第42話 わたしも、アレが欲しい!


「そんな事があったのだな!」


 と弥生やよい。いつも元気でうらやましい。

 そんな彼女に、今日は買い物に付き合ってもらっている。


 彼女の買い物の訓練にもなるだろう。


(本来なら、母親と一緒に買い物をして覚えるんだろうけど……)


 本土と違って、この島では欲しい物がぐに手に入る訳ではない。

 ある程度、これからの出来事を想定して、購入する必要がある。


 しかし、そんな俺の考えよりも、別の事に『興味がある』ようだ。

 勿論もちろん、先日の朔姫さくひめ菊花だりあとのデートの件についてだ。


 俺としても、第三者の意見を聞きたかった。

 そのため、さわりのない範囲で話をする。


「やっぱり、菊花には悪い事をしたかな……」


 俺のつぶやきに対し、


「そんな事はないぞ!」


 弥生は自信満々に答える。

 女子の視点からすると問題のない行為こういだったのだろうか?


 この島のお店は、観光客用に特化している。

 そのため、アクセサリー類が如何いかにもネタっぽいモノが多かった。


 ハート型のペンダントは――微妙ダサイかな?――と思わない事もない。


(朔姫は感覚が昔の人だから喜んでいたけれど……)


「わたしだったら、すごく嬉しい!」


 と弥生は微笑ほほえんだ。

 なんだか、俺の方が恥ずかしくなってくる。


 デートの内容にしても、学校と寮だ。

 普通だったら、ガッカリすると思うのだけれど、弥生の場合は違うらしい。


 それは彼女が学校に通った事もなければ、寮生活を始めて間もないからだろう。

 そんな風に俺が結論けつろんけると、


ひかるが一生懸命、わたしの事を考えてくれる……」


 それはすごく嬉しい事だぞ!――と弥生。

 教えるつもりが、彼女に教えられてしまった。


「ありがとう」


 弥生は良い子だな――と俺は彼女の頭をでる。

 朔姫を相手にしている影響だろうか?


 弥生が子供っぽい事も原因だろう。けれど、どうにも以前の自分からは考えられないような行動を取ってしまう事がある。


 今回は弥生が喜んでいるからいいが、なるべく気を付けた方が良さそうだ。



    ◇    ◇    ◇



 五人分の食材はそれなりに重たいが、弥生と二人なら持てない量ではない。

 寄り道になるけれど、涼しくなった夕方の砂浜を並んで歩いた。


「ここでの暮らしは気に入った?」


 俺の質問に対し、


「ああ、楽しいぞ♪」


 と弥生。買い物袋を持っていなければ、走り回っていたかも知れない。

 言うのなら、今がいいだろう。


「朔姫を連れて行くのは止めて欲しい」


 そんな俺の言葉に、ピタリと弥生は動きを止めた。


勿論もちろん、消えてしまう【神様】を放って置けないのは理解できる」


 彼女に対しては正論よりも情にうったえるり方がいいのだろう。

 今までの俺なら躊躇ためらう事なく、そうしていたはずだ。


(それなのに……)


 情にうったえる方法を嫌悪けんおしているなんて、可笑おかしな話だ。

 この島に来てから、随分ずいぶんと人間っぽくなった気がする。


「わたしは――それが仕事だから……」


 弥生自身も朔姫を連れて帰る事が正しいとは思っていないのだろう。

 ただ、他の選択肢を知らないのだ。


「ごめんね、忘れて……」


 俺はそう言うと、再び歩き出す。


「ま、待ってくれ!」


 と弥生に言われ、俺は足を止めた。


「そうだ! 晄も一緒にわたしと来ればいい……」


 そんな弥生の言葉に、


「ダメだよ」


 と俺は即答する。理由は簡単だ。


神月かみつきさんを一人には出来ない」


 その言葉で、弥生は反省する。

 自分の事しか『考えていなかった』と思っているのだろう。


 短い寮生活だけれど、彼女にもキチンと影響を与えていたようだ。


「ダメだな、わたしは……」


 一人になる怖さを知っているのに――とうつむく。

 こうなる事が分かっていたから、俺は躊躇ためらっていたのだろう。


「ダメじゃないよ……」


 俺が神月さんの問題を解決する――そんな俺の台詞セリフに彼女は顔を上げた。

 弥生の目を見詰めて、


「だから、もう少しだけ時間をくれないか?」


 そうすれば、弥生とも一緒に居られる――と今度はお願いをした。


「晄はずるい奴だな……」


 と弥生。俺自身もそう思うので言い返せない。

 分かった――と彼女から了承りょうしょうの言葉を引き出した。


「そんなに……わたしと離れたくないのなら、仕方がない」


 そう言って、今度は弥生が俺の前を歩いた。


(まるで、朔姫みたいな事を言うな……)


 俺は苦笑しつつ、その後に続く。

 階段をのぼり、砂浜からアスファルトの道路へと出る。


 観光客相手だろうか? 広場に人が集まっていた。


なにか買っていこうか?」


 俺の問いに対し、


「いいのか⁉」


 と弥生。ちょっとした『お祭り』のような雰囲気ふんいきだ。

 彼女も気になっていたらしい。


 ――『クレープ』や『たこ焼き』でも買って帰ればいいかな?


 その程度に考えていた。

 けれど、弥生はとある出店の前で足を止めた。


(それ……なのか?)


 俺は顔には出さず、平静をよそおう。


「わたしも、アレが欲しい!」


 そんな事を言って、弥生が指差したのはアクセサリーだ。

 当然のようにハート形の指輪を見て、目を輝かせている。


 最近、これみよがしに朔姫と菊花が身に付けていたので、神月さんにも先にプレゼントしていた。水色の石がアクセントのハート型のペンダントだ。


(本当はデートの時に渡したかったのだけれど……)


 ――やれやれ、弥生だけ仲間外れにする訳にもいかない。


 手痛い出費だけれど、俺は指輪とチェーンを購入し、弥生にそれをプレゼントした。

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