17 勉強会②

 リビングに戻ると楽しそうに優輝と和泉さんが会話を弾ませていた。

「お、雅也戻ったか。やれって言われたところは全部終わらせたぜ」

 俺の存在に気付くと、優輝は俺に何か文句を言われると察したのかやることはやったと自信ありげに主張してきた。

「じゃあ見せてもらうぞ」

 自信ありげな優輝をよそに、俺は優輝の答案に目を通した。

「全問当たってる……」

 口だけだと思っていたが、答案を見せてもらうと見事にすべて当たっていた。どうやらきちんと教えればできるようになるだけの理解力はあるらしい。

「雅也の教え方がうまかったからだと思うぜ。ありがとな」

 そう言って優輝は俺に満面の笑みを向けた。

 そうダイレクトに言われると少し気恥ずかしい。

「まあ、教えることはまだまだあるから頑張っていこうぜ」

「そ、そうだな」

 これからの話をすると優輝はあからさまに嫌な顔になった。

「まあまあ、もうとっくにお昼の時間だしいったん休憩にしようよ」

 和泉さんに言われて時計を見ると、気づけば時刻は午後一時を回っていた。

 さすがにみんな疲れが出てくる頃合いだろう。

「それもそうだね。二人ともお疲れだろうし」

 和泉さんの提案に方針が固まると同時に中川さんがリビングに帰ってきた。

「今からお昼にしようと思うんだけどいいよね?」

 和泉さんが一応中川さんにも確認を取る。

「ええ、いいですよ」

 中川さんも即答だった。

 あれだけ悩んでいたのだから疲れが出ているのも当然だろう。

「それで、お昼は具体的にどうするんだ?」

「それはわたしが作るよ」

 俺の質問に和泉さんが平然と答える。

「和泉さん、料理できるんだー」

「すげえー」

 和泉さんが料理できることに対して俺と優輝が感嘆の声を漏らした。

「いやー、大したものは作れないよ。カレーにしようと思うんだけどみんないいかな?」

 そう言って和泉さんは俺たち三人を見た。

「いいよー」

 俺はカレー自体好きだし、料理を作ってもらえるのが何よりありがたいので文句を言う余地はない。

「いいぜ!」

 優輝は返事を聞くだけでもテンションが高まっているのが窺える。

「いいですよ、何か手伝いましょうか?」

 やはり和泉さんだけに作らせるのは申し訳ないと思っているのか、中川さんは手伝うことを提案した。

「せっかくだし、お願いしちゃおっかな」

「ええ、喜んで」

 手伝えることに中川さんもうれしそうである。

 俺たちも手伝えたら良かったのだが、あいにく料理スキルは皆無なので手伝っても足手まといになるだけだろう。

「じゃあさっそく料理に取り掛かろっか。二人は少し待っててね」

 そう言って二人はキッチンに向かっていった。


 二人が料理を始めてしばらく経った。

 俺たちは現在リビングのソファーに座って料理ができるのを待っている状況である。

「それにしても二人仲がよさそうだね」

 二人が料理している姿を見て俺は声を漏らした。

「ああ、目の保養になるよなー」

 優輝も俺と同じく声を漏らした。

「ああ、すげえわかる」

 美少女二人がエプロン姿で仲睦まじく料理をしているのだ。

 この光景を見るのが嫌いな男はこの世に存在しないだろうと俺は思う。

「中川さん、最初にあった時と比べるとかなり変わったよな」

 優輝が何気なく声を漏らした。

「さあな。俺はダブルスの時に話したわけじゃないから分からないけどお前がそう思うならそうなんだろうな」

 でも俺は中川さんが変わったとは正直思わない。

 おそらく優輝のような初対面の人やこれまであまり関りがなかった人がみる中川さんは本当の中川さんじゃない気がする。

 じゃあ本当の中川さんって?

 今の口数は前とあまり変わらないけど和泉さんと料理を楽しそうにしているように見える中川さん?

 それとも俺と話すときにたまに饒舌になるときが本当の中川さん?

 一体どの中川さんが本当なのだろう。もしくは全く別物なのだろうか。

 優輝の何気ない話から俺はそんなことを考えながら二人の料理が完成するのを待つのであった。



「めちゃくちゃうまい!」

「確かになー。すごくおいしい」

 和泉さんと中川さんが一緒に作ったカレーを食べて思わず優輝と俺が声を漏らす。

「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。でも中川さんが作る手順とか教えながらやってくれたからこんなに上手にできたんだよ。中川さん、ありがとね!」

「いえいえ、下ごしらえとか実際に料理してたのは和泉さんですよ。私一人ではこんな上手にできませんでした」

 俺たちが料理をほめると二人はお互いにお互いをほめだした。

 だが二人とも嬉しそうで楽しそうであるからまあいいだろう。

「なあなあ、二人ともあんなに可愛くて料理もできるとか最高すぎないか?」

 小声で優輝が話しかけてきた。

「急にどうした。もしかして二人とも好きになったのか?」

 俺は冗談めいた声で優輝に質問を返した。

「まさか。どっちもいい人だと思うけど恋愛としてはこれまで通り結衣ちゃん一筋だぜ」

 優輝が自信満々に答えた。

「なるほどね。まあぼちぼち頑張れよ」

「おうよ」

 どうしてだろう。優輝の答えになぜか安心している自分がいる。

 俺は一体何に安心しているのだろうか。

 だが今こんなことを考える必要はないので、俺は考えるのをやめようとカレーを口に運ぶのであった。

 

 

 

 

 


 


 

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