第40話 じゃあ……今度、一緒に行こうか?


 結局、あの後は教室で一緒の椅子イスに座ったり、机を並べて『お弁当』を食べたり、一緒のイヤホンで音楽を聴いたりしただけだ。


 正直、いつも部室でっている事と変らない。


(あんな事で、本当に満足なのだろうか?)


 誰かに相談できる事でもないし、一週間った今でもスッキリとしなかった。

 ただ、俺が学校の【神】アイドルを独り占めした時間でしかない。


 ――この気持ちはなんだろうか?


(優越感? いや、違うな……)


 どうにも俺は、朔姫さくひめを『もっと喜ばせたい』と思っているようだ。

 その気持ちに対して、デートの内容が普段やっている事と同じだった。


 結果として、に落ちないのだろう。


(明日は菊花だりあとデートだ……)


 ――気持ちを切り替えよう!


 予定では映画を観て、買い物。

 俺の『バイト先を見たい』と言っていたので、そこで食事をする。


(うん、デートって……こういうモノだよな?)


 朔姫の場合は、単に学校でイチャイチャしたに過ぎない。

 ただ、学年の違う菊花にとっては、うらやましい事のようだ。


 朔姫の話を聞いて、悩んでいる様子だった。

 なので『学校デート』というのも、正解なのかも知れない。


(しかし、朔姫と同じというのもな……)


 俺としては『ふところが痛まない』ので『学校デート』の方が助かるのは事実だ。

 けれど――それではいけない!――と首を横に振った。


 菊花の事だ。

 俺のふところ事情を知っていて、気をつかう可能性もある。


「どうしたのだ? ひかる……」


 悩む俺の様子が気になったのだろうか?

 食堂で明日のデート計画プランを確認していた俺に弥生やよいが話掛けてくる。


(そう言えば、今日は弥生に料理を教える約束をしていたっけ……)


 忘れていた。疲れているのだろう。

 バイトを頑張り過ぎたようだ。


「ああ、ゴメン……」


 今、準備するよ――と俺が立ち上がると、少しフラつく。

 それを弥生が支えてくれた。


「本当に大丈夫か?」


 心配してくれる彼女に――ありがとう――と俺は礼を言う。


「気にするな! 友達だからな……」


 そう言って、弥生は嬉しそうに微笑ほほえむ。


「それに……」


 お前とくっつのは嫌じゃない――ボソリとなにかをつぶやいた。

 声が小さくて、よく聞こえない。


 ――やはり、恥ずかしかったのだろうか?


 顔を赤くしている。

 俺としてはもう少し、このままの姿勢で休んでいたい所だった。


 けれど、朔姫に見付かると厄介だ。

 事情を問い詰められ、明日のデートは中止になってしまうだろう。


 それでは菊花に申し訳ない。

 勘違いをされて――我という者がありながら――と揶揄からかわれた方がまだマシだ。


 勘の鋭い朔姫の事だ。俺の不調には、ぐに気付くだろう。

 俺は急いで弥生から離れる。すると、


「あっ……」


 声を上げ、名残なごりしそうに彼女は俺を見詰めた。

 手を伸ばしてきたけれど、途中で思いとどまる。


 どうやら、心配してくれているようだ。


「もう大丈夫だから……」


 と俺が伝えると、


「そ、そうか?」


 あははは――と元気なく笑う。

 それと同時に、彼女は視線を動かす。


 視線の先には、俺が食卓テーブルの上に広げていたノートがあった。


「デート計画プランと書いてあるな! み、見てもいいか⁉」


 といてきくる。

 気不味きまずい雰囲気になったので、話を切り替えたかったのだろうか?


 いや、弥生も女の子だ。単純に興味があるだけかも知れない。

 どうせ、後で女子達だけで集まって、話をするのだろう。


 たまに『女子会』を開いているようだ。


「いいよ……でも、菊花には内緒だよ」


 俺はそう言って、了承りょうしょうする。


「分かったぞ!」


 と弥生。まじまじとノートを見詰めた。


「これがデートというモノか……」


 などと彼女がつぶやくので、逆にこちらが恥ずかしくなる。

 俺が後悔していると、


「わたしだったら、映画より水族館に行ってみたい……」


 この間の海水浴も楽しかったな♪――そんな事を言って微笑ほほえんだ。

 病院での暮らしが長かったのだろう。


 そういった意味では――元病院のこの寮は――彼女にとって馴染なじやすかったようだ。


「弥生は海が好きなんだな……」


 と俺はつぶやく。いや、あこがれているのだろうか?

 幼少の頃は寝たきりだったので、十分に可能性はある。


「じゃあ……今度、一緒に行こうか?」


 俺の言葉に――ホントか⁉――と弥生は目をかがやかせた。


「畑仕事を手伝ってくれるのならね」


 付け加えた俺の条件に対して、


「分かったぞ!」


 と弥生は即答する。

 俺としては、帰りに彼女が疲れて眠ってしまわない事をいのるばかりだ。


(弥生は【死神】には向いていないな……)


 気を付けてあげる必要がある。

 無意識に俺は彼女の頭をでていた。


 フフン♪――と弥生も嬉しそうにする。

 無邪気な彼女をつい甘やかしてしまうのは、俺だけではないだろう。


 神月さんや菊花も、なにかと面倒を見ているようだ。


(不思議なだな……)


 二学期が始まる前に色々と経験を積ませ、人との付き合い方を教える必要がある。

 問題は――この寮で暮らす俺達も経験が少ない――という点だろう。


「さて、料理を教えるよ……」


 そう言って俺はエプロンを着けた。

 今日は『天麩羅てんぷら』だ。


 サクサクに揚げるには『油の温度』と『ころも』の付け方がポイントになる。

 定番の『海老えび』に『烏賊いか』。それと『野菜のかきあげ』も作ろう。

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