6 意地っ張りの興味
テニスの大会やその打ち上げ、そして中川さんと二人きりで帰ったことなど盛りだくさんだった一日が終わり、今時刻は午後十時を回っており、普段の俺にとってあとは寝るだけという時間帯である。そして俺は怒涛の一日であった今日のことについて振り返っていた。
「今日はいろいろとあったなー」
と口でぼやいたものの、考えることのほとんどは中川さんについてのことであった。
そしてきわめつけは、今俺のスマホに映っている中川さんのLINEのアカウント。
「まさか交換できるとはなー」
正直今思い返してもびっくりである。勢いで交換してしまった。しかも、あの時は散々中川さんに対して恥ずかしいことを言って…
「あーくそ、なんであの時俺はあんなに気になる気になると連呼してたんだ。しかも、初めて会った日なのに。ばかじゃねーのまじで、これじゃ俺が中川さんを好きだと言ってるのと同じようなものじゃねーかよ、冷静に考えたら。あーきつい」
案の定、帰りでの会話を思い出して悶絶していた。予想していたとはいえ、やっぱり死にたくなる。
「中川さんが好き、か」
口に出してみてふと考えてみる。確かに中川さんはかわいいと思う。だが、今の俺の中に中川さんに対する恋愛感情があると考えるとどうだろう。正直よくわからない。そもそも恋愛感情ってなんだ。相手をかわいいと思えば、それは恋愛感情なのだろうか。いや、それでは男はみんな常時数人好きな人がいるという状況になり、この世にまともな男がいないという世界が完成してしまう。
ふと中川さんとのLINEのトーク画面を開いてみる。
『今日はありがとうございます』
『こちらこそ。今日は楽しかったよ』
『私もです』
社交辞令のような質素な文章が並んでいた。さすがに交換した日の夜中になにかメッセージを送るのは、今の俺にとってはハードルが高すぎる。
「~~~~~♪」
急な着信音に心臓が飛び出しそうになった。一瞬ドキッとしたが電話をかけてきている相手を見て肩の力が抜けた。
「もしもし」
『お、もしもし』
「で、こんな夜中にどうしたんだ?優輝」
そう、電話をかけてきたのは友人の横山優輝であった。
『いや、雅也は今日の打ち上げどうだったのかとおもってな』
「どうって……まあ、楽しかったよ」
『そうかそうか、あんなに乗り気じゃなかったお前が楽しかったって言うんだ。勧めて良かったよ』
「その節はどうも」
実際に優輝が勧めてくれたおかげで俺は打ち上げに行くことになった。その点は感謝している。
『で、どうなんだ??実際に好きな子はできたのか?』
陽気な口調で優輝が聞いてくる。
「さあな」
しかし、こいつの思った通りに物事が進んでいることがあまり気にくわなかった。
なので少しばかり誤魔化したくなった。
『お?その反応はできたのかー、できたんだな~』
「できてないよ。残念ながらな」
『え~、じゃあ気になる子とかは…』
「できてない」
次々と聞いてくるので俺はむきになってなおも反抗した。
『さっき「さあな」って言ったじゃんか~』
「少しばかり見栄を張りたくなったんだよ」
「さあな」といった理由さえ気になる人がいないことを裏付けるために利用してしまった。俺は優輝に対してことごとく反対のことを言ってしまった。
『ふーん』
「お前はどうなんだよ?お前も今は確か彼女いなかったよな?」
俺への話題からそらすために、優輝に話題をふった。
『俺?気になる人できたよ』
「まじかよ。ほんとうに?」
『ほんとうだよ。なんなら名前も言えるよ』
まさか優輝にできていたとは……
でもこういうのは無性に聞きたくなるものである。
「じゃあ教えてもらおうか」
俺はできないのにお前だけ、といった感じを出そうとわざとらしく偉そうな態度で言ってみた。
『雅也も知ってるはずだよ。二組の
同じクラスの人の記憶を思い返してみると確かにいた気がする。しかも、かなり明るくて中川さんとは違ったかわいさがあった気がする。俺はおそらくこの先関わらないんだろうなと思っていた人である。
「確か、その和泉結衣さんはかなりかわいくて明るい記憶があるような」
『そうそう!最初はかわいい人がいると思って話しかけてみたんだけど、そしたら思ったより話が合ってね。最終的にはLINEも交換したし、名前呼びにもなったよ』
初対面の日ですでに名前呼びとは……さすがコミュ力の高い優輝である。
「それは凄いな。初対面でそこまで進められるあたりを考えると俺としてはお前のコミュ力やらルックスがうらやましい限りだよ」
嫌味っぽく返してみた。
『一応言っておくがお前だってルックスとかコミュ力はあるだろ』
どうやら優輝は俺を過大評価しているようだ。だが誉め言葉は素直に受け取っておこう。
「それはどうも。でもお前が俺よりも女性関係で進んでるのは紛れもない事実なんだからな」
『どうだか…まあお前にも気になる相手ができたら教えてくれよな』
「その時はそうするよ」
そのあと少し話して、優輝との電話は終わった。
「和泉結衣さん…かぁ」
こう見えて優輝はいい人を見つけるセンスがとても高い。その優輝が初めて会った日に気になる人と断定したのである。俺は純粋に和泉結衣さんがどんな人なのか興味を持った。
また、優輝にあそこまで気になる人はいないと言ったのだから、中川さんのことはしばらく秘密にしておこうと心に誓った。
そのようなことを考えつつ、俺は眠りについた。
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