43 さあ行こう
俺と栞は優輝と和泉さんを繋げるために俺は優輝、栞は和泉さんにそれぞれLINEで連絡を送ったわけだが、和泉さんからはすぐに返信が返ってきて無事この後栞と会うことになったものの、優輝からは一向に連絡が返ってくる気配がない。
試しに電話をかけてみたが、それでも反応はなかった。
「優輝さんから連絡は返ってきましたか?」
栞が心配そうにこっちを向いた。
「ダメだ、全然返ってきそうにない。でも大丈夫だ。優輝が今現在いる位置は目星がついてる。だから優輝のもとへ行ってくるよ」
「そうですか。では横山さんをよろしくお願いしますね」
「栞こそ、和泉さんをなんとか説得してね」
「はい、ではまた後ほど会いましょう」
そう言い、俺たちはそれぞれ行くべき場所に向かった。
俺はというと、当然優輝がいるであろう海岸を訪れていた。
それにしても……
「広場の奥は日陰でけっこう涼しかったのに、太陽光が直接当たる海岸はなんだってこんなに暑いんだ……ていうかよくこんな中で遊べるな」
砂浜や海で楽しそうに遊んでいるテニス部員たちを見て、素直にそう思った。
時刻は午後四時過ぎ。
それなのに日差しはまだまだやる気に満ちていた。
夏の太陽は少し休んでもいい思う。
とはいえそんな愚痴をこぼしたところで何かが変わるわけではない。
とにかく優輝を探さなければ。
まずは砂浜を一面見渡す。
優輝らしき人影は見受けられない。
次に海で遊んでいる人たちを見る。
おかしい……ここにも優輝らしき人影は見えない。
「ここにいないとか……嘘だろ……」
俺は優輝が海岸にいるという情報しか持ち合わせていない。
とはいえ海岸にいないからと言って、闇雲に別の場所を探しても見つかるとは思えない。
「とにかくこの辺りにいる人に話を聞くしかないか」
そうと決まれば、この近くにいる知り合いを探す。
すると部長と打ち上げの時に一緒だった宮内先輩が近くで仲良さそうに話をしていた。
いい雰囲気で正直邪魔したくはないが緊急事態だ。
背に腹は代えられない。
「すみません」
「おう、島崎か。一体どうした?」
「横山優輝を探していまして、この海岸にいるという話だったのですが見つからず……なのでどこへ行ったか心当たりがあるか聞きたくて」
俺の話を聞くと会長は少し考えるような素振りをした後、
「すまんな。横山の姿は見てない」
「そうですか、ありがとうございます」
俺は切り替えて別の人にも声をかけようと会長たちから離れようとしたとき、
「ちょっと待って!」
と宮内先輩から声をかけられた。
「横山くんならさっき見たよ。確か……そう、宿舎の方に戻っていったと思う」
「それ、本当ですか?」
思わず俺の声量が少し上がった。
「た、多分だけど」
俺のあまりの必死さに若干自信がなさそうな返答が返ってきたが、その情報で俺は十分だった。
「ありがとうございます」
そう言って俺はすぐに宿舎の方角へ走り出した。
時間に余裕はもうなかった。
俺は暑さで垂れ流れる汗をものともせず、宿まで走った。
「優輝!いるか?」
俺と優輝が泊まっている部屋を開けると覇気をなくした優輝がそこにはいた。
「どうした?そんなに汗だくで部屋に帰ってきて」
「それはお前を探してたからだ」
「探すって……なんでだよ?」
優輝は心当たりがないような表情をしてそう言った。
「探す理由が出来たからだ。それにしても、お前、どうして海岸にいなかったんだ?」
「それは……楽しそうに遊ぶみんなを見て、なんかその場には入れなかったんだよ。遊べば少しは気が楽になるかと思ったけど、むしろ昨日のことを、結衣ちゃんのことを考えちまう」
そう言って優輝は表情を落とした。
こんな優輝は見たくない。
そのためにも、俺は栞との約束の場所へ優輝を連れて行かなければならない。
「お前はまだ、結衣ちゃんのことが好きか?」
俺はあえて挑発的に質問した。
「当たり前だ!」
「付き合いたいか?」
「当然だ!」
「会いたいか?」
「もちろんだ!」
俺の問いに対して、優輝はすべて即答した。
「なら俺についてこい」
「なんでだよ?」
優輝が怪訝そうな眼差しを向けてくる。
ちらりと部屋の中にある時計を見る。
時刻は午後五時半。
今ここを出れば目的地には丁度いい時間帯に着くだろう。
しかし少しでも出るのに遅れれば間違いなく遅刻する。
栞に優輝を時間通りに連れていくと約束したんだ。
付き合い始めてすぐには約束を破りたくはない。
そう考えると優輝をつれていく理由をここで細かく説明する時間はない。
「とにかく足を動かせ、今からそこへ向かう」
優輝の質問を無視し、俺は優輝を促した。
「だからどうしてだよ!」
しかしなおも優輝は食い下がる。
どうしてこの期に及んで食い下がってくるのか……
俺は優輝がどうすれば素直に足を動かしてくれるか、焦っていてほとんど回っていない頭で考えた。
そして一つの結論にたどり着いた。
「信じろ。バスの中で約束しただろ!」
俺は少し大きな声でそう言い、真剣なまなざしで優輝の目を見た。
そう、もうパッションを出すことぐらいしか思いつかなかった。
優輝はどんな反応を見せるのか。
言われて数秒の間、優輝は唖然としていたが、しばらくすると口を開いた。
「分かった。行く」
どうやら状況は伝わらなくても、情熱は伝わったらしい。
優輝が乗り気になってくれたので、そうと決まればすぐに俺たちは宿を出て例の目的地を目指した。
急いで目的地を目指し。進みながらふと願う。
どうか優輝と和泉さんがうまくいきますように、元の優輝が返ってきますように、と。
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