第13話 男ってホント、アホだな……


 GWゴールデンウィークはあっという間に明けてしまった。

 それだけ、充実した時間だったとも言える。


 俺はと言えば、筋肉痛で身体からだのあちこちが痛い。

 女の子の手前、張り切り過ぎてしまったようだ。


(男ってホント、アホだな……)


 学校へは時間を決めて、三人で一緒に出る。

 朔姫さくひめが、お昼の弁当を作ってくれた。


 最初は学食があるので遠慮したのだけれど、神月かみつきさんの体質を考えた場合『大勢の人が集まる場所』は危険らしい。


 集団でパニックになるぞ!――と朔姫におどされた。


 ――というか、俺と一緒にお昼を食べるつもりのようだ。


われが部室を借りているから、いつもそこで食べておるのじゃ!」


 朔姫は楽しそうに鍵を見せてくれる。そして、


「うむっ! 彼女として彼氏にお弁当を作る日が来るとは……」


 なにやら感慨かんがいふけってるようだ。

 成行なりゆきとはいえ、クラスで人気の女子とそういう関係になるのは――


(悪い予感しかしない……)


 嫉妬しっとした男子達にうらまれるのも面倒なので、学校では内緒にしてくれるように頼んでおいた。


 分かっておるわ!――と朔姫。


「あの二人、付き合ってるんじゃね?――という空気をただよわせて……」


 学園祭で告白するパターンじゃな!――と楽しそう語る。

 ある意味、彼女の思考は尊敬そんけいあたいする。


「まぁ、そんな感じ……」


 俺が遠い目をすると、神月さんは苦笑した。


「そう言えば『神狩かみがり』について……」


 詳しくいていなかったけど――そんな俺の台詞セリフに、


「うむっ! 本来、人は【神】の力にはあらがえぬ」


 抵抗すると『神罰』が落ちるからのう――と朔姫。

 随分ずいぶん物騒ぶっそうな話をするモノだ。


「まぁ、今となっては【神】の力も昔程、強くはない……」


 安心せい!――朔姫は笑う。


(まったく、安心できる要素がないのだけれど……)


 しかし、神様がいたとして『絶対的な能力があるのか』と問われれば、答えはNOノーだろう。


われらは人の心にうだけじゃ」


 朔姫は少しだけさびしそうに語る。


「つまり、信仰心とかが関係あるの?」


 俺の問いに、


「そうじゃのう……われのような【神】の場合はそうじゃが……」


 かなの場合は『守り神』なので土地に縛られる――と朔姫。


「じゃあ、神月さんをこの島から出せば……」


 俺の安易な考えに、


「その場合は『別の誰か』が代わりを引き受ける事になるか……」


 もしくは出られない可能性もあるのう――と朔姫。

 その口調から、あまり『いい方法ではない』らしい。


「例えば、船に乗ったとしよう……」


 彼女は淡々たんたんと話を続ける。


「すると、その船がしずんで、奏だけが島に流れ着く」


 そんな可能性もあるのう――そう言って腕を組んだ。

 どうやら、過去に似たような事があったらしい。


「神月さんの場合は『この島と、その周辺に影響をおよぼす』って事か……」


 俺は自分なりに解釈する。

 まるで彼女が、この島にとらわれているようだ。


「『縛られている』とも言うのう」


 と朔姫。神月さんは申し訳なさそうな顔をしている。

 朝の――それも登校中にする話題ではなかったようだ。


 俺は反省する。


「まぁ、その影響を受けない人間が『神狩かみがり』じゃな……」


 実際に昔は【神】を倒す者もいた――と朔姫。

 平気そうにしているけど、俺の事は怖くないのだろうか?


 俺が心配すると、


「大抵の場合は恋に落ち、結婚してしまうがのう」


 安心するのじゃ――ケラケラと彼女は笑う。

 俺としては、まったく安心できない。


 彼女は一旦、笑うのを止めた後、


「まぁ、問題があるとすれば……」


 と告げる。

 あるとすれば――なんだろうか?


われ『縁切り』の【神】ゆえ、『神狩かみがり』とは縁がないのじゃ……」


 朔姫は人差し指を突き合わせ、モジモジとした。


 ――そこは恥ずかしがる所なのだろうか?



    ◇    ◇    ◇



 学校へ着き、教室へ入ると、


「おおっ! オレ達の【神】が降臨なされたぞ!」


恋仲こいなか様、おはようございます!」


「今日も神々こうごうしいわ!」


 クラスメイトが急に騒ぎ出す。


(嫌だな、このクラス……)


「うむっ! 皆の者、久方振ひさかたぶりじゃのう!」


 おはようなのじゃ――と挨拶する朔姫。

 これだから、一緒に登校したくなかったのだ。


 俺と神月さんは巻き込まれないように、教室の反対側――後ろの扉――から入る。


(『縁切り』の【神】だから、波長が合うと影響を受けやすいのかもな……)


 『別れたい』または『別れさせたい』と思う相手がいるのかも知れない。

 逆に付き合っていて、幸せなら『別れたくない』だろう。


 そういう人間は影響を受けにくはずだ。

 一方で付き合っている連中をねたむ気持ちが少しでもあれば――


(こんな風になる訳か……)


 なんだか、クラスメイトが可哀想になってくる。その点、俺は他人と距離を置くようにしているから、影響を受けにくいのかも知れない。


 クラスの連中と適当に挨拶を交わしつつ、自分の席に着く。

 これも俺の処世術しょせいじゅつだ。


 他人と深く関われないため『広く浅く』を心掛けている。

 クラスの全員とはすでに会話を済ませていた。


 特別、仲が良い友達はいないが『悪い相手も作らない』というスタイルだ。

 俺は神月さんが席に着いたのを確認する。


 入学したばかりなので、席は男女交互の列になっていて出席番号順だ。

 男子の『天寺あまでら』である俺と、女子の神月さんの席は近い。


 そのため、なにかと声を掛けていた事を思い出す。

 と言っても、挨拶程度の事務的な会話だ。


 今にして思えば、彼女に平気で話し掛けるのは俺くらいだったのだろう。


(そりゃ、好意を抱かれたりもするか……)


 現に神月さんの近くに居る連中の顔は青褪あおざめている。


 ――仕方がない。


(神月さんに声を掛けに行くか……)


 そう思った時だった。


「おおっ! 何故なぜ、おぬしがこのクラスにるのじゃ?」


 と朔姫さくひめ。その声にクラスのほぼ全員が俺に注目する。


(そりゃ、同じクラスだからだよ……)


 どうやら、本当に俺の事を覚えていなかったようだ。

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