19 親睦会①

 計画が決まったとなればあとは準備をするだけなので、その後はとんとん拍子に事が進み、時刻が七時を回るころにはテーブルにたくさんの料理や飲み物、フルーツなどが置かれ、ザ・パーティーといった雰囲気が作り上げられていた。

 それにしても中川さんと和泉さんには驚かされる。

 こんな短時間で多くの料理を作ってしまうのだから、きっと将来どちらもいい奥さんになりそうである。

「じゃあみんな座って」

 俺がどうでもいいことを考えてる間にどうやら準備が整ったらしい。

 和泉さんの合図とともに四人がそれぞれテーブルを囲むように座る。

「それじゃあみんな飲み物持って~。ダブルス大会とか今日の勉強とかいろいろ、おつかれ!」

「「おつかれ」」

 俺たちはジュースの入ったグラスをお互いにコツンとぶつけあった。

「親睦会兼ということだし、とりあえず最初はみんなで自己紹介する?まあ、みんなお互いに顔見知りではあるけどね」

「いいんじゃねえか。最初はそんな感じで」

 優輝が和泉さんの提案を肯定したことでどうやら自己紹介からの進行になりそうだ。

「最初は言い出しっぺのわたしからね。和泉結衣です。趣味はスポーツ全般だけど最近はテニスが特に好きです。改めて自己紹介という形で言うとなんかむず痒いね」

「おいおい、言い出しっぺなんだから自信をもって言い切ってくれよー」

 和泉さんと優輝との会話に中川さんが微笑んでいた。

 どうやら俺と中川さんが初めて出会ったいつかの打ち上げ会に比べれば、緊張感は感じられない。

 このグループをある程度気に入っているからこそ、気を抜けると思うので俺は無性に嬉しくなった。

「次はおれだな。横山優輝です。趣味は結衣ちゃんと同じくスポーツ全般で特にテニスだな。みんなこれからもよろしくな。はい、つぎ雅也」

「お、おう。島崎雅也です。趣味はー、そうだなぁー」

「お前、趣味ないのか……」

 優輝が「お前まじかよ」といった表情で見てくる。

 俺だって趣味がないわけではない。

 正確には好きなことはけっこうあるが、すぐに「これだ」とパッと思い浮かぶような代表的な趣味がないのである。

「違う。趣味がないわけじゃない。むしろありすぎてどれを言ったらいいのか分からないんだ」

 開き直って俺が心の中で思っていることをそのまま話すことにした。

「それって本当に全部趣味なのか?」

 優輝の突っ込みに女性陣がくすくすと笑いを浮かべている。

 ウケたのなら何よりだと前向きに考えるとしよう。

「じゃあ最後に中川さんね」

「は、はい」

 俺から指名を受けた中川さんは少したじろいだ。

 やはりどんな状況であれ自己紹介とかは得意ではないのだろう。

「な、中川栞です。趣味は料理とか読書とかです。私はあまり人と話すことは得意ではない印象を受けるかと思いますが、決して話すことが嫌いなわけではありません。なので気軽に話してくれると嬉しいです。みなさん、改めてよろしくお願いしますね」

 そう言って、中川さんは自己紹介を締めくくった。

 最初こそ緊張していたものの、途中からはきちんと話せていて、俺はまたもやうれしく感じた。

 こうやって本当の中川さんを知る人がどんどん増えればいいと思う。

「私はこれからも遠慮なくどんどん話しかけていくからね!」

 和泉さんがにこやかに返事をする。

「ああ、俺もこれからは遠慮なく話すことにするぜ」

 優輝も和泉さんに続き返事をする。

「もちろん、俺もさ」

 俺も二人にならって返事をした。

「みなさん、ありがとうございますね」

 中川さんはとてもきれいな笑顔で微笑んだ。

 これまでの中川さんを知っている俺からすれば、この会話は俺にとって涙腺を緩ませるには十分で、みんなにはばれないように俺は静かに目をつむった。



 


 

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