7 新たな予兆
中川さんとの出会いや優輝に気になる人ができたとの報告を受けるなど、これからの俺たちの日常に変化が起こりそうな予感を感じさせる一日が終わり、今日はその翌日。昨日は日曜日であったので、当然だが今日は普段と何ら変わらない学校での日常であり、生徒なら誰しもこれから始まる一週間の学校生活について考え、憂鬱になる月曜日である。
そして昼休みである現在、俺はとある人に目を向けており、その人たちの微かに聞こえる話し声に耳を傾けていた。
「結衣ちゃん、昨日のテニスの大会ってどうだった?」
「残念ながら一回戦で負けちゃったよー、もっと練習しようって改めて思ったよ」
「頑張ってね、応援してるよ」
そう。昨日優輝が電話で俺に話した、気になっている人であろう和泉結衣さんである。どんな人なのか興味が湧いたので、お昼ご飯を食べ終えた後、自分の机で文庫本を読むふりをしながら、気づかれない程度に注意を向けていた。
そして和泉さんと一緒に話しているのは、うちのクラス委員長である
二人のことを俺は詳しく知らないので、どのような経緯で二人が仲良くなったのかは知らないが、お互い明るい性格だということでウマが合ったとかそんなところだろう。
しかし、二人を見ていたり、会話を聞いているだけでは和泉さんがどんな人かは当然だが分からない。そろそろ俺も飽きてきて文庫本に目を戻そうとしたところ、聞き覚えのある声が俺の耳に向けて発せられた。
「何見てるんだ?」
「うわ、ビックリしたー」
急に話しかけてきたのは、俺のクラスメイトで友人の
「そんなに驚くなんて、一体そんなに集中して何を見てたんだ?」
「べ、別に何も見てないぞ」
そう言って、慌てて視線を二人から文庫本にずらしたがどうやら遅かったらしい。
晴人は俺が視線をどこへ向けていたのかに気が付いたようだ。
「へぇ~、澤田と和泉を見てたのか。どうした、お前どっちかのことが好きなのか?」
ニヤニヤとした表情でこちらに視線を送ってくる。最近話してて分かったのだが、晴人は恋愛話が特に好きらしい。なので案の定、そういった誤解を抱いているらしい。
しかし、と考える。俺が二人を見ていたのは、元はといえば優輝が和泉さんのことが気になると伝えてきて、俺がその和泉さんに対して純粋な興味を持ったからである。この場合、ありのままに二人を見ていた動機を言うのは、さすがに優輝に対して申し訳ない。俺はなんて言い訳しようかと頭を悩ませていたところ、晴人のほうが先にこの沈黙を打ち破った。
「まぁ、二人を見てしまうお前の気持ちもわかるよ。どちらともかなりかわいいよね」
「お前は二人を詳しく知っているのか?」
話を逸らすのと同時に純粋に気になったので聞いてみた。
「俺も二人とはあまり話すことがないから分からないけど、聞いた話によると二人とも彼氏はいないらしいぜ」
「その情報をどこから仕入れて来るのか俺は戦慄するばかりだよ」
「まあ、俺は割と顔は広いからね。ほかのクラスにも仲いい人けっこういるし」
そう。こいつはかなり顔が広い。つまりこの先関わることがあるであろう中川さんとの関係性はこいつにも悟られないようにしなければならない……
何せ女子を見てるだけで好きなんだと勘違いするやつなのだから……
俺はこんなときに中川さんと関わるときの警戒心を高めていた。
「で、どうなんだよー。結局どっちが好きなんだ~?」
また話が戻ってしまった。晴人は普段は面白くていいやつなのだが恋愛話となるとめんどくさいな。
このノリに付き合うのが面倒くさくなってきたので、話を合わせてこの話を終わらせることにした。
「別に好きなわけじゃないが、どちらかといえば和泉さんのほうが好みかな」
これは俺が純粋に二人を見て感じたことである。
まあ、言い方を悪くするならば、俺はルックスに関しては、和泉さんのほうが好きだということである。確かに優輝がすぐに気になる人と断言するようになるだけのことはある。
「へー、雅也は和泉派かー」
なに……この二人に関する派閥でもあるか……
そんなことを頭の片隅で考えながらも、自分だけが話した状態は嫌なので晴人に質問を返すことにする。
「ちなみにお前はどっちが好きなんだよ?」
「あの二人だったら澤田かなー」
結構あっさり教えてくれた。でも、あの二人だったらと前置きしていることを考えるにこいつには別に好きな人がいるのかもしれない。なので俺は試しに聞いてみた。
「随分あっさりというのな。さては別に好きな人がもうすでにいるのか?」
「まあねー」
どうやら本当のようだ。でもそういわれると聞きたくなるというもの。昨日の優輝の電話の時もそうだったので、俺もかなり恋愛話が好きなのかもしれない。
「じゃあ、誰なんだよ?」
「別のクラスの人だよ。一目惚れしたんだ」
それは凄いな。ていうか一目惚れしたっていう人現実で初めてみたわ……
「へー。ちなみにどんな人なんだ?」
「名前はわからないけどかなり可愛かったってことは覚えてる。確か一組だったかなー」
それを聞いて俺の頭の中には嫌な可能性が一瞬よぎった。
「まさか、な」
「え、なにがー?」
能天気に晴人が聞き返してきた。だが、その考えは一組の現状を考えるとさすがにないだろうとすぐに打ち消した。
「~~~~♪」
とここで授業開始のチャイムがなった。
「じゃあこの話はまた今度なー」
そういって晴人は机に戻った。
しかし、今の話もこれからの俺たちの生活に大きな影響を与えるのではという予感みたいなものを、俺は感じていたのであった。
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