第12話 そういうモノかな?


 あの後、俺はなんとか『ダーリン』呼びを阻止そしする事に成功した。

 同時に【神気しんき】については、気になっていたのでたずねてみた。


「ん? 分からんのか……われからも出ているであろう!」


 この神々こうごうしいオーラが!――と朔姫さくひめ

 自信満々に胸を張る。


「ごめん、まったく分からないよ」


 取りえず、謝っておこう。


「まぁ、分からんからこそ……」


 かなと一緒にいて、平気な訳じゃがな――と朔姫。

 今、俺達が居るのは食堂だ。お昼を食べるために集まっている。


 今日は汗をいたので、俺が『炒飯チャーハン』を作った。合わせてスープも用意したけれど――『餃子ぎょうざ』も作ればよかった――と後悔する。


 ただ、女子二人なので、そんなには食べないだろう。

 案の定、二人には丁度いい量だったようだ。


(この辺は少しずつ覚えて行こう……)


 学校を卒業するまでの三年間は、一緒に暮らす可能性がある。

 そんな事を考えつつ、


「つまり、その【神気しんき】が出ていると、神月かみつきさんが『怖がられる』ってこと?」


 俺の質問に、


「そうなるのう……」


 と言って、お茶をすする朔姫。

 俺は少し考えた結果、


「じゃあ、俺が一緒だと【神気しんき】をおさえられるってこと?」


 質問を変えてみた。しかし、


「少し違うのう……」


 と朔姫。続けて、


「奏が落ち着いたり、安心したりすると【神気しんき】は無害なモノに代わり、逆に不安や怒りの状態になると【神気しんき】の質が変わるのじゃ」


 そう語る。どうやら今は、俺が神月さんにとっての『精神安定剤』のような存在になっているらしい。


「小学生の頃までは、家族といる事で安定していたようじゃが……」


 朔姫が急に声のトーンを落とす。神月さんもうつむいた。


「まさか、家族になにかあったの⁉」


 俺は真剣な表情になる。

 だとすれば、神月さんが家族の事を話したがらない事にも納得が行く。


「いや、思春期特有の症状じゃ」


 朔姫が冷静に返すと、神月さんは顔を赤くした。

 特有の症状というと『アレ』だろうか?


「お父さんのパンツと一緒に洗わないで!――とかいう『アレ』?」


 そう言って俺が首をかしげると――うむっ!――と朔姫はうなずいた。

 どうやら理由もなく、お父さんが嫌われてしまう『アレ』らしい。


(男子も反抗期になると、急に母親の事を『ババア』と言ったりするしな……)


 ――『厨二病』になるよりはマシだろうか?


 俺も親元を離れたかったので、神月さんの事をとやかく言えない。

 人間には、一人になる時間も必要だ。


「暗い話じゃなくて良かったよ……」


 俺はそれだけ言うと、冷蔵庫から『杏仁豆腐』を取り出した。

 二人が喜ぶと思い、作って冷やしていたのだ。女子二人の目の色が急に変わる。


 ――なんだろう?


 さっきまで『お腹はいっぱい』みたいな感じだったのに、二人は――ペロリ♪――と平らげてしまった。


 ――やはり女子という生き物は、よく分からない。



    ◇    ◇    ◇



 午後になり休憩を取った後、俺は印刷した紙をクリアフォルダに入れ、目の付く場所に貼り出した。お風呂の時間や当番などを忘れないようにするための注意書きだ。


 大きめの文字で、重要な箇所は赤字で印刷しておいた。


「ふむふむ、気が利くのう……」


 と朔姫。いくら『付き合っているから』といっても、男女が一つ屋根の下に住んでいるのだ。ルールを決めて守らなくてはいけない。


 電気の確認や鍵の使用状況、道具の貸し出しを確認する『チェックシート』も作った方がいいだろうか?


「昼食時にも、冷蔵庫になにか貼っていたのう……」


 メモ用のホワイトボードと『閉め忘れ注意』と書いた紙だ。

 他にも中になにが入っているのか、付箋紙に書いて貼っておいた。


「なぁ、朔姫……」


 神月さんは俺の何処どこが好きなんだろう?――と俺は質問する。


なんじゃ? 唐突とうとつに……」


 と朔姫は面倒そうな顔をしたが、


「多分……今、おぬしがしている事じゃろう」


 そう答えた。


 ――俺がしている事?


 注意書きを貼る事で『女子に好かれる』とは思えない。

 俺は――分からない――と顔に出していたのだろう。


「やれやれ、仕方のない奴じゃ……」


 朔姫はそう言って、肩をすくめると首を横に振った。そして、


「普通の人間は頼まれても、なかなか他人のためには動かんモノじゃよ……」


 特に奏のような存在のためにはな――と意味深な事を言う。


「そういうモノかな?」


 俺の返答に――そういうモノじゃよ――と朔姫。

 神様が言うのであれば、そういう事にしておこう。


 一通り作業が終わると、俺は畑仕事を再開する。

 今度は軽く掘り起こす作業だ。


 煉瓦れんがに囲われてはいなかったが、庭の中央も花壇かだんとしても使われてた痕跡がある。


(土が柔らかい……)


 ガスや水道の菅は通っていないようだ。


「手伝いますか?」


 と神月さん。俺は首を横に振ると、


「今日も釣りに行こうと思うけど、一緒に行く?」


 そう言って誘ってみた。


「はい!」


 と彼女は返事をする。

 今日は仕掛けを変えて、外海の方で大物を狙ってみてもいいかも知れない。


 大きめの竿と三脚ロッドスタンドを倉庫代わりの部屋から探す。

 針と糸、それに『おもり』もあるので、内海で釣った魚をえさにすればいいだろう。


 俺達は自転車を準備すると、昨日と同じように海へと出掛けた。


(筋肉痛ではあるけれど……)


 ――これを繰り返していれば、その内、平気になるだろう。

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