第五章 生き延びて機会を待つのだ。

第30話 彼氏の浮気現場を押さえにきたのじゃっ!


「興味のある場所は……あるかな?」


 俺は『吹常ふきつね 弥生やよい』さんに質問をする。

 彼女からすると、あまり俺とは仲良くする気がないようだ。


 言葉に詰まるのは『初対面』というのが理由なだけではないだろう。

 こういう場合、相手が興味のあるモノに対して、こちらも興味を示すのがいい。


(上手く切っ掛けをつかめるといいのだけれど……)


「特にない」


 と吹常さん。取り付く島もないようだ。

 学校に通う事が嫌なのだろうか?


「今日は暑いけど、体調の方は大丈夫?」


 更に俺が質問すると、


「そうね……」


 と短く答えた。どうやら、会話をする意思はあるようだ。

 緊張していて、上手く話せないだけかも知れない。


「じゃあ、校舎を案内するよ」


 気になる事があったら言ってね――と俺は付いて来るように彼女をうながした。

 なるべく日陰になっている場所を選んで歩く。


 ずは教室を見てから、音楽室や美術室へ移動する。

 後は見晴らしのいい上の階から、グラウンドの様子をながめた。


 そして、体育館や部室棟を案内をする。

 その間も彼女に色々と質問をしたのだけれど、打ち解ける事は出来なかった。


 興味を示す場所や部活もないようだ。


(やっぱり、女子の相手は女子の方が良かったんじゃ……)


 こういう時にかぎって、朔姫さくひめの不在がくやまれる。

 彼女なら『聞いてもいない事を話して、ボディタッチをする』など、コミュニケーション能力が高いはずだ。


(出来なくもないけれど……)


 ――俺がやるとセクハラになり兼ねない。


「じゃあ……そろそろ、寮に案内するよ」


 時間は大丈夫?――と俺は彼女に確認をした。

 『島の外から来た』という事は、ホテルにでも泊まっているのだろう。


 夕食の時間までには、戻った方がいいはずだ。

 しかし、吹常さんの答えは、


「お前は人気があるのだな」


 と予想外のモノだった。

 校内を歩いていた際、何人なんにんもの生徒達から声を掛けられたからだろう。


(単に『知り合いなだけ』なんだけど……)


 普段の俺を知らない彼女からすると、そう見えるようだ。

 彼らとは朔姫や生徒会がらみで仲介役を頼まれる程度の付き合いでしかない。


 悲しい事に俺の人気がある訳ではなかった。

 どう答えるべきか迷った挙句、


「俺には女神様がついているんだ」


 と言ってみる。

 まあ転校してくれば、朔姫の事は嫌でも耳に入るだろう。


 問題は神月かみつきさんの居る寮に『入れるか』だ。


(多分、無理だろうけど……)


 そう考えると、頑張って仲良くなる必要もない。


「ほぉ……」


 と吹常さん。興味深そうにつぶやく。

 今日、初めての好感触な反応だ。


 ――興味があるのだろうか?


「でも、寮を案内する前に……ちょっと用事を済ませてからでいいかな?」


 俺はそう言って彼女の了承りょうしょうもらうと、中庭へと向かった。

 暑いので、彼女には購買部の辺りで待っていてもらうようにお願いする。


 中庭の一角では園芸部に場所を借りて、野菜を植えていた。

 帰る前に様子を見て、ついでに『水をいて行こう』と思ったのだ。


 いつもなら部活の帰りか、買い物の途中でったりしている。

 最近は神月かみつきさんや菊花だりあが一緒の事が多い。


(まだ、実はっていないようだな……)


 俺はホースを構えると、蛇口をひねった。

 勢いよく、水が飛び出す。


「きゃっ!」


 と短い悲鳴。


 ――この声は?


「神月さん? ごめんっ!」


 俺は慌てて水をめる。


「い、いえ……」


 そう言って、畑に植えている野菜の影から出て来た。


 ――何故なぜ、そんな所に?


 当然のように疑問がいたけれど、彼女はずぶれだ。

 質問するのは一旦、保留とした。


 ぐにかわくだろうけど、れた制服がけてしまっている。


(目のやり場に困るな……)


 俺は慌てて視線をらした。

 その様子に首をかしげていた神月さん。


 けれど、れている自分の姿を想像して、ぐに思い当たったのだろう。

 慌てて胸元を隠す。同時に、


「はわわわ……」


 と声を上げた。どうしていいのか、自分でも分からないようだ。

 俺も言葉が見付からない。


「「……」」


 その沈黙に耐え切れず、


「えっと、なんでそんな所に?」


 俺は質問する。

 かない方が良かっただろうか?


「いえ、その……」


 神月さんはなにやら言いにくそうな態度をとる。

 最近は『落ち着いている』と思っていたけれど、嫌な事でもあったのだろうか?


「【神気しんき】が制御できなくなったの?」


 だから、俺が来そうな場所に隠れていた――と考えるのが普通だろう。


「いや、それだと……そのまま寮に帰ればいいのか?」


 つぶやいた俺の言葉に、


「そ、そうではなくてですねっ!」


 神月さんは声を荒げた後、軽く息をく。

 一度、落ち着こうとしているようだ。


 俺は彼女が落ち着くまで待つ。


「あ、あのですね……お、女の子と一緒に歩いていると聞きまして――」


 れた髪を手で払いながら、神月さんは俺に顔を近づけた。


(ちょっと近いよ……)


 彼女には悪いけど、ドキドキしてしまう。

 れているというだけで、ちょっとエッチな気がする。


(心臓に悪い……)


「気になってしまって……」


 と神月さん。キスが出来そうなくらいの距離だ。

 そこへ――


われも気になるぞ!」


 何処どこから現れたのか、朔姫が声を上げる。


(もっと心臓に悪いのが来てしまった……)


 おどろいたのは俺だけではなく、神月さんも一緒のようだ。

 二人して身体を――ビクンッ!――と反応させてしまう。


(唇が触れるかと思った……)


 ちょっと勿体もったいない気もするけど、ある意味――良かった――とも言える。


(やはりキスは、もう少し雰囲気ムードの在る場所で……)


 ――いや、違う!


「朔姫まで、どうしたんだ?」


 彼女はいつも変なタイミングで出てくるような気がする。


 ――もしかして、監視されているのだろうか?


 つい余計な事を考えてしまう。

 そんな俺の考えなど、お構いないに、


「決まっておろう! 彼氏の浮気現場を押さえにきたのじゃっ!」


 と朔姫。


(浮気現場って……)


 ――何故なぜ、そんなに楽しそうなのだろうか?

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