第34話 友達とは何をすればいいのだ?


「えっと……【加護かごち】っていうのは?」


 俺は朔姫さくひめに問い掛ける。

 神月かみつきさんは麦茶を持って、俺の隣に座った。


「【加護かご】とは【神】からあたえられるモノじゃ……」


 信仰が強かったりする者にあたえたりするのう――と朔姫。

 『アイス』を食べ終わったのか、名残惜なごりおしそうにカップの底を見詰めながら、


われの場合、人間関係を断ち切る手助けが出来る」


 その分、厄介事は別の者が引き受けるのじゃが――と答えた。

 それって、厄介事が『俺に回ってきている』という意味だろうか?


「そやつの場合は――【神】に育てられた――という所じゃな」


 そう言って朔姫は椅子イスから立ち上がる。

 そして、『アイス』のカップを捨てに台所へと向かった。


「さて、次は何味なにあじがいいかのう♪」


 と楽しそうに考えているようだ。一方、


「そうなの?」


 俺は吹常ふきつねさんに質問をする。

 彼女はコクリとうなずくと、


「わたしの母親だった……」


 と教えてくれた。


(『だった』か……)


 過去形である事に、俺と神月さんは視線を合わせる。

 詳しくいて、いいモノなのだろうか?

 

 そんな俺と神月さんの雰囲気をさっしたのだろう。


「たまにある事らしいぞ――育てる事の出来ない赤子を【神】のやしろに捨てて行く――というのは……」


 困ったモノじゃ――と朔姫はつぶやく。そして、


「物好きな【神】が育てる事があるらしいのう……」


 と言うと俺の隣に座った。

 あまり関係者の前で『物好き』と言うのは良くないと思う。


 けれど、朔姫自身も【神】であるため、思う所があるようだ。


「人は自分と異なる存在を拒絶するモノじゃ」


 と続けた。その事に関しては、俺も神月さんも当事者だ。

 だからぐに、朔姫の言いたい事は理解した。


 【神】に育てられた人間は、人の世界で生きるのは難しい。

 俺や神月さんも、そちら側の人間だ。


 もしかして、朔姫が吹常さんを無下むげに追い払わないのも、そういった意図があるからなのだろうか?


 吹常さんは育ての親である【神】の存在に縛られている。俺達と一緒に暮らす事で――彼女の人間性を取り戻させよう――そんな意図があるのかも知れない。


 えて口にしないのは、俺達の自主性に『任せよう』としているからなのだろう。


(やれやれ、大人のり方はずるい……)


 気付いてしまった以上、俺は彼女を受け入れるしかない。


「つまり【加護かご】というのは【神様】が吹常ふきつねさんを沢山『愛した』という事だね」


 俺は微笑ほほえむ。上手うまく笑えていただろうか?


「まぁ、この場合はそうじゃな……」


 と朔姫。興味のない風体ふうていよそおっている。

 しかし、俺達が出す答えを誘導してくれているのだろう。


 結論を出すにはまだ早いけれど、高天原たかあまのはらという組織は、吹常さんを人の世界で暮らせるように手筈てはずを整えているようだ。


 そう考えると『理事長も協力している』と思っていた方がいいだろう。

 ただ、朔姫には『寝耳に水』の話だったのかも知れない。


 自分をしに使われた事が不服のようだ。


(これは後で、俺がなだめないとダメなパターンかな……)


「吹常さんの母親は、どういう【人】だったの?」


 俺が質問すると、


「母上は優しい、美人だ」


 と彼女は答えてくれる。


「そうなんだ、素敵な【人】なんだね」


 そんな俺の返しに――ああ――吹常さんは嬉しそうに答えた。

 同時に彼女のスマホが鳴る。


 連絡が入ったようだ。今日はここまで――という事だろう。

 どの道、俺には買い物の用事がある。案の定、


「戻る時間だ」


 と吹常さん。その表情は残念そうに見える。

 最初は緊張していたが、同世代と話しが出来て楽しかったのだろう。


 俺は――途中まで送るよ――と言って、一緒に寮を出た。

 坂道を下りながら、


「お前は変わっているな」


 と吹常さん。その言葉、そっくりそのまま返したい所だ。


「そうかな?」


 俺が答えると、


「ああ、大抵の連中は、わたしの事を可哀想かわいそうだと言ってくる」


 でも、お前は違った――そう言って、吹常さんは俺の前に出た。

 そして、クルリと反転すると足を止めると、


「お前はいい奴だな」


 そう言って、微笑ほほえんだ。

 無邪気なその笑顔に、不覚にも俺は見惚みとれてしまった。


 だからだろうか、


「吹常さんは綺麗だね」


 見た目もだけど、心も――つい、そんな事を言ってしまった。

 彼女は一瞬、目を大きく見開くと、


「決めたぞ!」


 と一言。


「お前をわたしの『友達』にする」


 そんな事を言い出した。俺は苦笑すると、


「もう友達のつもりだったよ」


 と告げる。彼女は再び、目を見開くと、


「そうなのか⁉」


 おどろいた様子でき返てきた。


「多分、神月さんもね……」


 俺の台詞セリフに――そうなのか?――と考えつつ、そのまま後ろ向きに歩き出した吹常さん。彼女が転びそうになったので、俺は慌てて手を差し伸べる。


 そして、彼女の手を取る。


「あ、ありがとう……」


 恥ずかしかったのだろうか?

 吹常さんは顔を真っ赤にした。


「ちゃんと前を向いてあるかないと危ないよ」


 俺が注意すると、


「分かった……その、ひかる!」


 と吹常さん。俺は一瞬、戸惑うと、


「だ、ダメだったか?」


 彼女は不安そうな表情をした。


「ごめん……予想していなかったから、ちょっとおどろいただけ」


 謝りつつ、俺が説明すると、


「そ、そうか……では、問題ないのだな!」


 嬉しそうにする。最初に会った時と違って、随分ずいぶんと分かりやすくなったモノだ。

 俺は素直に感心する。


 ふんふふん♪――と楽しそうする吹常さん。

 流石さすがに、手は放して欲しいのだけれど、


「で? 友達とはなにをすればいいのだ?」


 と突然、いてきた。


(正直、苦手な質問だな……)

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