第36話 今日、二回目なんだけど……


 それにしても、昨日と今日で弥生やよいの印象は随分ずいぶんと変わった。

 彼女が俺に対して『心を開いてくれた』という事だろうか?


 色々と質問するには丁度いいのかも知れない。

 俺の提案で『ゴミを拾う役』と『袋に詰める役』を交互に行う。


 これでどちらかは休みながら、作業を行えるはずだ。

 彼女がれてきた頃合いを見て、


「弥生はどういう【加護かご】を持っているの?」


 といてみた。すると彼女は一旦、作業の手を止める。

 周囲の連中が作業に集中している事を確認すると、


「【眠り】の【加護】だぞ……」


 そう言って、俺に耳打ちをする。

 何処どこでも寝る事が出来る!――と胸を張った。


 ――それはすごいのだろうか?


「へぇ、うらやましいな」


 と俺は相槌あいづちつ。

 実際、神月かみつきさんや朔姫さくひめと比べると可愛いモノだ。


 なにより、他人ひとに迷惑を掛けないのがいい。

 そんな俺の言葉に気分を良くしたのか、


「わたしは小さい頃、大病をわずらっていてな……」


 苦しくて眠れない日々が続いていたのだ――と語り出す。


「その様子を見兼ねた【神】の内の一人――つまり母上がだな……」


 わたしを眠れるようにしてくれたのだ――そう言って微笑ほほえんだ。

 想定していたよりもキツイ過去に、俺としてはどう返すべきか悩んでしまう。


「だから、小さい頃は寝てばかりだったな……」


 何度も手術をして、やっと元気になったのだ!――と弥生。


(それで、こんなイベントでも楽しそうにしているか……)


 ゴミ拾いの最中でなければ、俺は『彼女を抱き締めていた』かも知れない。

 どうやら、彼女の人生の大半は寝台ベッドの上だったようだ。


 加えて、眠ってばかりの状態が続いたらしい。

 精神的に成長していないのは、その所為せいだろう。


 身体だけは成長したけれど『心は幼いまま』と言う訳だ。


「【眠り】をつかさどる【神様】なんだね……」


 元気になって良かったよ――と俺は彼女の集めたゴミを袋に入れる。

 大きいゴミはネットがあるので、後で生徒会長達と協力して、そちらに分別した。


ひかるはどんな奇跡ちからを持っているのだ?」


 と弥生にかれる。当然の質問だろう。

 一瞬、どう答えるべきか迷ったけれど、


「俺は【神狩かみがり】の力だよ」


 と素直に答えた。すると、


「おお、すごいな!」


 弥生は目を輝かせる。


「わたしと一緒に組織のために働かないか?」


 と勧誘されてしまった。

 正直、金欠のため――給料がもらえるのなら――と返答してしまいそうになる。


 俺としては『人間社会で生きる上で欠陥だ』と思っていた自分の欠点が受け入れられるのも魅力だった。けれど、


「今はめておくよ……」


 すでに、この欠陥ちからの使い方は決まっている。

 そんな俺の気持ちが伝わったのか、


「そうか……」


 と弥生は残念そうにうつむいた。

 悪い事をしたかな?――と思わない訳でもない。


 しかししばらくは、彼女もこの島で一緒に暮らす事になる。

 挽回する機会チャンスはあるはずだ。


「もう少しで、お昼だから頑張ろうか?」


 そんな俺の言葉に、


「うんっ!」


 と弥生はうなずく。最初は『どうなる事か』と思ったけれど、彼女の性格なら島での暮らしも問題なさそうだ。


 大量に流れ着いていた砂浜のゴミも、いつの間にか綺麗に片付いている。

 皆が協力したお陰だろう。


 確かに、ゴミを散らかすのも人間だけれど、力を合わせて解決できるのも人間だ。

 弥生が多くの人と関わって、人間らしさを取り戻す事を俺は願った。



    ◇    ◇    ◇



「ほら、そんなに食べると動けなくなるよ」


 と俺は弥生に注意をする。

 お昼になり、俺達は生徒会のメンバーとBBQバーベキューを始めた。


(海が近いから、海鮮具材シーフードが多いんだな……)


 ――すご豪華ごうかに見える!


 焼いていた貝が開いて海水を吐き出すモノだから、女性陣が――キャーッ!――と騒いだ。こういう場合、若い男子はき使われるらしい。


 いつの間にか、火の調整役を俺がやる事になっている。

 遊びのつもりだろうか?


「それでは食べられないぞ?」「そうね……」


 弥生と書記の先輩が交互に、俺に食べ物を食べさせてくれた。

 れとは怖いモノだ。


 神月さん達にいつも――あ~ん♪――とされているため、途中まで違和感を感じなかった。生徒会長達に――モテモテだな!――と揶揄からかわれてしまう。


 気分転換に他のグループを観察すると、オジさん連中は早々に酒を飲んで駄弁っていた。海鮮具材シーフードを提供してくれた漁師の方達だろうか?


(これは使い物になりそうもないな……)


 子供たちはすできたようで、走り回っている。

 砂浜なので、転んでも問題ない。長閑のどかな光景だ。


 一方で弥生も大分、れたらしい。

 心配していたのだけれど、その心配はないようだ。


 彼女が美人だからなのだろうか?

 それとも、転入生だからなのかも知れない。


 生徒会の連中は彼女を持て成していた。


(もしかして……)


 ――【加護かごち】も人間達から好かれるのだろうか?


 可能性としてはありそうなので、朔姫にメールをする。

 ついでにBBQバーベキューの写真も添付しておいた。


 するとぐに――われBBQバーベキューしたいのじゃ!――みたいな内容が返ってくる。


 どうやら、俺の質問には答えてくれないらしい。

 しかも、今日の夕飯はBBQバーベキューになってしまった。


 あの【神様】にも困ったモノだ。


(今日、二回目なんだけど……)


 ――でも、神月さんが喜ぶかも知れない!


 俺は考え方を切り替える事にした。

 それに、朔姫に逆らっても良い事はないだろう。


 折角せっかくなので、理事長をさそうように朔姫へ返信をする。

 もしかしたら、肉の差し入れがあるかも――いや、違った。


 弥生の事について、く事が出来るかも知れない。

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