第35話 許可は取ったぞ!


ずは連絡先の交換かな?」


 俺はそう言って、スマホを取り出す。

 連絡先さえ交換する事が出来れば、後はどうにでもなるだろう。


「分かった!」


 と吹常ふきつねさん。躊躇ためらう様子もなく、スマホを取り出した。

 なんだか、悪い男にだまされないか心配だ。


「後は遊ぶ約束でも、すればいいと思うよ」


 俺の言葉に、吹常さんは目をキラキラと輝かせる。

 どうやら、今まで友達が居なかったようだ。


ちなみに明日は休みだけれど、皆で砂浜の清掃をするんだ」


 と教えておく。

 梅雨も明け、本格的に観光客が来る前に島民達で行うのが習慣となっている。


 俺としても――参加する事で『歴史研究会』の部としての活動にもなるだろう――と考えていた。


 そのため、なにかと交流のある生徒会の連中メンバーと一緒に参加する事にしたのだ。


(残念ながら、神月かみつきさんと朔姫さくひめは留守番だ……)


 あの二人は人前に出ると影響が大きい。

 菊花だりあも家の手伝いがあるので無理だと断られた。


折角せっかく、センパイとデートの機会チャンスだったのに残念です』


 と言っていたけれど、多分ゴミ拾いでは、そういう雰囲気にならないだろう。


「そうか……じゃあ、また明日だな!」


 と吹常さん。明日?――と俺は首をかしげる。

 一方で、むかえの人が来ていたようだ。


 スーツ姿の女性のもとに彼女は走っていった。


「じゃあね、ふき……弥生やよい!」


 俺が声を上げると弥生は立ち止まり、振り向いた。

 そして、嬉しそうな表情で再び大きく手を振る。


(やはり、子供みたいだ……)


 俺は弥生の姿が見えなくなるまで、軽く手を振り見送った。

 一抹いちまつさびしさを感じながら、菊花に合流しようと方向転換すると、


「センパイ♡」


 と声を掛けられる。菊花だ。


「綺麗な方でしたね」


 そう言って微笑ほほえむ。


「良かった、行き違いにならなくて……」


 そんな俺の台詞セリフに、


「そうですね」


 と同意した後、素早く横に回り込むと腕をからめてきた。

 いつもだったら、断ってから俺の横に並ぶのだけれど、今日は様子が変だ。


「どうしたんだ?」


 俺の問いに対して、


恋仲こいなかセンパイから、連絡がありました」


 センパイが浮気していると!――と菊花。

 言い掛かりである。


(朔姫め……)


 ――何処どこかで見ているのだろうか?


 どうやら『ごっこ遊び』は次の段階へと進んだようだ。

 完全に俺で遊んでいる。


(これは帰ったら、離婚裁判でも始まりそうだな……)


 別に結婚している訳ではないので、納得が行かない。


「大丈夫ですよ……」


 あたしは信じていますから♡――とは菊花。


「そもそも、センパイが女好きであるのなら……」


 あたしも苦労はしません――などとつぶやき、溜息をいた。


なんだか、俺が苦労をかけている……)


 ――みたいになっていないか?


 まぁ、菊花に『誤解されるよりはいい』と思う事にする。


「それより、帰ったら裁判ですね」


 魔女裁判なら任せてください!――菊花は意気込む。

 その裁判だと、菊花が処刑されそうなのだけれど、俺は黙っておく事にした。


 朔姫対策として、高い方の『アイス』を買って帰るのが良さそうだ。


(いや、神月さんと菊花の分も必要だな……)


 ――出費がかさむのは勘弁して欲しい。


 これは夏休みに入る前に一度、父さんに会って小遣こづかいをもらおう。



    ◇    ◇    ◇



 翌日の朝。天気予報通りの快晴だ。

 正直なところ、暑いので曇りの方が有難ありがたい。


(菊花に頼めば、天気ぐらい変えてくれそうだけれど……)


 一瞬、そんな考えがよぎったので、俺は首を横に振る。

 今日は土曜日で学校が休みなのだけれど、砂浜の清掃に来ていた。


 梅雨明けのこの時期、島民達にとっては恒例の行事らしい。

 参加しているのは旧市街の人がほとんどのようだ。


 砂浜を見渡すと確かに色々な漂流物が散乱していた。

 これでは観光客だけではなく、島民も利用をけるだろう。


 町内会長の挨拶あいさつの後、グループごとに別れて、清掃を開始する。

 俺は生徒会のメンバーと一緒にゴミ拾いを行う。


 また、それと同時にWebウェブページへ載せるための写真をスマホで撮影した。


 ――流木りゅうぼくって、売れるんだっけ?


 昨日、余計な出費がかさんだ所為せいで、ついそんな事を考えてしまう。

 ボーッとしていたようだ。俺を心配したのか、


「どうしたのだ? ひかる……」


 と弥生やよいが声を掛けてくる。

 みょうに顔が近いのが気になる所だ。


 どういう訳か昨日、別れた後に連絡が入った。

 俺は今日の事を詳しく伝える。


 すると早速、砂浜へとやってきた――という訳だ。


「許可は取ったぞ!」


 いてもいないのに、弥生は楽しそうに答えた。

 清掃が終わった後――BBQバーベキューをして海で遊ぶ――とも伝えている。


 きっと、それが楽しみなのだろう。

 教えた通り、服の下に水着を装着の上、帰りの着替えも持ってきているようだ。


「弥生と一緒だから、嬉しくてね」


 なにをして遊ぼうかと考えていたんだ――そんな事を俺は答える。

 正直なところ、思っていたよりも大変な作業で辟易としていた。


 急だったので『断られるかも』とも思ったけれど昨夜、生徒会長に弥生が参加する旨を連絡した。すると――是非に!――と喜んでいた様子だったのが、


(こういう事だったようだ……)


 ――これなんか、完全に日本のゴミじゃないよな?


 先程から、あからさまに日本語ではない表記のモノが多く見付かった。


(砂浜でこの様子なら、海の中はどうなっている事やら……)


 俺が心配しても仕方のない事だけれど、海の仕事をする関係者なら『現実逃避もしたくなる』というモノだ。


「そうか!」


 頑張って、早く終わらせるぞ!――と弥生は張り切る。

 なんだか、俺もヤル気が出て来るから不思議だ。


 しかし、体力には限界がある。


「いや、一生懸命やっても『ばてる』から、適度に頑張るようにしないと……」


 遊ぶ体力が残らないよ――と忠告する。


「そうだな!」


 そう答えた弥生は、明らかに子供っぽい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る