46 終わりゆくテニス合宿

 合宿最終日の朝食も昨日と同様四人が集まった。

 だけど昨日とは違う。

「優輝くんってどんな料理が好きなの?」

「何でも好きだけどそうだなぁ……あえて言うなら牛丼とか」

「牛丼おいしいよね!今度作ってあげようか?」

「え、いいのか!?」

「もちろん!」

「じゃあお言葉に甘えようかな」

と優輝と和泉さんは隣の席に座り、とても仲良さそうに会話していた。

 それを俺と栞は微笑ましく聞いている形だ。

「二人が楽しく会話しているのを見てると、なんだかこっちも嬉しくなるな」

「ですね。お二人にはずっと明るくいてもらいたいものです」

 やはり優輝と和泉さんは暗い表情をしているのが似合わない、と今の二人を見て改めて思った。

 それはどうやら栞も同じだったらしい。

「あらためて二人ともありがとね!二人がいなかったらわたしたちが付き合うこともなかったかもしれないし」

「おれからも言わせてくれ!この恩はどこかで返すから」

 急にあらためて二人からお礼を言われた。

「別に気にしなくて大丈夫だよ。俺は二人がお似合いだと思ったから進んで協力した。それだけさ」

「私も同じです。お二人がこの先も仲良く居続けることを願ってますよ」

 これはきっと俺と栞の本心だ。

「分かった。なら二人のためにもわたしたちはちゃんとしないとだね!」

 そう言って和泉さんは優輝を見た。

「まかせろ!絶対にうまくいかせてみせる!」

 その思いを受け取ったのか、優輝は暑苦しく自信満々な反応を見せた。

「自信だけは、百点満点だな」

 俺がツッコむと、全員が一斉にあははと笑った。


 その後は帰りの準備をするための自由時間を挟み、とうとう帰りのバスに乗る時間が訪れた。

「なんだか寂しいね」

 和泉さんがふと呟いた。

 俺たちに向けて吹き付ける潮風がどこか切なさを感じさせる。

「また来ればいいじゃねーか!」

 優輝がそう笑顔で言った。

「そうだね!また来よう」

 二人からすればここは付き合いはじめた場所。

 きっとこの場所は二人にとって特別な場所として記憶に刻まれるに違いない。

 それは俺たちも同様だが……

 

 バスでの帰り道で俺がなんとなく外の景色を見ていると優輝が話しかけてきた。

「雅也、この合宿では本当に世話になったな」

「まあ、気にするな」

「この先なにか手助けが必要なことがあれば遠慮なく言えよ」

「なら遠慮なくそうさせてもらうよ」

 おそらく優輝は自分だけが幸せになったことに引け目を感じているのだろう。

 だけど俺は十分この合宿に満足している。

 なんなら優輝よりも幸せ者だとすら思う。

 優輝は自らの手で幸せをつかんだ。

 それに反して俺は何もしてないのに幸せがやってきた。

 ならば俺はここからより一層頑張らなければならないだろう。

 そう思いながらテニス合宿は幕を閉じた。

 

 

 


 

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