第三章 それとも破滅の罠か。

第16話 我の方が愛されておる!


 GWゴールデンウィークが明けるとぐに中間試験が始まる。

 俺としては試験よりも、三人での共同生活にれる事の方が大変だ。


 今は試験の一週間前という事で部活動を禁止されている。

 けれど、昼休みは相変わらず、部室に集まっていた。


 神月かみつきさんの症状については、収まる気配がない。

 学校に対して苦手意識が定着しているのだろう。


 精神的なモノが要因なので、改善するのは難しそうだ。


(せめて、学校に来るのが楽しくなるといいのだけれど……)


 ――仲のいい友達がいれば、いいのだろうか?


 俺は朔姫さくひめを視界に入れる。

 『縁切り』の神様である彼女がそばに居る限り、それはむずかしそうだ。


なんじゃ? われを見詰めて……」


 分かっておる! 一緒のかさで帰りたいのじゃろ⁉――とドヤ顔をする。


(それは俺じゃなくて、朔姫がりたい事だろうに……)


 神月さんは一瞬、おどろいた様子だったけれど、ぐにほほふくらませた。

 俺はなにも悪くないと思うので、納得がいかない。


「でも、この島の人達ってかさ、差さないよね」


 そんな俺の台詞セリフに、


「そこなんじゃよ……」


 と朔姫。海の近くで風も強い。

 かさなど暢気のんきに差していると、れるか飛ばされてしまう。


 また気候も温かいため、れてもぐにかわく。

 合羽レインコートか、着替えを持ち歩く事で対応しているようだ。


われ、小さいから飛ばされてしまうかも知れん……」


 そう言って、椅子イスに座ってPCパソコンを操作していた俺に抱きついてきた。

 まったって、小さくない胸が押し当てられる。


「は、離れ……なさい!」


 と神月さん。ガタッ――と椅子イスから立ち上がる。


「嫌なのじゃ♪ われをしっかりと抱きしめていてくれ……」


 朔姫は当然のように、神月さんの要求を拒否して――ギュッ!――と力を入れる。

 食事をしたばかりなので、締め付けるのは勘弁かんべんして欲しい。


 神月さんは何故なぜか俺をにらんだ。


(そんな顔されても、朔姫は謎に力が強いからな……)


 俺が朔姫の頭をでると、


「ふふふっ、恋人っぽいのじゃ♪」


 と言って上機嫌になった。

 そして、油断させた所にくすぐり攻撃を仕掛ける。


「アッハッハ――めるのじゃ……」


 と朔姫。最初は我慢していたようだけれど、やがて耐え切れなくなり、自分から離れていった。


「もう……『えっち』な奴め」


 朔姫はそう言ってほほを赤くすると、両手で自分の胸を隠すような仕草をする。


(そんな場所、触ってませんけど……)


 一方、なにやら神月さんの様子が可笑おかしい。

 笑顔なのだけれど、怒っているようだ。


 俺自身は見えないし、感じる事は出来ない。

 けれど確実に【神気しんき】が変化したような気がする。


 周囲から音が消え、静寂せいじゃくおとずれる。

 今が試験期間でなければ、この部室棟に沢山の生徒達が居ただろ。


 ちょっとしたパニックになっていたかも知れない。


「か、神月さん……これはその……誤解で――」


 どう言い訳すればいいのか、俺が戸惑っていると、


「あ、あの? 神月さん……」


 何故なぜか彼女は無言で俺の膝の上に座った。

 恥ずかしいのか、そのままうつむき、黙り込む。


(状況がいまいち分からない……)


 ただ、彼女の【神気】の変化は収まったようだ。

 窓の外からは、鳥達の鳴き声が再び聞こえる。


ずるいぞ! われもじゃ……」


 とは朔姫。椅子イスを俺の後ろに持ってくると、その上に膝立ひざだちして、俺を抱き締める。前と後ろ、両方をふさがれてしまい、俺は身動きが出来なくなる。


 何故なぜか、更に面倒な状況になってしまった。


「で? なにをやっておったのじゃ……」


 こんに可愛い彼女を放っておいて――と朔姫。

 耳元で息を吹きかけるように言うのはめて欲しい。


 同時に、後頭部へ柔らかいモノが押してられる。


流石さすがの俺でも、平常心を装うのは難しい……)


「部活のWebウェブページの作成だよ」


 俺はノートPCパソコンの画面を見せる。無料で作成する事も出来なくはないけれど、部活という事もあり、学校のサーバーに置かせてもらう事にしたのだ。


 ほほう――とつぶやき、朔姫はPCパソコンを操作する。


(だから何故なぜ、俺に抱き着いたまま操作するのだろう……)


 ある意味、拷問に近い。


なんじゃ? おぬしが世話をしておる畑の写真に、釣りの情報、われが作った料理の写真とレシピではないか……」


 と朔姫。


「部活のWebウェブページだからいいんだよ……」


 こういうのは無理をしないで、定期的に更新するのがコツだ。畑は島の風土の紹介につながるし、釣れた魚の情報を後悔する事で、島を取り巻く自然環境を紹介できる。


 料理を通して、島の恵みについて紹介すれば、歴史に触れる機会もあるはずだ。


「そういうモノかのう?」


 朔姫はそう言って、俺のほほに自分のほほをくっつけてくる。

 神月さんがこちらに気付いていないのが救いだろうか?


「そういうモノだよ」


 と俺は返すと――うむっ! ご苦労なのじゃ――そう言って、朔姫は離れてくれた。時計を見ると、もうぐ昼休みも終わりそうだ。


「後は学校側に申請するだけだから……」


 試験が終わる頃には許可が下りると思うよ――と俺は告げる。


ひかるくん、すごいです!」


 とは神月さん。彼女もよやくく、ひざから降りてくれた。


なにか活動しないと、部室を取り上げられるかも知れないからね」


 ここが使えないと困るだろ?――と俺は付け足す。

 すると――ほほう――と朔姫は目を細めた。


「そんなにわれと一緒の時間が大切なのじゃな……」


 参ったのう――そう言って、両手をほほに当て恥じらう仕草をする。


(違うよ……)


 対応に困り、俺は神月さんを見た。

 彼女は彼女で、口元を両手でおおい、目を見開いている。


 感動しているか、まるでその背後で――ぱぁっ――と花が咲いている感じがした。

 その瞳は『私のために』とうったえている。


われためじゃ!」


 と朔姫。神月さんも負けじと、


「わ、私のためです!」


 と言い返す。神月さんは普段、色々と我慢している気がする。こう言うと怒られるのかも知れないけれど、『元気な彼女の姿』が見られるのは嬉しかった。


 ――もしかして、朔姫が三人で付き合うと言ったのは、このためだろうか?


「ふっふ~ん♪ われの方が愛されておる!」


 と朔姫。くやしがる神月さん。


「……」


(どうやら、違うようだ……)


 ――単に『面白そうだ』とか、そういう理由だろう。

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