第六章 その者、青い野菜を育てて。

第37話 まだ食べているのか?


 寮でBBQバーベキューをするのなら、菊花だりあにも連絡しておかなければならない。


桜花ちえりさんを誘った場合、喜んで遊びに来そうだけれど……)


 【神気しんき】の影響を受けるため、呼べないのが残念だ。


 ――そうだ!


 『花火』と『スイカ』も準備する必要がある。

 出費がかさんでしまうけれど、こういう時はケチってはいけない。


 飲み物やお菓子の他に、必要な食材も確認しよう。

 重たいので一度、寮に戻ってリヤカーを取ってきた方が良さそうだ。


 そんな事を考えている間にBBQバーベキューが落ち着く。

 酔っ払いが騒ぎ出す前に――食料を持って移動しよう――という話になっていた。


 途中から『姿が見えない』と思っていた生徒会長だったけれど、どうやら砂浜にビーチパラソルを準備していたようだ。


流石さすがは生徒会長……)


 円卓テーブル椅子イスもセットされている。

 やはり男子はき使われる運命のようだ。


 俺達は運んできた食料と飲み物を円卓テーブルの上に置いた。

 生徒会長はすでにビーチボールをふくらませている。


 手慣てなれているモノだ――と俺は感心した。

 あたりを見回すと、学校で見知った顔がある事に気が付く。


 けれど、家族で参加しているようだ。

 挨拶あいさつするのはめておく事にする。


 単身赴任で父親がほとんど、家に居なかった所為せいだろうか?


(どうにも、ああいう幸せ空間は苦手だな……)


「どうだ? 生徒会に入って、来年も手伝ってくれないか?」


 と生徒会長に誘われる。正直、悩む所だ。


「彼女も喜ぶだろうしね!」


 そんな事を言って、生徒会長は書記の女子生徒へと視線を向けた。

 一つ上の先輩だけれど、よく俺に仕事を頼むので、それなりに仲が良い。


 さっきも食べ物を食べさせてくれた。

 確か、菊花が熱中症で倒れた時も、お世話になった先輩だ。


「余計な事は言わないのっ!」


 と副会長の女子生徒に耳を引っ張られる生徒会長。


いてててっ!」


 と声を上げ、引っ張られて行く。

 いつもの事なのだろうか?


 会計の先輩が――やれやれ――と肩をすくめた。


 ――いったい、なんだったのだろう?


 俺が冷めた『イカ焼き』を食べていると、


「まだ食べているのか?」


 と弥生やよいの声がした。俺が振り向くと、


「どうだ! 似合うか?」「あ、あまり見ないでください……」


 水着姿の弥生と、書記の先輩が立っていた。

 二人とも下に水着を着ていたようで、秒で着替えたようだ。


 書記の先輩は恥ずかしいのか、眼鏡を直す。


「綺麗ですね」


 恥ずかしがらなくてもいいのに――と俺は答えた。


「わたしも見るのだ!」


 そう言って弥生はビキニ姿で仁王におうちをする。

 健康的で引き締まった身体をしていた。


 しかし、出ている所は出ている。とても病弱だったとは思えない。

 正直、目のやり場に困ってしまう。


朔姫さくひめや菊花といい……)


 ――胸の大きな女子は堂々としているモノなのだろうか?


 一方、書記の先輩は対照的にクールといった感じだ。

 年齢が一つ上というだけで、大人っぽく見えてしまう。


「弥生もすごく似合っているね!」


 二人とも大人っぽくて、ビックリしたよ――などと言ってみる。


(『イカ焼き』を片手にめても、まらないのだけれど……)


 それでも二人は嬉しそうにしていたので、この回答で正解だったようだ。

 生徒会長達も、いつの間にか『水着』に着替え、準備運動をしている。


 戦闘準備はすでに出来ている――といった様子だ。

 どうやら、午後からは『海開き』となるらしい。


(それで人が多く集まっていたのか……)


 夏休み前に海水浴というのは不思議な感覚だったけれど、俺達は十分に楽しんだ。



    ◇    ◇    ◇



(もう少し体力を残しておくよう……)


 ――気を付けてあげれば良かったかな?


 泳ぎ疲れたのか、うつらうつらとしている弥生。

 俺は彼女の手を引いて歩いたのだけれど、


(ああ、これはもうダメだな……)


 そのまま、寝てしまいそうな感じだ。

 水着姿のままなので仕方なく、俺は自分のパーカーを羽織はおらせた。


 生徒会長達は水着にビーチサンダルのまま帰るようだ。

 どうやら地元の人間は、夏場は水着で歩き回るらしい。


 俺は弥生を――


(寮まで連れて帰るには無理があるか……)


 菊花に電話をすると、何故なぜか桜花さんが出た。

 状況を簡単に説明し――教会で休ませて欲しい――とお願いする。


 意外にも簡単に許可が下りたので助かる。


「取りえず、友達の家に連れて行きます」


 生徒会長達にそう告げた後、書記の先輩に手伝ってもらい、俺は弥生を背負せおう。


「大丈夫?」


 と先輩には心配されたので、


「ええ、大丈夫ですよ――って、よだれがっ!」


 答えると同時に、首筋に冷たいモノを感じた。

 その様子を見ていた生徒会長達が苦笑する。


 背負せおうと同時に、弥生は眠ってしまったらしい。


(やっぱり、子供だな……)


 体力がついたお陰で『背負せおう分には問題ない』と思っていたのだけれど、急に不安になってきた。


貴方あなたはいつも、誰かの面倒を見ているのね……」


 と書記の先輩に言われる。あきれているのだろうか?

 しかし、その視線は何処どこか優しい。


 俺としては面倒を『見ている』というより、面倒が『やってくる』という感じなのだけれど――


(それは黙っておこう……)


 生徒会のメンバーと別れた後、俺は無事に教会へと辿たどり着く。

 何故なぜRPGロールプレイングゲームを連想してしまった。


 電話で伝えてはいたけれど、弥生をあずかってもらうように改めてお願いする。

 菊花には申し訳ないが、後で弥生を寮に連れてきてくれるように頼んだ。


 俺は買い物がある事を伝えると、


「手伝えなくて、ごめんなさい……」


 と逆に謝られてしまった。

 取りえず、寮に戻ってリヤカーを取ってくるむねを伝える。


 いっその事、リヤカーで――弥生を運ぼうか?――とも考えたけれど、変なうわさが立ちそうなのでめる事にした。


 俺は教会を出るとBBQバーベキューについて、色々と考える。


(本格的にやる必要はないよな……)


 朔姫の事だ。外でワイワイ食べる事が出来れば、満足するだろう。

 そんな風に考えながら信号待ちをしていた。すると、


「やあ、『天寺あまでら ひかる』君」


 俺は一人の少女に話し掛けられる。

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