20 親睦会②
自己紹介が終わり、みんながそれぞれ自由に雑談したり、料理を食べたりして過ごし、この楽しい宴もそろそろ終わりの時間が近づいていると感じてきた頃、俺の耳に気になる話が入ってきた。
「優輝くんと島崎くんって同じ中学だったの?」
「ああ、そうだぜ」
どうやら優輝と和泉さんの会話が俺と優輝の中学生時代についてにシフトチェンジしたらしい。
「そうなんですか、島崎さん?」
その話を耳にした中川さんが俺に向けて疑問を投げかけてきた。
「そうだよ。俺と優輝は中学一年からの付き合いなんだ」
「どおりで」
何か納得したような反応を中川さんは見せた。
「どおりでって?」
「よくお二人でとても仲良さそうに話しているのを見かけるので、もしかしたらお二人は前々から知り合いだったのではと思っていたので」
「そんなに仲良さそうに見えるか?」
「それはもちろん。自覚ないかもしれませんが、お二人で話している時の島崎さん、とても生き生きしてますよ」
「まじか……中川さん視点からはそう見えるのか」
俺は基本誰に対しても同じようなテンションで会話している自覚があったので、中川さんからのその指摘はとても驚きである。
「そっかそっかー。雅也は俺のこと大好きなんだなー」
俺と中川さんの会話を聞いた優輝がニヤニヤした表情で俺の肩に腕を回してきた。
「なわけないだろ。てかくっつくな、暑苦しいからはなれろよー」
「まったくー、素直じゃないなー」
軽く抵抗してみたが、俺の肩に回した腕をどかすような素振りを優輝は全く見せなかった。
しかしまあ、とても嬉しそうな表情をしているので、少しはこのままでもいいかもなと俺は思った。
「まあ、俺が同性を好きになる人間ではないということは俺の過去である中学生時代が証明してくれるがな」
「まあ、それはなー」
優輝がどういう意味で俺が言ったのか瞬時に理解したようで、納得したような返事が返ってきた。
こういった会話はいつもの俺と優輝がしているような会話であり、何か問題があるわけではない。
しかし、この場にいるのは優輝だけではないということを俺は完全に忘れていた。
「え?それってどういうことかな」
当然意味深な俺の発言に対して、すぐさま和泉さんからの追及が入った。
「えーと、そ、それはなー」
正直過去の話なので言ってもよかったわけだが、なぜか分からないが咄嗟に話を濁してしまった。
一度話を濁してしまったので、ここから俺の中学生時代について何事もなかったかのように話し始めたほうがいいのか、それとも今の状態を貫くのかどうしたものかと考えていると、思わぬところから話が飛んできた。
「つまりはこういうことでしょうか。さっきまでしていた島崎さんと横山さんの話を整理すると、要するに島崎さんは横山さんのことが好きです。ライクなのかラブなのかはともかく。そして和泉さんが疑問を持った島崎さんの発言は簡単に言えば島崎さんが横山さんのことをラブの方の好きではないことを証明できる、ということ言っているのです。そこでキーワードとなるのは『同性を好きになる人間ではない』と『中学生時代』です。同性を好きになる人間ではないことを証明できる何らかのことを中学生時代にしていた。そしてその何らかというのはおそらく彼女が存在していた、といったことではないのでしょうか。なのでまとめるとさっきの和泉さんが疑問を持った島崎さんの発言の意味とは『俺には中学生時代に彼女がいたからお前のことを好きになることはない』といったところではないでしょうか?」
この中川さんの発言を聞いていた三人はみんな呆気にとられていた。
「……お、おう凄いな。完璧に当たってるよ」
俺は推理が完璧に当たっていたので、純粋に驚いていたのだが、優輝や和泉さんは中川さんが実はかなりお喋りだということを知らない。
なのでおそらく二人は長々と話す中川さん自身に驚いているのだろう。
「なるほどねー。島崎くん、中学生時代に彼女いたんだー」
「そ、そうだけど何かあるのか」
気を取り直した和泉さんが何か含みのある言い方で俺に確認してきた。
「そんなの、詳しく聞かせてもらうにきまってるじゃん!純粋に気になるし恋バナとか絶対盛り上がるでしょ」
「ええー、俺にメリットないじゃん」
「まあまあ、減るもんじゃないんだし。いいじゃねーか」
優輝のやつ、完全に俺が中学生時代の恋愛について語る流れをつくりやがった。
それなら……
「分かった。俺も話すから優輝も話せよ」
「お、おい」
優輝が「やめてくれよ」と訴えてくるような真剣な表情を俺に向けてきた。まあ目の前に優輝が現在進行形で気になっている和泉さんがいるのだから元カノについてあまり話したくないという気持ちも理解できないわけではない。
でも俺にとってはそんなこと、知ったことではない。
「えー!優輝くんも中学生時代に彼女いたんだー」
めちゃくちゃ興味津々な表情をしている和泉さんがそこにはいた。
その興奮っぷりに俺と優輝が顔を合わせてお互いに苦笑いをした。
俺たちは理解した。
これはすべて話すしかなさそうだ……と。
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