第41話 膝枕、させてください!


 ――やってしまった!


 俺は今、自分の部屋で菊花だりあと一緒に寝台ベッドの上に居る。


(正直なところ――菊花まで横になる必要はない――と思うのだけれど……)


 せまいし、折角のデート用の可愛い服もしわになってしまう。

 倒れてしまった俺が悪いので、なにも言い返せない。


 疲れがまっていた所為せいだろう。

 出掛けようと部屋で準備をしていたら、動けなくなってしまった。


 心配した菊花が様子を見にきてくれた。

 助かった!――と思っていたのだが、


「これじゃあ、あの時と逆だな……」


 俺は学校の廊下で、菊花が倒れていた時の事を思い出す。


「そうですね♡」


 と彼女は嬉しそうに微笑ほほえんだ。

 同時に――ぎゅっ!――と俺に抱きつく。


「服がしわになるよ」


 そんな俺の言葉に、


「いいんです! センパイに滅茶苦茶めちゃくちゃにされたって言いますから……」


 と菊花。それは――


(俺が良くないんですが……)


「……」


 今は抵抗する気力もないので、大人しくする事にした。

 彼女の双眸そうぼうが優しく俺を見詰めている。


「えへへ♡ センパイのにおいです♪」


 センパイを独り占め♪――となにやら楽しそうだ。


(約束していたデートが『出来そうもない』というのに……)


「すまない――」


 と謝ると同時に、俺の意識が途切とぎれてしまう。



    ◇    ◇    ◇



 目を覚ました瞬間――しまった!――そう思って、俺はね起きた。

 急いで時計を確認すると丁度、お昼だった。


 流石さすがに『日付が変わった』という事はないだろう。

 どうやら、二時間ほど眠ってしまったらしい。


 カーテンはじられ、部屋には誰も居ないようだ。

 寝苦しくないようにという配慮だろう。窓が少しだけ、開けられている。


 菊花に『悪い事をした』と思い、机の上に置いてあったプレゼントの箱を手に取る。そして、俺が部屋を出ようとすると同時にドアノブが回った。


「センパイ、起こしてしまいましたか?」


 すみません――と菊花が立っていた。すでに彼女は着替えたようで、Tシャツにショートパンツという動きやすい格好をしている。


 折角、お洒落をしていたのに申し訳ない気分だ。


「いや……丁度、起きたところだ」


 と返答する俺に対し――良かった――と彼女は安堵あんどの溜息をく。

 そして、顔を上げると、


「お昼を作ったので、一緒に食べませんか?」


 と笑顔でいてきた。

 俺は――ああ――と答えると、


「それよりも……」


 謝ろうとした。けれど、


「消化が良い物の方がいいですよね♪」


 冷たくない『おうどん』ですよ――と菊花。俺の手を引く。それから、


「あっ、そうだ」


 と言って手をたたくと、俺のにおいをいだ。


「汗をいていますね」


 先にシャワーにしますか?――とかれたが、ぐぅ~と俺の腹が鳴った。


「フフフッ♪」


 菊花が笑う。そして、


「分かりました。お昼を食べたら、一緒に入りましょうね」


 などと言い出す。

 起き抜けで頭が回っていなかったため、同意する所だった。


 冗談で言ったのだと思いたいが、勘弁して欲しい。

 いや、それよりも――


(どうやら、彼女は怒っていないらしい……)


 むしろろ、楽しそうに見える。



    ◇    ◇    ◇



 お昼も終わり、俺が汗を流している間に、洗い物と洗濯を菊花がやってくれていた。


「あっ! お部屋もお掃除しますね♪」


 センパイはゆっくり休んでいてください♡――と言われる。

 倒れてしまった手前、素直に言う事を聞くしかない。


 仕方なく、談話室で扇風機を回し、長椅子ソファーに座りながらスマホを見る。

 調子は戻っていたが、大事を取った方がいいだろう。


 やがて、部屋の掃除を終えた菊花がやってきた。

 今は換気をしているので、部屋に戻るのは、もう少し後にした方がいいそうだ。


「センパイっ!」


 お願いがあるんです♪――と菊花が俺に体当たりをして、横に座る。

 どうにも、今日の彼女はテンションが高い。


なんだ?」


 デートをダメにしてしまったので、今日は出来る範囲で菊花の言う事を聞くつもりだ。


膝枕ひざまくら、させてください!」


 フンスッ!――と意気込む。

 どちらかと言えば、俺がお願いする事のような気もする。


「いいけど、暑くない?」


 それに重たいだろうし――そんな俺の質問に、


「構いませんよ? センパイ専用です!」


 そう言って太ももを見せる。

 別の欲求が湧いてきたけれど、なんとか平静をよそおう。


 俺は立ち上がると姿勢を変え、彼女の太ももにお世話になる事にした。

 肉付きがいいので、柔らかい。


「えへへ♡ 今日のあたしはすごく、彼女っぽいです♪」


 などと言って俺の頭をでた。

 母親のような気もしなくはないが、黙っておこう。


 最初は女子の膝枕ひざまくらという事で、内心ドキドキしていた。

 けれど、ぐに眠くなってしまう。


「彼女っぽいか……」


 自然と閉じてしまうまぶたと格闘しながら――それが菊花の遣りたい事なのか?――などと、ボンヤリする頭で考える。


 年下なので、つい妹のように接していたのかも知れない。


「センパイのお役に立てて、あたしは幸せです♡」


 と菊花の声が優しく響く。俺は少し勘違いをしていたようだ。

 彼女のしたかった事は『俺を助ける事』なのだろう。


「これからは、もう少し頼る事にするよ」


 そんな俺の台詞セリフに、


「はい、そうしてください♡」


 と嬉しそうに微笑ほほえんだ。そんな菊花の首には、桃色ピンクの石がアクセントになっているハート形のペンダントが揺れていた。

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