第31話 再三に渡り連絡した筈です……


なんだか朔姫さくひめのヤツ……)


 ――楽しんでないか?


 俺はそんな事を考えつつ、神月かみつきさんにハンカチを渡すと、


「浮気って……」


 転入生を案内していただけだよ――と答える。

 しかし、朔姫の瞳はなにかをたくらんでいるようだった。


 ――もしかして『ごっこ遊び』でもしたいのだろうか?


(ありえる……)


 俺は神月さんが渡したハンカチでれた箇所をくのを確認する。

 温かいとはいえ、風邪を引いらた大変だ。


 また同時に、朔姫に対して、どう相手をするか考えた。


(まぁ、『遊び』みたいなモノか……)


 付き合った方がいい――という結論に達した。

 そんな俺の思考を読んだのだろうか?


 俺と視線が合った神月さんはうなずく。

 彼女の方が俺よりも、朔姫との付き合いが長い。


 考えている事が分かったようだ。

 また神月さんが『居る』という事は『周囲に誰も居ない』という事でもある。


 コホンッ――と俺は咳払せきばらいをすると、


「ご、誤解なんだ……俺は浮気なんかしていないっ!」


 し、信じてくれ!――と以前、ドラマで見た演技を真似まねてみる。すると、


「ちゃんとわれの目を見ていうのじゃ!」


 われと仕事、どっちが大事⁉――とノリノリの朔姫。

 どうやら、この対応で正解だったらしい。


 しかし、面倒な台詞セリフ選択チョイスしたモノだと感心する。


「も、勿論もちろん……朔姫だよ」


 君を愛してる!――と俺は返した。


 ――ちょっと、大袈裟おおげさだっただろか?


 あまり芝居掛かっていても文句を言われそうだ。

 しかし――参ったのう!――と朔姫。


 にやける顔を両手で押さえていた。


われ、愛されとるのじゃ♡」


 と嬉しそうにしている。どうやら、芝居はもういいようだ。


なんだかチョロ過ぎて、逆に心配になる……)


 神月さんも冷めた視線で朔姫を見ていた。


(それはそうと……)


「丁度、良かった」


 これから、転校生を寮に連れて行く予定だったんだよ――俺が二人に説明すると、


「うむっ! 次は修羅場しゅらばじゃな」


 と朔姫。まだ『ごっこ遊び』は続いているようだ。

 このっ、泥棒ネコっ!――とでも言いたいのだろうか?


 いつもの事だけれど、内容が古いので反応が難しい。

 俺は神月さんに視線を移した後、


「いいかな?」


 と確認した。

 神月さんが居る以上、彼女の【神気しんき】に当てられてしまうだろう。


 転校生が寮を目の前にして、退散してしまう様子が容易に想像できた。

 吹常ふきつねさんには悪いけれど、入寮はあきらめてもらうしかない。


「だ、大丈夫です!」


 と神月さん。覚悟を決めたようだ。

 取りえず、れてしまったのでタオルを持ってくるのが先だろう。


 俺が教室に戻り『鞄を取ってこよう』とすると、


「見付けた!」


 と吹常さん。どうやら、待たせ過ぎてしまったらしい。


(謝らないと……)


 そう思って俺は近づいたのだけれど、なにか様子が可笑おかしかった。

 彼女の視線は俺ではなく、朔姫をとらえている。


われに用かのう?」


 と朔姫。先程までは楽しそうにしていたのだけれど、いつの間にか、ふざけた態度はめたようだ。


 ――知り合い?


 そういう訳ではなさそうだけれど、心当たりがあるらしい。

 俺としては別の事が気になる。


(神月さんが近くに居るのに……)


 吹常さんは平然としていた。

 【神】――という事はないだろう。


 ――俺や菊花だりあと同じような存在なのだろうか?


「再三に渡り連絡したはずです……」


 高天原たかあまのはらへ『いらしてください』と――吹常さんは子供をさとすように答える。

 一方、朔姫は――フンッ!――と、それこそ子供のようにそっぽを向いた。


(話が見えないな……)


 俺は神月さんを見たけれど、彼女も首を横に振った。

 詳しい事は知らないようだ。


 仕方がないので朔姫に近寄ると――どういう事?――と耳打ちする。


「簡単な事じゃよ」


 われ勧誘スカウトじゃ――朔姫は教えてくれた。

 けれど、いまいち良く分からない。


「芸能人みたいに言われても……」


 そんな俺の言葉に対し、


「実際にアイドルグループとして活躍されている方々もいる」


 とは吹常さん。

 俺は内心――ちゃんと話せるじゃないか!――とツッコミを入れつつ、


「確かに朔姫は可愛いからね」


 そう言って相槌あいづちを打った。

 朔姫の機嫌を取っておかないと、後で面倒な事になりそうだ。


「うむっ! われ、可愛いからのう♡」


 と朔姫。単純で助かる。

 しかし、そうなった場合、彼女が『この島』から出て行く事を意味した。


(それは困る……)


 俺一人では、神月さんの面倒を見るのは難しい。


「おぬしの心配はもっともじゃ……」


 と朔姫。俺の表情からさっしてくれたようだ。


「彼女であるわれと離れるのは辛かろう……」


 朔姫はそう言って――うんうん――とうなずいた。


 ――そっち⁉


 俺は思わず声を上げそうになったけれど、


「皆まで言うでない!」


 分かっておるわ!――と朔姫。


「アイドルは恋愛禁止じゃからのう……」


 困ったモノじゃ――とつぶやく。

 俺としては、まったく心配していない事だった。


「いえ、別にアイドルになって頂く必要は――」


 と吹常さん。しかし、朔姫には聞こえていないのか、


われ、可愛い過ぎるからのう……」


 放って置いてくれんようじゃ――などと一人で悩み始めた。


(あっ! コレ……放って置いても大丈夫なヤツだ……)

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