第11話 これで我にも彼氏が出来たのじゃ!


「上手く行ったようでなによりじゃ!」


 と朔姫さくひめ。手をつないで帰ってきた俺達を見て、笑顔を浮かべる。

 なんだが急に恥ずかしくなり、俺達はどちらから、という事もなく手を離した。


「「……」」


 互いにしばしの沈黙。

 俺はもう一度、手を差し出してみる。


 すると、神月かみつきさんも同様に手を俺の方に伸ばしていた。

 指が触れるか触れないかの距離で恥ずかしくなり、互いに手を引っ込める。


なにをやっとるんじゃ、おぬしらは……」


 そう言って、あきれた表情をする朔姫。

 まあよい、中へ入れ――と俺達をうながす。そして、


「あっ! 食事じゃから、手は洗うのじゃぞ!」


 一度、立ち止まり、そう告げると食堂へ戻って行く。

 夕飯の準備が出来たので、神月さんを呼びに行った事をすっかり忘れていた。


(少し勿体もったいない気もするけど……)


 食事では仕方がない。俺は大人しくしたがった。

 俺達は席に着き、食事を始めたのだけれど、


「「……」」


 会話が続かない。

 そもそも、神月さんは話す方ではないし、俺も得意な方ではなかった。


なんじゃ、二人してモジモジしおって……」


 気持ち悪いのう!――とは朔姫。

 どうやら、俺達の様子がれったかったようだ。


「付き合っとるんじゃから、手ぐらい何時いつでもつなげばいいじゃろ……」


 そう言って、朔姫は溜息をく。しかし、


「つ、付き合っている訳では……」


 と神月さん。確かに、お互いの気持ちは伝えた。

 けれど、『付き合う』という確認は出来ていない。


「そうだな……もうちょっと、雰囲気ムードのある場所で……」


 俺はそう言って頬をいた。

 互いに顔をらし、うつむく俺達。


 朔姫は心の底から――うわぁー、こやつら面倒臭い――という顔をする。


「仕方ないのう……ほれ『あ~ん』するのじゃ」


 朔姫は何故なぜかそう言って、身を乗り出す。

 前屈まえかがみになっている所為せいで、大きな胸がより強調される。


 恐らく、それも計算済みなのだろう。


「ほれ、手が疲れる……」


 早よせんか!――と言われたので、仕方なく俺は口にする。


美味うまいか?」


 そう聞かれたので、俺がうなずくと、


「えへへ♪ 嬉しいのう……」


 朔姫は両手を頬に当て、照れた仕草をする。

 いったい、なにが始まったのだろうか?


「なぁに、分かっておる! われの事が好きなのじゃろ?」


 と朔姫。


(いきなり、なにを言い出すのやら……)


 違うよ――とばかりに、俺は手と首を振る。

 神月さんもコクコクとうなずいた。


「おぬしらの考えは分かっておる! われに気をつかっておるのじゃろ?」


 ならば三人で付き合えばよい!――と意味不明な事を言い出した。


「遠慮します!」


 と俺。神月さんも、


「違う……」


 と声に出す。しかし、


「これでわれにも彼氏が出来たのじゃ! 嬉しいのう♪」


 全然、聞いてはいないようだ。


「思い起こせば、人を別れさせる事はしてきた……」


 だが、誰とも付き合った事はなかったのう――と急にさびしい事を言い出す。


「人から必要とされなくなった【神】は、いつ消滅しても可笑おかしくはない……」


 かなだけではなく、われの事も可愛がるのじゃぞ!――と朔姫。

 なにやら面倒な事になってしまった。


 しかし、『消滅』と言われると断りづらい。

 ハッキリ言って――俺達の邪魔をしたいのではないか?――とうたがってしまう。


(いや、そう言えば『縁切り』の神様だったような……)


 思い起こせば、俺と神月さんが『いい雰囲気』になると、必ず現れるような気がする。わざとではないのだろうけど、無意識というのも性質たちが悪い。


「彼女が一度に二人も出来て良かったのう♡」


 と朔姫。俺は困った顔で神月さんを見たのだけれど、彼女も同様にまゆひそめて俺を見ていた。


 本来は訂正すべきなのだろうけど、彼女の協力がないと神月さんの力を消す方法が分からない。


 今は機嫌をそこねる訳にはいかない。

 俺と神月さんは互いにうなずいた。


なんじゃ⁉ 二人して通じおって……」


 われぜよ!――と朔姫。


(こうして、俺に彼女が二人できたのだけれど……)


 どう考えても、苦労する未来しかないようだ。



    ◇    ◇    ◇



 翌日――俺は早起きをして、寮の庭を確認した。

 神月さんを探すために昨日、寮の周りを探索した際に見付けたのだ。


 日当たりも良さそうだし、水道の蛇口もある。

 まだ五月なので草もそれ程、伸びてはいなかった。


 俺は寮に戻ると朝食の際に、朔姫へ庭の使用許可を取る。

 元々、使われてはいないので『好きに使ってよい』との事だった。


「良かったですね」


 と神月さん。午前中は『草むしりをする』と伝えると、手伝いを申し出てくれた。

 朝食を取った後、休憩をしつつ、道具を準備する。


 神月さんは再び、麦わら帽子を貸してくれた。

 どうやら、海に囲まれた島暮らしでは、こういった帽子が必需品らしい。


 『くれる』というので、俺は遠慮なくもらう事にした。

 彼女と協力して、手早く草刈りを済ませる。


 伸びている草を鎌で狩り、シャベルで根を掘り起こす。

 単純な作業だけれど、屈んでいるため腰が痛くなる。


 狩った草は神月さんに袋へとまとめてもらった。

 最初は草に隠れていたけれど、煉瓦れんがに囲われた花壇かだんが姿を現す。


 元が病院だった事から、患者達のために花を植えていたのだろう。


「ほほう! なかなか手際てぎわが良いではないか⁉」


 恋愛は奥手なようじゃがな――と一言多い朔姫。

 どうやら、冷えた麦茶を作って、持ってきてくれたようだ。


 俺達は有難ありがた頂戴ちょうだいする。


「やはり、ダーリンと一緒だと【神気しんき】は出ないようじゃな!」


 と朔姫。『ダーリン』とは俺の事だろうか?

 だとしたら止めて欲しい。俺がお願いすると、


「大丈夫じゃ! 『ハニー』と呼んでくれて構わんぞ♪」


 と返される。全然、大丈夫ではない。

 もし、学校でそんな呼び方をされた場合、色々と面倒な事になる。


 ――いや、それよりも【神気しんき】ってなんだ?

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