35 分からない
中川さんからの連絡を見てすぐ宿の外に出ると、すでに中川さんは入り口の前で待っていた。
「待った?」
「いえ、今ちょうど来たところですよ。思った通り和泉さんは布団に入るとすぐに寝てしまいました」
その話を聞いて、俺は優輝のことを思い出した。
「優輝なんて三十分前には寝てたよ。やっぱり二人は相当疲れてたんだろうね」
それを聞いた中川さんははっとした表情をして、
「そういえば今日のことを横山さんには話しましたか?」
と聞いてきた。
「ああ、寝る前に話したよ」
「そうですか。では横山さんはなんて言っていましたか?」
「えーと、夕日の綺麗な海岸よりかは落ち着いた自然で告白したい、って言ってたよ。だから明日の早朝に広場の奥の場所を教える予定だ」
それを聞いた中川さんは、少し考えるような素振りをしたあと口を開いた。
「それだと告白する場所はおそらく広場の奥になりそうですよね」
「それはそうだな」
その返事を聞いた中川さんは、若干だが暗い表情をした気がした。
「それが何か問題だったか?」
気になったので俺は直接中川さんに聞いてみた。
「いえ、告白する場所がおおよそ決まった以上、私たちが今夜海岸に行く理由がなくなってしまったので」
中川さんは少しテンションの低い声でそう答えた。
だが俺はその中川さんの言動に違和感を覚えた。
中川さんはそこまで夜の海岸に行きたかったのだろうか。
「海岸に行きたいなら行くか?」
俺の提案に中川さんは首を振って、
「明日は早起きですから、今日はお互いもう寝たほうがいいでしょう」
と答えた。
「そ、そうか」
「では、おやすみなさい」
「お、おやすみ」
そう言って中川さんはあっという間に部屋に戻っていった。
俺は中川さんの帰る後ろ姿をただ見ていることしかできなかった。
さっきの中川さんはいつもの中川さんとはどこか違っていた。
俺は何か中川さんの機嫌を損ねるようなことをしてしまったのだろうか?
考えるが分からない。
俺はなにかもやもやする気持ちを抱えながら部屋に戻った。
今夜はよく寝付けなそうだな、と俺はふと思った。
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