21 優輝の過去

「で、どっちから話す?」

 俺と優輝は中学生時代の恋愛事情について話さなければならなくなったため、とりあえずどっちから先に話すか決めるために優輝に声をかけた。

 ちなみに俺はどっちでもいい。

 なぜなら大したことはしてないため、特に話すことがなく、どうせすぐに終わると思うからだ。

「じゃあ……おれからでいいか?最後よりかは最初の方がましだぜ」

「おーけー。じゃあ俺はお前の次でいいよ」

 あっさり決まった。

「じゃあ話すが……ちなみに具体的に何を話せばいいんだ?」

 優輝が和泉さんに向けて質問した。

「うーん。付き合った人数とかどんな出会いだったのかとかどっちから告白したのかとか付き合ってみてどう感じたとか?」

「お、おう」

 要するに出会った時から別れた時まで全て話せ、ということだろう。

 和泉さんはよっぽど恋愛話が好きなのだろうか。

 他人の恋愛事情に対して躊躇がなさすぎる……

「じゃあ話すぞ。付き合った人数は一人。その人とは中二の夏ぐらいから付き合い始めて中三の卒業式の後に別れたよ」

「へえ~。結構長い間付き合ってたんだ~」

「まあな。その人との出会いは中学一年生の入学式の日。たまたま席が隣だっただけだ。だから、初めてその人を見た時の第一印象は顔がそこそこいい人といった感じだった。そして中学生活が始まって初めの方はテニス部に入って、テニスばかりやっていた。当然恋愛なんておれの生活に入ってくる余地なんてなかった。その人とは業務連絡を話し合うぐらいの仲でしかなかった。そしてそのまま何の音沙汰もないまま中二に突入した。でも変化が起こったのはこの辺りからだ」

「へえ~。楽しみだな~!」

 相変わらず和泉さんはウキウキである。

「まあ包み隠さず話すからそんなに焦るなよ。中学二年生でも俺とその人は再び同じクラスになった。でも去年とは様子が違くてな。その人はおれにかなり積極的に話しかけてくれた。最初は戸惑ったけど途中でこの人はもしかしたらおれに気があるんじゃないかと何となくだけど感じた。何様って感じだよな……」

「そんなことないよ。誰だってこの人はわたしに気があるんじゃないかな、、、みたいに思うことぐらいあるよ。だから気にしなくていいんじゃないかな」

「お、おう。そうだな」

 和泉さんのさっきの調子とはかけ離れたしんみりとした空気に優輝は若干戸惑っていた。

 それに俺はこの人自分のこと好きなんじゃ…とか思ったことも感じたこともないんだが誰でもあるのか……と少しショックを受けた。

「まあ、でもこの後の話を聞けば優輝くんがどんな人だか分かってくるじゃん。だから続き、聞かせてよ」

「おう。それでおれたちはどんどん一緒にいる時間が増えていって、連絡先とかも交換して電話とかLINEとかでもよく話すようになっていった。そして満を持して夏休みに二人で夏祭りに行ったとき、おれから告白して無事付き合ったというわけだ」

「へえ~!いいね!めっちゃ青春じゃん!」

 さっきのしんみりとした和泉さんはどこへいったのか再びハイテンション和泉さんが降臨していた。

「それでそれで、この先どうなるの?」

「ああ。それからおれたちの関係は良好に進んでいった。特に喧嘩したりすることもなかった。でもその人には一つだけ欠点があった。それは勉強だ。まあ、今のおれが言える立場じゃないけど。この学校って結構偏差値高いだろ。おれも中学の中ではそこそこ勉強できた方だから受験勉強をそこそこしてここに入学できた。でもその人は落ちて、別の学校に行くことになったんだ」

「それは辛いね……それで二人はどうなっちゃったの?」

「二人で真剣に話し合ったよ。これから学校が違くても付き合い続けるのか。遠距離恋愛をおれたちはできるのか。そして考えた末別れる結論を出した」

「どうして?」

「お互い遠距離恋愛ができる自信がなくてな。お互いにまたいい人に巡り合えるようにと願いあって卒業式の後に別れたよ」

「そうだったんだ……」

「ああ」

 優輝の恋愛話が終わり、優輝と和泉さんの間には再びしんみりとした空気が流れていた。

 ちらりと中川さんの表情を見たが中川さんも二人と同じような空気を感じた。

「それで優輝くんは今もその人のことが好きなの?今その選択を後悔しているの?」

 和泉さんが優輝の心に踏み込んだ質問を投げかけた。

「いいや、後悔してないよ」

「どうして?そんなに素敵な人と恋愛出来て、とても楽しい日々だったはずなのに」

「だっておれは今、その人と同じくらい、いやそれ以上に好きな人がいるから」

 優輝が表情を明るくして言い切った。

 我ながらなかなかかっこよく感じてしまった。

「ふふ、それならよかったよ。その恋愛が無事成就するようにわたしは祈ってるね」

 和泉さんも澄み切った笑顔で言い切った。

 そのあまりの純粋さが優輝にどう映ったのかは知らないが。

「そうだな。祈っててくれよな」

 優輝が自信ありげな表情で明言した。

 どうやら俺の心配は杞憂に終わったようだ。

「いや~全体を通してすごくいい話だったね!それでそれで、今度は島崎くんの番だよ!いや~楽しみだな~!」

 そうだった。

 俺も話すことになってたんだった。

 でも、俺の送った恋愛は優輝のような青春感と悲恋感は何もないんだが……

 おそらく和泉さんの期待には応えられないだろう。

 いったいどうしたものかと思考するがどうしようもないという結論に至り、時の流れに身を任せることにして俺は口を開くのであった。


 

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