第22話 一つ教えて欲しいんだけど……


「それより、体調の方は大丈夫?」


 俺が質問すると、


「はい、お陰様で……」


 と菊花だりあが返す。

 どうやら、ペナルティを受けたのは『お姉ちゃん』の方だけらしい。


『――っていうか、なんであたしの【呪い】を解呪できるのよ!』


 とは『お姉ちゃん』。

 そこに反省の色はなく『悪い』とすら思ってはいないようだ。


(参ったな……)


 朔姫さくひめはあれで優しい。

 しおらしい態度で反省していれば、許してくれただろう。


(二人を会わせると喧嘩けんかになりそうだ……)


 朔姫達が来る前に、説得してみよう。


「お姉ちゃんは黙っていて!」


 菊花は声を上げた。


(俺と話す時は大人しい感じだったけれど……)


 どうやら、身内に対しては強気なようだ。

 これで『大人しくしてくれる』といいのだけれど、


『だって、気になるでしょ!』


 と『お姉ちゃん』は反論する。

 やはり説得は難しそうだ。そこへ、


「その疑問にはわれが答えよう!」


 小柄な少女の影――朔姫――が現れた。

 すっかり暗くなった夜の公園で、何故なぜか光を背負っている。


 分かってはいたけれど、大人しくはしてくれないようだ。

 隠れておるから――と言っていた気がするのだけど、忘れているらしい。


(余計、ややこしい事になりそうなんだけど……)


 俺は額をおおうように手でおさえた。


『あ、貴女あなたは……⁉』


 おどろく『お姉ちゃん』。

 そういう反応をすると朔姫が喜ぶのでめて欲しい。


「【魔女】の末裔まつえいよ、おぬしらが知らんのも無理はない」


 うむっ!――と朔姫。完全に『主役登場』みたいなノリだ。

 せめて菊花だけでも、【神罰】が下る前に避難させよう。


『【土地神】……いえ、やしろを持たない【野良神】ね!』


 とは『お姉ちゃん』。朔姫も猫には言われたくないだろう。


なんとでも言うがよい……貴様きさまの【呪い】などわれが打ち消してやったわ」


 アッハッハ――と笑う朔姫。


(『余計なモノも切ってしまった』と言っていたくせによく笑えるモノだな……)


「ごめんね、菊花」


 俺が謝ると、


「いえ、悪いのは……あたしのお姉ちゃんなので」


 と菊花。俺達はお互いに頭を下げる。


「こらっ! 勝手にそういう事をすると雰囲気ふんいきが台無しになるじゃろっ!」


 朔姫に注意された。


「そうよ、男なんてバカでスケベなんだから……」


 【呪い】の力で拘束こうそくする位が丁度いいのよ!――と『お姉ちゃん』。

 こっちはこっちで、過去になにかあったようだ。


「――で、俺をどうしたかったの?」


 俺は菊花に質問すると、


「実は……」


 と話を始める。

 朔姫の言っていた通り、倉岩くらいわ家は【魔女】の末裔まつえいらしい。


 ご先祖様は『魔女狩り』に追われ、異国の地から船に乗って逃げていた所を嵐にい、この島へと漂着したそうだ。そして、倉岩家の青年に助けられる。


 そして『薬学の知識』や『魔術』を島民のために使う事にしたようだ。

 島に医者が居なかった時代は、随分ずいぶんしたわれていたらしい。


 しかし、医療の進んだ現代においては――気味が悪いだの、うそつきだの――とうわさが流れるようになってしまった。


 いつしか【魔女】は廃業し、その知識と力も継承けいしょうされなくなっていった。また、それと時期が比例するように島へは『悪いモノ』が入り込んでくるようになる。


 神月さんの先祖に当たる【神】が居なくなったためだろう。

 倉岩姉妹は『悪いモノ』が見えるらしく、ひそかに対処をしていたようだ。


 しかし一年前、島に入ってきた【悪魔】を名乗る存在から【呪い】を受けてしまう。


 十六の誕生日までに『真実の愛』を見付けなくてはならない――というモノらしい。


 これも島の開発によって、外から人が入ってきた事による弊害だろう。

 良くも悪くも、この島には『神秘の力』が残っていた。


 ――朔姫のような存在が消えずに【神】の力を使えるのは、そのためらしい。


 本土から逃げてきた【悪魔】によって、『お姉ちゃん』こと『桜花ちえりさん』は猫の姿に変えられてしまう。『真実の愛』どころか、彼氏も出来なかったようだ。


『だから、せめて妹だけでも助かって欲しかったのよ……』


 と桜花さん。


(それを【呪い】で縛るのはどうかと思うけど……)


「後であたしから、きつく言っておきますので――」


 菊花はそう言って頭を下げる。


「まったく……それで人の――いや、【神】の彼氏に手を出すとは何事なにごとじゃ!」


 と朔姫。腕を組んでプンスコしている。


「彼氏?」


 そう言って、首をかしげる菊花に、


「ごめんね、こっちにも色々と理由があって……」


 俺は謝る。すると、


「そ、そうですか……」


 と菊花。一瞬にして目から生気が消えた。


 ――大丈夫だろうか?


われとこやつはラブラブじゃ!」


 ファイヤーじゃ!――とは朔姫。少しは空気を読んで欲しい。


『くっ! よくも妹をもてあそんだわね……』


 桜花さんがこちらをにらむ。人聞きが悪い。


「ほら、朔姫が余計な事を言うから……」


 俺が困った表情で彼女を見ると、


なんじゃと⁉ われは悪くないのじゃ!」


 朔姫は反論する。まぁ、今回は俺にも責任があるようだ。


「一つ教えて欲しいんだけど……」


 俺の台詞セリフに――なによ?――と桜花さん。


『――て言うか、あたしの言葉が聞こえていたの⁉』


 とおどろく。今更である。

 俺がいたのは当然【悪魔】についてだ。


 どうにも解呪には【悪魔】を倒す必要があるらしい。

 そのためには――学園の敷地内にある――という杖が必要なようだ。


 菊花は少しでも魔力を上げるために【魔女】の格好をしていたらしい。

 ちなみに夜は桜花さんが学校を探しているようだ。


『昼間に行くと、生徒達がうるさいからね』


 とは桜花さん。確かに猫が校内を歩いていると目立つ。


『でも、見付からないのよね……』


 そう言って、彼女は溜息をいた。


「分かった……俺達が杖を探すのを手伝うよ」


 俺の言葉に――俺達じゃと?――今度は朔姫が首をかしげる。


「おぬし、変わったのう……」


 と朔姫。


「ダメだった?」


 俺の台詞セリフに――いいや――朔姫は首を横に振ると、


「おぬしに頼られるのは、ちょっと嬉しい♡」


 と言って微笑ほほえむ。


『えっ⁉ いいの?』


 とは桜花さん。普通なら『手伝う流れだ』と思ったのだけれど、どうやら彼女は人間不信のようだ。


 今日はもう遅いので『詳しい話は明日、学校でする』という事した。

 俺達は倉岩姉妹を見送った後、


「神月さんは?」


 と朔姫にく。すると、


「うむっ! 人払いの役として、公園の入り口で待っていてもらっておる!」


 得意気に朔姫は答えた。神月さんの存在は他人に『恐怖』を与える。

 彼女が居るだけで『公園へは誰も近づこう』とはしないだろう。


(でも、そういう物みたいなあつかいは『良くない』と思う……)


 俺は急いで、神月さんのもとへ向かった。

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