50 屋台
優輝、栞、和泉さん、そして俺の四人で祭りに来て、とりあえずは屋台を一周見て回ろうということになったわけだが、回りはじめてすぐに人混みのせいで俺と栞、優輝と和泉さんの二手に分散する羽目になってしまった。
「それで、俺たち二人きりになったわけだがあらためてこれからどうする?」
そう栞に尋ねると、少し考えるようなそぶりを見せてから口を開いた。
「とりあえずはさっきと方針は一緒で屋台を見て回りませんか。その後に花火を見るための場所探し、でどうでしょうか?」
「いいんじゃないか。屋台で買った食べ物を食べながら花火を待てばよさそうだし」
今日はこの町ではこの夏祭りだけでなく、花火も打ち上げられる。
なので花火を見るためのスペースも設けられている。
「そうと決まればすぐに行きましょうか。できるだけ早めに行った方が花火を見る場所も確保しやすいでしょうし」
「そうだな」
とはいえこのまま人混みに二人で突っ込んでいても、また切り離されるのが落ちだろう。
そう思い、俺は迷わず栞の手を取った。
「雅也……さん?」
栞は急な出来事に驚いたような表情でこちらを振り向いた。
「今は二人もいなし、また人混みのせいで離れ離れになるのは嫌だから。それに、それ以前に俺たちは付き合っているんだから、これくらい普通だろ」
俺は栞と手をつないだことからくる緊張を紛らわすように、手をつないだ理由を咄嗟に言った。
それを聞いた栞は少し顔を赤らめて、
「そうですね。では私を離さないでくださいね」
と安心したような表情で答えた。
「もちろんだ」
こうして俺たちは再び屋台を回るために人混みに飛び込んだ。
「おいしそうなものがたくさんありますね。一体何を買ったらいいでしょうか?」
歩きながら栞が呟いた。
確かにやきそば、お好み焼き、たこやき、ポテト、焼き鳥、フランクフルトなどの夜食にするには定番のメニューを提供している屋台から、かき氷、りんご飴、チョコバナナなどの夏祭りといえばこれと言われるようなメニューを提供している屋台まできっちりと出揃っていた。
とはいえ全部食べるというのは金銭的にも腹具合的にも不可能だ。
ならばどれを食べるかビシッと決断するしかないだろう。
とはいえ俺が今夜食べようと思っているものはすでに決まっていた。
「俺は焼きそばにしようかな。昔からそうなんだけど俺は夏祭りに来ると無性に焼きそばが食べたくなるんだよなー」
「あ、なんとなくわかる気がします。そういわれると私も焼きそばが食べたくなってきました」
「じゃあ焼きそば二つ買うか。他に何か食べたいものある?」
そう訊くと栞は首を横に振った。
「よし、それじゃ焼きそば買って花火を見る場所を探しに行くか!」
「はい!」
こうして俺たちは屋台を一周見た後で、なんとなく一番印象に残った屋台で焼きそばを買った。
そして花火を見る場所を確保するために探し始めたのだが、
「すべて埋まってる……だと……」
どうやら考えが甘かったようだ。
公共で提供しているスペースはどこもぎっちりと人で埋まっていて、俺たちが座る余地は全くもって存在していなかった。
「ど、どうしましょうか?」
「はは、どうしようか……」
ここまで探しておきながらさすがに立ちながらは嫌だろう。
それにそもそも焼きそばもある。
こうして俺たちは新たな問題に頭を抱えるのであった。
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