良くしていこうと思いこれからも話すようになるだろう。つまり第一印象があまりよくないであろう中川さんは友達の厳選段階で打ち切られて以降話しかけられない。このループを打破するには中川さんが自ら誰かに話しかければ解決する話だが、これは極度な人見知りの中川さんにとってみればかなりハードルは高いだろう。その結果、誰も中川さんの内面を知ることがないため、コミュ障だと思われておりボッチになっているのではないだろうか。

「あ、あの…な、なにか返事を返してくれないと私としてはかなり気まずいのですが…」

「あ、ごめん。ちょっといろいろと考え事しててね……」

 中川さんに話しかけられて我に返った。中川さんが自分の印象と違うということを考えていたはずがボッチになった経緯についての考察へと完全に考えが脱線していた。冷静に考えればそんなこと今の状況では心底どうでもいい話だ。

 とはいえ、今回の件で俺は安直な少しのイメージだけで人を判断していたことを悔いた。これでは、自分にとって大切な人になるであろう人と出会っても少しの勘違いでその機会を棒に振るかもしれない。これからは初対面の人と出会ったとき、様々な会話はしてからその人を判断しようと心に誓ったのであった。

 

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