第14話 この寂しん坊めっ♡


「おおっ! 何故なぜ、おぬしがこのクラスにるのじゃ?」


 と朔姫さくひめ。その声にクラスのほぼ全員が俺に注目する。


(そりゃ、同じクラスだからだよ……)


 どうやら、本当に俺の事を覚えていなかったようだ。


「ふっふ~ん♪ さてはわれに会いたくて、ついてきたのじゃな!」


 このさびしん坊めっ♡――と朔姫。

 正直、ちょっとイラっとする。


「最初から同じクラスだよ……」


 嫌だなぁ、恋仲こいなかさん――と俺は笑顔の仮面を張り付けた。一方、


なんじゃ、そうなのか?」


 朔姫はそう言って首をかしげる。

 するとそばに居た生徒が、


「はっ! 存在感は薄いですが、クラスメイトです!」


 と答える。


(いや……『存在感は薄い』とか、説明する必要なくない?)


 そういう風にクラスに溶け込んでいるので、否定はしない。

 けれど、面と向かって言われるのは、ちょっと傷付く。


「うむっ! それなら早く言わんか!」


 おどろいてしまったぞ⁉――と朔姫。

 俺は――言わなくても覚えておいてくれよ――そう思いながらも、


「ごめんね、恋仲さん」


 と謝る。よいよい――と朔姫。


「どうやら、われとおぬしは出会う運命だったようじゃな」


 そう言って、いつものように、自分の都合のいいように解釈する。


「オレもです!」「ワタシもよ!」


 と他の生徒達が次々に声を上げた。

 その様子を――ふむっ!――と満足気に見渡す朔姫。


「今日も恋仲さんは絶好調だな」


 何処どこか満足そうな表情で、後ろの席の伊藤が話掛けてくる。


「そうだな……」


 俺は朔姫を見詰めつつ、言葉を返した。

 これがこのクラスの日常である。



    ◇    ◇    ◇



 昼休みになり、神月さんを連れて朔姫は教室を出た。数名の生徒が付いて行きたそうに、そわそわとしていたが、結局は教室に残る事にしたようだ。


 俺は目立たないように、こっそりと教室を出る。

 まぁ、そんな事をしなくても――


(誰も俺に注目はしていないのだろうけど……)


 おもに文化系の部活が集まっている旧校舎――部室棟――へ移動した。

 見た目は古いが、中は改装されているので意外に綺麗だ。


 吹奏楽部や演劇部も使うので、防音もしっかりとしている。

 俺は階段を上がり、二階の一室へと向かった。


(確か『歴史研究会』だったかな……)


 『神部』が良かったのじゃ!――と朔姫が言っていたのを思い出す。

 流石さすがにそれでは申請が通らないだろう。


 勝手に入部させられてしまったが、仕方がない。


(後でWebウェブページを作成して、それっぽく活動しているていにしなくては……)


 島の学校なので部活動自体、あまりさかんではないようだ。

 ちがう生徒の数が少ない。


(人数が集まらないのがおもな原因かな……)


 その所為せいもあって、油断していたのだろう。

 途中、魔女の格好をした生徒とちがい、おどろいてしまった。


 ――『演劇部』だろうか?


(『魔術研究会』や『コスプレ研究会』かも知れない……)


 そんな、どうでもいい事を考えていると、


「キャッ!」


 と後ろで短い悲鳴が聞こえた。

 振り向くと、魔女生徒の外套マントが引っ掛かっているようだ。


 校舎を改修する際に、古い木材を再利用したのだろう。

 誰かが硬いモノでもぶつけたのか、傷んだ箇所に外套マントが引っ掛かっている。


「今、はずすよ」


 俺はそう言って駆け寄ると、生地がいたまないように丁寧ていねいに対応した。


「大丈夫?」


 そう質問すると、


「はい、ありがとうございます! センパイ♡」


 と少女は微笑ほほえんだ。一方、


 ――センパイ?


 俺は首をかしげる。


(同じ一年生ではないのだろうか……)


 その奇抜な格好に目が行き、気が付かなかったけれど、よく見ると制服が違った。

 どうやら、中等部の生徒のようだ。


 中高一貫のため、部室棟である旧校舎を共有しているらしい。


(部活に興味なかったから、気にしてなかった……)


 彼女は――クルリ♪――とターンしポーズを決めると、


なにか困った事があれば言ってください!」


 あたし【魔女】ですから!――と微笑ほほえんだ。

 最近、何処どこかで見たような記憶があるのだけれど、気の所為せいだろうか?


 彼女の名前は『倉岩くらいわ 菊花だりあ』というらしい。

 中等部の三年生という事なので、来年は同じ校舎に通う事になるのだろう。


 カントリースタイルのツインテールで、年下のはずなのに母性を感じる。

 みょうな色気を感じた。クラスでは人気がありそうだ。


 俺も簡単に自己紹介をする。


天寺あまでらセンパイですね♪ よろしくです~♡」


 と菊花。俺の手を取り握手をした。

 どうにも、人懐っこい性格らしい。


(こういう時は、どう返せばいいんだったかな……)


「その格好、可愛いね」


 すごく似合っているよ――とめておく。

 なるべく相手をめて、余計な事を言わないのが俺のスタイルだ。


 相手に対して『関心がないから出来る』とも言える。

 ただ今回は帽子や外套マントに花の刺繍やリボン、そしてフリルが付いている。


(どう見ても、こだわっているようにしか見えない……)


「クックック……センパイは違いの分かる方のようですね!」


 菊花は瞳をキラキラとさせた。

 取りえず、良好な関係をきずく事が出来たようだ。


 これから『部室棟に来る事が増える』だろうから、知り合いを増やして行こう。


「ごめん、お昼の約束があるんだ」


 と俺は弁当の包みを見せる。彼女は理解したのか、


「そうですか……では、今度は満月の夜にでも、お会いしましょう!」


 そう言って、外套マントひるがした。

 案の定、また引っ掛けたので、俺ははずしてあげる。


 ペコペコと頭を下げる菊花。

 俺は――そんなに謝らなくてもいいよ――と言って、その場を離れた。


 思ったより、時間を使ってしまった。


(朔姫が怒ってなければいいのだけれど……)

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