エピローグ

第44話 二度目の夏(2)


「やはり、貴女あなた達とは決着を付けなくてはいけないようですね」


 と神月かみつきさん。菊花だりあ弥生やよいも一緒に向かい合う。

 夏休み初日から、大変な事になってしまった。


「なぁ? これ、どうするつもりだよ……」


 俺の台詞セリフに、


「わ、われ所為せいなのか⁉」


 と朔姫さくひめ。他に誰が居るというのだろうか?

 確かに原因は俺なのだろうが、あおったのは彼女だ。


「負けませんよ」

「あ、あたしだって……」

「わたしだって負けないぞ!」


 今、俺の目の前では三人美少女が、それぞれ笑顔で向かい合っている。

 険悪けんあくな雰囲気なら、まだ止めに入れるのだけれど――


なんだか、楽しそうにしていないか?)


 どうやら、変なスイッチが入っているらしい。

 この様子なら流血沙汰りゅうけつざたになる心配はないだろう。


(けれど、このまま放って置く訳にもいかないよな……)


 なにしろ、俺の運命もかかっている。

 以前は彼女達に同情している節があった。


 そのため、平気でいられた。

 けれど最近、みょうに可愛く思ってしまう時がある。


 夜に二人きりとか、俺が我慢できない可能性が高い。


「で、なにで勝負するつもりなの?」


 俺が質問すると、


「えっ⁉ どうしましょう?」

「てっきり、センパイが提案してくれるのかと……」

「わたしも経験がない」


 どうやら、無計画ノープランだったようだ。

 いや、喧嘩の経験など無いのだろう。


 三人とも俺が来るまで、人間関係は希薄そうだったので仕方がない。

 唯一、菊花が姉と喧嘩をした事があるくらいだろうか?


(怒った菊花にヘコヘコ謝る桜花ちえりさんの姿しか、想像できない……)


あきれたモノじゃのう……」


 おぬしらは――そう言って、朔姫はやれやれと肩をすくめる。


(事態がややこしくなるので黙っていて欲しいのだけれど……)


「こういう時は――」


 と朔姫はめを作る。


(暑いので早くして欲しい……)


「夏のチキチキセクシー水着対決じゃ!」


 ドンドンドン、パフパフーっなのじゃ♪――と朔姫。

 満足気に腰に手を当て、胸を張っている。


 ――拍手した方がいいのだろうか?


(いや、止めておこう……)


「チキチキの意味は分かりませんが……」


 理解しました――と神月さん。

 流石さすが、付き合いが長いだけある。


「水着……はっ! そういう事ですね!」


 センパイを悩殺した方の勝ち――とは菊花。

 勝機を見出したのか、口元に笑みを浮かべた。


「よく分からないが、水着という事は海に行くのだな!」


 趣旨しゅしを理解していないのか、弥生は楽しそうだ。

 正直、スタイルの良さなら弥生が一番だろう。


 彼女の性格を知らなければ、余裕とも取れる。


「甘いのう……勝つのはわれじゃ! このダイナマイトバディで……」


 メロメロじゃ♡――そう言って、朔姫は髪をかきあげるとセクシーなポーズで大きな胸を突き出す。確かに取扱注意ダイナマイトという所だけは同意する。


 ――というか、さらりと参加しないで欲しい。


 三人ともすっかり、朔姫の策に踊らされているようだけれど、大丈夫だろうか?

 心配している俺に対し、神月さんは微笑ほほえむと、


「問題ありません、勝つのは『真の彼女』である私です!」


 新しい水着も用意してあります――そう言って『王者の風格』を見せる。

 自信がついたのだろう。出会った頃の彼女とは、別人のようだ。


(これでいいのかは、悩ましい所だけれど……)


「いいえ、神月センパイには悪いですが……」


 勝つのは『未来の妻』である、あたしです!――と菊花。

 高校生になり、女性としての魅力も上がっている。


(普段は大人しいのに、こういう時は積極的なんだよな……)


「フフン♪ 勝つのは『心の友』である、わたしだぞ!」


 皆で海とは楽しみだな!――言葉通り、弥生はウキウキとした様子だ。

 遊ぶ事しか考えていないらしい。逆にこういうのが一番、手強てごわかったりもする。


(――というか、何故なぜにジャ〇アン?)


「じゃあ、お昼を食べたら行こうか……」


 ――有耶無耶うやむやになってくれないだろうか?


 そんな願いを込めて俺がつぶやくと、


「おっ! 居た居た……」

「ほらね、ワタシの言った通りでしょ?」


 と桜花さんと元書記で現生徒会長が現れる。


「ぬっ⁉ なにしに来おった……」


 面倒事なら、お断りなのじゃ――と朔姫。

 自分の事は棚に上げて、よく言うモノだ。


「お姉ちゃん⁉ これから皆で、センパイを悩殺するので邪魔しないでください」


 菊花が余計な事を言う。しかも、誤解されそうな言い方だ。


「単に海に行くだけだよ……」


 俺は訂正した。しかし、


「水着で勝ったら、ひかるを好きに出来るのだ!」


 と弥生が追加でらない情報を与える。

 ニャピーン☆――と桜花さん。猫耳と尻尾が生えた。


 呪いはまだ、残っているらしい。便利に使っている。


「つまり、弟君を誘惑する女の戦いね! そういう事なら……」


 お姉ちゃん達も参加するニャン☆――などと、とんでもない事を言い出す。


「そうだね……夏休みだし、少しくらい羽目を外してもいいだろう」


 とは現生徒会長。眼鏡を直す。

 止める立場だと思うのだけれど、俺の願いは届かなかったらしい。


「面白くなってきたのう♪」


 朔姫が神月さんにきつき、俺を見詰めた。

 めて欲しいのだろうか?


(どう考えても、状況が悪化している気がする……)


 神月さんも困り顔で苦笑した。

 やれやれ、去年の夏も大変だったけれど、今年の夏はもっと大変なようだ。


 どうやら、俺の苦労はまだ続くらしい。

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