33 広場の奥にある場所
海岸から宿に戻ってくるころにはすっかり太陽が沈み、あたりは電灯などの灯りがあるところ以外は真っ黒に染まっていた。
現在の時刻はちょうど午後六時頃であり、夕食の時間まではあと三十分ほどしか残っていない。
とはいえ広場は宿から至近距離にあるため、五分前にでも戻れば大丈夫だろう。
いざ広場の中へと思いながら広場の入り口に到着すると、そこから見える景色はさっき宿から海岸に行くときと比べると大きく変化していた。
「先ほどよりかは人は減っていますが……どこか入りづらさを感じますね」
「ああ……そうだな」
俺と中川さんが今の広場を見て感じる感想はどうやら同じだったらしい。
広場は中心に噴水があり、外側にはいろいろな花が咲いていたりところどころに大きな木があったりしてとても俺好みの場所ではある。
しかし入りづらさを感じる原因はところどころにあるベンチに座っている人たちである。
どのベンチにも男女が座っており、客観的に見ればどう見てもカップル同士であった。
とはいえ優輝のためにも広場の構造の把握や穴場スポットは見つけておきたい。
「まあ俺たちも一応男女だし入っても別に不自然には思われないだろ」
俺は気恥ずかしい感情を殺して中川さんに向けて口を開いた。
「そ、そうですね。そうですよね。で、では遠慮なく入りましょうか」
どこかたどたどしく歯切れの悪い返事が中川さんから返ってきた。
とはいえ辺りは暗く、中川さんの表情はよく見えない。
それはさておき俺たちは意を決して広場に足を踏み入れた。
「広場はけっこう灯りがあって助かったな」
「ですね。ここからでも花や木がよく見えます」
広場が真っ暗では告白以前の問題なのでそこは心配なさそうでひとまずは良かった。
「とはいえここは人も多少いるし告白するにはちょっと微妙かな」
「確かにそうですね。広場の中だとどうしても人がいれば見られてしまいますし」
どうしたものかと広場の中を歩きながら考えていると気になるところを発見した。
「なあなあ、よく見るとあの木とあの木に挟まれたところに抜け道がないか?」
俺は指をさして中川さんに知らせた。
「確かにそう見えますね」
中川さんはその場所を見て頷いた。
具体的な場所を言うと広場の一番奥であり、そこには一列に大きな木が立っていて遠くから見ると一見行き止まりのように見える。
しかし近づいてみると木と木の間に不自然な空間ができていることを発見することができた。
「ではさっそくは行ってみましょうか」
「だな」
広場の抜け道を通った先には広場よりさらに大きな自然が待ち受けていた。
至る所に木々があって、噴水がない分、一面が緑に染まっていた。
ところどころに灯りもあるため、なんとなくそう認識することができた。
「広場よりも自然……だな」
「ですね」
俺たちはその景色を見て感嘆していた。
まさかこんなにも自然な場所があるとは思ってもいなかった。
あたりを見渡すと人影はなかった。
さっきの広場もある程度の広さはあるため、初日でこの場所を発見できた人がおそらくいなかったのだろう。
「ここならかなり広いし告白する場所に適してるんじゃないか」
「確かに人に見られることはなさそうですね」
「だけどここも今は人がいないだけで知れ渡れば人は来るだろう。幸いまだ気づいてる人はいなそうだけどできれば告白するなら明日とかがいいな」
「早いに越したことはなさそうですよね。とはいえ告白するタイミングはあくまでも横山さんが決めることですから、横山さん次第にはなっちゃいますが」
確かに中川さんの言う通りだ。
「だよなー。でもここもさっきの海岸の場所とは雰囲気は違うけどいい場所なのは間違いない。紛れもなくここも候補の一つだな」
「それは間違いないですね」
俺の考えに中川さんも賛成のようだ。
「じゃあ今日俺たちが見た場所はあとで優輝に教えておく。その時に優輝の考えも聞いておくからこの話の続きはまた今夜にしようぜ」
「分かりました。ではよろしくお願いしますね」
「まかせろ。じゃあ夜に連絡頼むわ」
「はい」
その後俺たちはすぐ宿に戻り、なんとか夕食には間に合った。
どうか優輝の告白に今日の俺と中川さんの探索が役に立ってほしいと思うばかりであった。
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