第27話 そうですね、血です


 俺達はいつもの寮の食堂に集まっていた。

 勿論もちろん、状況を整理するためだ。


 ただ俺としては、少しためしてみたい事もあった。


ず、これはどうしようか?」


 捕まえた【竜】ドラゴンだけれど、ガムテープでグルグル巻きにしておいた。


「うむっ! めっしても良いのじゃが……」


 そう言った朔姫さくひめの目は本気だ。恐らく、神月かみつきさんから経緯を聞いたのだろう。

 俺の身体を乗っ取るような発言をしたらしい。


 結果、うちの女神様である二人の怒りを買ってしまったようだ。


 ――ピーッ、ピーッ! 


 となにやらうったえているようだけれど、俺にはよく分からない。


(『カレー』の材料にでもする気じゃないよね……)


 流石さすがに調理したくないし、食べたくもない。


「『神殺かみごろし』をすると変な影響を受けるからのう……」


 朔姫はそう言って――チラリッ――と俺を見た。

 なるほど、神話などにもよくある。


(【神】の力を得たり、不死身の肉体を得たりする話か……)


 俺は『神狩かみがり』だから、影響を受けないのだろう。

 勿論もちろん、朔姫はそんな事をするつもりも、させるつもりもない。


 ただの脅し文句だ。

 最初に大きな要求を出して、次に小さな要求を飲ませる。


(そんな所か……)


『いいから、あたし達の【呪い】を解きなさいよ!』


 と桜花ちえりさん。椅子イスに座った【魔女】姿の菊花だりあかかえられている状態で、机を両手でバンバンと叩いた。


(カワイイ……)


 このままでも良いのではないか――とつい思ってしまう。


 ――ピーッ!


 と【竜】ドラゴンなんだか、可哀想に見える。

 しかし、った事を考えると許せない。


 『神殺かみごろし』をして【呪い】が解けるのであれば、俺も覚悟を決めよう。


「大丈夫ですよ……」


 神月さんが俺の手を握ってくれた。


(そうだった……)


 神月さんも朔姫も、俺がそんな事をするのを望んではいない。


(やっぱり、二人はすごいな……)


 短絡的に考えてしまう自分が恥ずかしい。


なんて言ってるの?」


 悔しそうにしている桜花さんの様子を見て、俺は神月さんに確認する。


「どうやら【呪い】を解く力は残っていないようです」


 と教えてくれた。ならば――力を戻してやればいい――と思わなくもないが、なにをしてくるのか読めない所がある。


(危険って訳か……)


「まあ粗方あらかた、予想通りじゃな……」


 とは朔姫。俺と菊花を交互に見詰めた。

 やはり、俺の読みは正しかったようだ。


 俺は立ち上がると、


「菊花――多分、【杖】っていうのは……俺の事なんじゃないのかな?」


 と質問する。最初は意味が分からず、


「はい?」


 そう言って首をかしげる菊花だったけれど、


「気付いておったか……」


 と朔姫。面白くなさそうにつぶやいた。


 ――やはり、危険なのだろうか?


『どういう事よ!』


 桜花さんがテーブルの上に飛び乗る。


「文献については分からないけれど、【杖】というのは隠語いんごじゃないのかな?」


 この場合は相棒パートナーとなる男性という意味だろう。

 恐らく、学校で『恋人を見付けた』という記述の可能性が高い。


 もしくは、俺のように『特別な人間』という意味だろう。

 朔姫は理事長に聞いて、理解していたようだ。


 菊花も――ああっ!――とようやく納得する。


「菊花の魔法は、ちゃんと機能していたんだよ……」


 俺は静かに答える。

 最初に出会った時も、俺が居たから外套マントが引っ掛かったのだろう。


「じゃあ、センパイがあたしの運命の……」


 菊花はほうけた表情で俺を見詰めた。

 大袈裟おおげさな気もするけど、この場合、あながち間違いではないはずだ。


 【杖】である俺が居れば、【呪い】を打ち消せる可能性がある。

 色々と遠回りをしてしまったらしい。


「のお……このまま猫の姿でも、よくはないか?」


「そうですね、そうしましょう」


 と朔姫と神月さん。その言葉に、


『いい訳ないでしょ!』


 冗談じゃない!――とは桜花さん。それはそうだろう。


「こうなる気はしとったんじゃよな……」


 そう言って朔姫は落ち込む素振りを見せた。

 流石さすがに本気で『猫のままでいろ』と思っていた訳ではないようなので安心する。


「どうするといいのかな?」


 俺が菊花に質問すると、


「契約します……手を――」


 そう言って右手を差し出した。

 俺はその手を取るとなにやら一瞬、光ったような気がする。


 見ると手に光の模様――魔法陣だろうか?――が浮かんでいた。

 一方、菊花はモジモジと恥ずかしそうにしている。


「えっと、センパイ……」


 呼ばれたので――なに?――と俺が返すと、


「キ、キスと『血の契約』、どちらがいいですか?」


 と質問された。痛いのは嫌なのでキスでお願いしたいのだけれど、


「『血の契約』じゃな」「そうですね、血です」


 何故なぜか俺の代わりに、朔姫と神月さんが即答する。


(確かに、ぐそこに台所があるから、刃物には困らないけど……)


 ――ちょっと待って欲しい!


「キ、キスで良くない?」


 せめて刃物は止めよう――針でもいいはずだ。

 恐怖は感じないが、二人がピリピリしているのは分かる。


『ええいっ! イライラするっ……』


 とは桜花さん。爪を立て、俺と菊花の手を引っいた。


「「いたっ!」」


 俺達は同時に声を上げる。


なんか、見てるとれったいのよね……』


 桜花さんは床に着地をすると――うーんっ!――と言って背筋を伸ばした。


「うむっ! 分かる……」


 とは朔姫。これも彼女の『縁切り』の力だろうか?


 以前――余計なモノも切ってしまった――と言っていたけれど、菊花とのつながりかも知れない。だとすると――


(そもそも、桜花さんが【呪い】を掛ける必要すらなかったのでは……)


 かく、これで『血の契約』とやらが行える。

 俺は菊花の指示にしたがい、お互いの血を塗り合わせるのだった。


(これはこれでなにか、いけない事をしている気分だ……)

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