第10話 それは俺もだよ……


 『神狩かみがり』については、また今度にしよう。


(もう少し、詳しく聞きたい所だったけれど……)


 今は神月かみつきさんを探す方が先だ。

 夕飯が出来たので部屋へ呼びに行ったのだけれど、返事はなかった。


 勿論もちろん、俺を無視している可能性もある。

 しかし、部屋からは人の気配を感じない。


 念のため、俺は寮の外を探してみる事にした。


(屋上に居る可能性もあるけど……)


 しかし、寮の中に居るのなら心配する必要はないだろう。

 下駄箱を確認すると、彼女の靴がなかった。


 ――やはり、外に行ったようだ。


(もしかすると、食堂での会話を聞かれていたのかも知れない……)


「ちょっと、外を見て来るよ!」


 俺は朔姫さくひめに告げると、寮を飛び出した。

 しかし、神月さんが何処どこに行ったのか見当が付かない。


(遠くに行っていないといいけど……)


 取りえず、寮の周りを探してみる事にした。

 寮から出て探しに行こうにも、彼女が行きそうな場所に心当たりがない。


 加えて、俺には土地勘もなかった。

 探しに行ったとしても、こっちが迷子になりそうだ。


 寮の周りをグルっと回ってみると、裏山へと続いていそうな道を見付けた。

 俺はスマホを取り出すと、時間と残りの電池バッテリーを確認する。


(十分くらい探して、見付からなかったら戻ってこよう……)



    ◇    ◇    ◇



 歩きれない山道をやや駆け足で進む。

 日が沈んでしまったら、ほぼ真っ暗だ。


 山の中なので、星明りも頼りにはならいだろう。

 途中、いくつか分かれ道があった。


 けれど態々わざわざ、山奥に入ったとは考えにくい。


(ちょっと、一人になりたかっただけだろうし……)


 朔姫の話から、彼女の存在自体が人々に影響を及ぼすようだ。

 なら、人気ひとけのない場所に行こうとするだろう。


(後は歩きやすい道か……)


 見当を付けて進むと開けた場所に出る。

 同時に神月さんを見付けた。


 一先ひとまず、俺は安堵あんどする。

 そこは街が見下ろせるようになっていた。


 ちょっとしたがけのようだ。

 おどろかせないように『彼女にどうやって声を掛けようか』と考えていると、


「ヒカルくん……」


 ぐに彼女も気付いたようだ。


「心配したよ」


 と俺。いや、この辺は彼女の方が詳しいだろう。

 心配する必要など、何処どこにもない。


「ありがとうございます」


 そう言って神月さんは微笑ほほえんだ。

 同時に海へ夕日が沈んでいく。


 どうやら、この景色を見に来ていたらしい。


「綺麗だね……」


 俺は彼女の横に並ぶと、海をながめた。


「私、好きなんです……」


 と神月さん。

 確かに、海を眺めていたら嫌な事も忘れられそうだ。


 俺は呼吸と整えると、


「神月さんの事だよ」「ヒカルくんの事が……」


 そんな俺の台詞セリフかぶせるように、彼女が言葉をつむいだ。

 お互いの顔が赤いのは、夕日の所為せいだけではないだろう。


(一旦、落ち着こう……)


 俺が言いたかったのは――海も綺麗だけど、神月さんの方が綺麗だよ――という事だ。そして、神月さん。


 彼女は――海ではなく、俺の事が好きだ――と言った。


 ――聞き間違いだろうか?


 こういう事は、キチンと確認すべきなのは分かっている。

 しかし、それは相手に対して、すごく失礼な事ではないだろうか?


「「……」」


 お互いに沈黙した後、俺は動けずにいた。

 ピピピピッ!――とスマホのアラームがなり、ビクッと反応する。


 十分したら鳴るように設定していたのだ。


「ああ、ゴメン」


 俺は謝りながら、スマホを操作する。

 その様子に対し、彼女が笑ったような気がした。


 日が沈んだ途端、辺りは真っ暗だ。

 目がれるまでは、もう少しだけ時間が掛かる。


 街のあかりと空の星明り。

 それらを頼りに俺達は戻る事にする。


 途中、足元を取られ転びそうになった俺に対し、神月さんが手を握ってくれた。


「ヒカルくんは危なっかしいので、私についてきてください」


 確かに、そういう節がある。

 自分がカッコよく決められるキャラでないのは分かっていた。


(もしかして、今日はずっとそんな風に見られていたのだろうか……)


 だとしたら、情けない。やはり、俺は彼女に相応しくないようだ。

 神月さんに相応しいのは、彼女を守れるような男だろう。


 すると今度は神月さんが転びそうになった。

 しかし、俺はその手をしっかりとつかんでいる。


 流石さすがに地形を把握しているとはいえ、暗い山の道を歩くのは骨が折れるようだ。

 俺はスマホを取り出すと、それを明りの代わりにした。


「また、助けてもらいました」


 と微笑ほほえむ神月さん。その言葉に対し、


「それは俺もだよ……」


 と苦笑して返す。どうやら、難しく考えていたらしい。

 手をつないで帰る――こういう事で十分なのだ。


 どうして彼女が俺を好きになったのか?

 俺に彼女を好きになる資格があるのか?


 そんな事は些細ささいな事だった。

 俺達はお互いに不完全で、だけど互いに助け合える。


 俺には昔から欠けているモノがある。人として大切なモノ。

 もしかして彼女と一緒なら、それを見付けられるのかも知れない。

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