第33話 どんどん深みに嵌まっている気がする……


 菊花だりあの『お願い』という事で、


かなえて上げたいのは山々なのだけれど……)


 ――神月かみつきさんの事もある。


 俺は当分の間、島を離れる事は出来ない。

 『その時は』と言ったのは、彼女なりの配慮だったのだろう。


 そもそも――魔法が使える――とはいえ、中学生の女子をたった一人、送り出す訳には行かない。父親や桜花ちえりさんも反対するはずだ。


 考えた結果、当分の間は『二人だけの秘密』という事にした。


なにやら、どんどん深みにまっている気がする……)


 ちなみに菊花達の父親は普通の人間だ。

 結婚して婿養子となった後、教会の仕事を継いだらしい。


 今までは桜花ちえりさんが記憶を【呪い】で操作していたそうだ。

 これにより、娘が『猫』になっていた時の記憶は曖昧あいまいになっている。


 けれど困った事に【魔女】である母親も同様の【呪い】を使っていたようだ。

 つまり【呪い】を二重に掛けた状態になっていた。


 【魔女】の力を覚醒させた菊花であれば、母の掛けた【呪い】を解き、父親だけが知っている母の情報を聞く事が出来たかも知れない。


 しかし、現状では絡み合った【呪い】を解くのは難しいそうだ。無理に解呪を行うと、肝心の母親についての記憶も『曖昧』になる可能性があった。


『あたし達、姉妹のどちらかが本当の【魔女】になった時、【呪い】が解ける想定だったと思います』


 と菊花。今は【呪い】が原因で、父親はほうけている事が多くなってしまった。

 桜花さんの掛けた【呪い】が解けるまで、しばらくは放って置くしかないようだ。


 これは俺の罪悪感の問題なのだけれど、現状としては、大切な娘さんをかどわかしているようなモノだ。


 会わない理由が出来て、ホッとしている反面――申し訳ない気持ちにもなる――といった所だった。


 勿論もちろん、口にはしない。

 彼女が俺に好意を抱いている事は明白だ。


 結果は如何どうあれ、答えを出すのは、彼女が母親と出会えた後がいいだろう。

 菊花としても、急いでいる訳ではないようだ。


(そもそも、そんな話をされては無下むげに突き放せない……)


 それが彼女の作戦でもあるのだろう。

 菊花とは、後で夕飯の買い物を一緒にする約束をした。


 俺は『お徳用のアイス』を冷凍庫から取り出す。

 これで吹常ふきつねさんの機嫌もなおる――わけがない。


 暑かったので、先に出した麦茶はすでに空のようだ。

 俺は彼女へ『アイス』を渡す。


 吹常さんは――ありがとう――とお礼を言った。

 表情が少し、柔らかくなったような気がする。


 朔姫とのり取りを考えるに、彼女は目的があって、この島に来たらしい。

 今まではれない場所のため、緊張していただけみたいだ。


「正直、おどろいているんだけれど……」


 いくつか質問してもいいかな?――と俺は聞いてみる。

 彼女は『アイス』をくわえながら、コクリとうなずいた。


 その一方で、朔姫は少し離れた場所に座り『アイス』を一口食べる。


美味びみなのじゃ♪」


 と幸せそうな顔をする。

 やはり、女性の機嫌を取るには甘い物を与えるのがいいらしい。


「『高天原たかあまのはら』ってなにかな?」


 名前からして、朔姫のような『【神】が集まる場所だ』という事は想像できる。

 【神】である理事長ともつながりがあって、彼女が送られてきたのだろう。


 吹常さんは視線をらした。

 答えたくない――というよりは『困った』という表情に近い。


「本土にある【神】を保護する施設じゃ……」


 と答えたのは朔姫だ。彼女は――はぁっ――と溜息をくと、


われのような【神】を『保護する』という名目で隔離しておる」


 そう付け加えた。

 どうやら、朔姫にはいい印象を持たれてはいないらしい。


「俺と同い年なのに、仕事をしているなんてすごいね」


 と俺は吹常さんの事をめた。

 そして――カッコイイなぁ――そうつぶやく。


 これには少し、彼女も気分を良くしたようで頬を赤くする。


「【神】の持つ【神気しんき】を人間達から遠ざけておるだけじゃがな……」


 とは朔姫。確かに彼女のような存在は、その場に居るだけで人々に影響を与えてしまう。迂闊うかつに地上を歩かれては、どんな影響を与えるか分からない。


「消えゆく神々の『つい棲家すみか』と言った方がいいかも知れん」


 ん~♡ 美味おいしいのじゃ♪――と朔姫。

 彼女はけ掛けた『アイス』を食べるのが好きなようで、その味を堪能する。


「ありがとう、朔姫……」


 俺は、そんな彼女にお礼を言う。

 分かってはいた事だけれど、朔姫はこの島を出るつもりはないようだ。


 良かった――と安心している自分がいる事に気が付く。


(さて、次にく事は……)


「吹常さんは、どうして【神気しんき】の影響を受けないの?」


 可能性としては、彼女も【神狩かみがり】だという事が考えられる。

 けれど、それなら朔姫の反応が可笑おかしい。


 眼中にない――というか、あからさまに興味の対象外だ。

 普通だったら、もう少し警戒するだろう。


「……」


 吹常さんは『なにか話そう』としたけれど、言葉を詰まらせる。

 ここで一つ気が付いたのは、どうにも『彼女が幼く見える』という事だ。


 見掛けは美人でクールなのだけれど――なにか背伸びをしているような――そんな印象を受けた。


「恐らく……【加護かごち】じゃな」


 とは朔姫。また、新しい単語が出てきた。

 丁度そこへ、着替えが終わった神月さんが食堂に姿を見せる。


 以前はシンプルなよそおいが多かったように思う。

 けれど、買い物が出来るようになったためだろうか?


 可愛らしい服が増えた。菊花だりあの影響もあるのかも知れない。

 最近はお洒落しゃれを楽しんでいるようだ。


めてくれる男性がるからのう……」


 朔姫がなにつぶやいたようだが、よく聞こえない。

 そんな彼女は、たまに俺達を見守るような視線を送ってくる事がある。


 ――何故なぜだろうか?

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