第24話 何て勝手な奴じゃ!


 結局、俺が恥ずかしい思いをしただけのような気がする。

 放課後になり、再び部室に集まると、


「あの……」


 と菊花だりあ。俺と神月かみつきさんが手をつないでいるのを見て、


「センパイの身体の一部を持ち歩くのはダメでしょうか?」


 開口一番、猟奇的りょうきてきな事を言う。


「あっ! 違います……髪の毛や爪です」


 周囲の反応を見て、菊花は即座そくざに訂正した。

 けれど、それもどうかと思う。


 菊花はそういうの欲しいの?――と思わずきそうになってしまった。


「えっと、そういう【呪い】……魔法があるのかな?」


 俺は言葉を選んで質問する。

 彼女が言いたい事はこうだろう。


 ――いつも神月さんと手をつなぐのは不便ではないか?


 確かに、人目の付く場所では恥ずかしい。

 朔姫さくひめぐに真似まねしたがる。


「いえ、単純に安心できる物であれば……」


 と菊花。どうやら、深読みしてしまったようだ。

 ここは――『藁人形わらにんぎょう』と言われなくて良かった――と思う事にしよう。


「なるほど、一理あるのう!」


 とは朔姫。腕を組み――うんうん――とうなずく。

 経験上こういう時はろくな事にならない。案の定、


「――という事で、プレゼントを所望するのじゃ!」


 勿論もちろんわれの分もな!――と朔姫。

 つまり、彼氏である俺から身に付けられる物――


(例えば『アクセサリー』などが欲しい……)


 という事だろうか?


(お金が無いの知ってるよね……)


 どう断るべきか、俺が考えていると、


「なぁに、夏休みのバイト代で買える範囲でよいぞ♡」


 そんな事を言い出す。

 勝手に人のバイト代の使い道を決めないで欲しい。


(欲しいのだけれど……)


「ふふふっ……楽しみじゃのう♡」


 朔姫はもうもらえる前提のようだ。

 溜息が出そうになる。そんな俺の様子に気が付いたのか、


「ヒ、ヒカル君に……迷惑です!」


 と神月さん。ここで彼女に同意すれば、回避できるのだろうけど、


なんじゃ? かなは要らんのか……」


 朔姫の言葉に、


「い、要りません!」


 神月さんは、きっぱりと答える。

 しかし――チラッ――と視線を俺に向けてうつむく。


(これ、欲しいって事だよね……)


 服や靴が欲しかったけど、あきらめよう。

 アウトドアで使える時計や自転車も捨てがたい。


「分かったよ、任せておいて」


 二人にプレゼントするよ!――と言ってしまった。


「そ、そんな! い、いいですよ……」


 と神月さん。口ではそう言っているけど、その表情は何処どこか嬉しそうだ。


「うむっ! 楽しみにしておるぞ」


 とは朔姫。こっちはもう少し申し訳なさそうにして欲しい。


「よ、良かったですね……神月センパイ、恋仲こいなかセンパイ」


 菊花はそう言ったけれど、目から生気が失われている。


 ――大丈夫だろうか?


『作戦は失敗ね……』


 と桜花ちえりさん。スルリと菊花の腕から抜け出す。

 なにか策謀でも巡らせていたのだろうか?


 俺としてはサイフへのダメージがひどい。


「取りえず、座ろうか……」


 お昼と同じように席に着くと、俺は【悪魔】とやらについてたずねた。

 正直、半信半疑だったけれど【神】である朔姫の存在。


 更に猫の姿にされてしまった桜花さん。

 【悪魔】は存在する――と考えて動くべきだろう。


 それは最初、黒い大きな影として教会に現れたらしい。

 自分の姿が見える二人に対し、協力を求めたようだ。


 だが、二人が断ると態度を豹変ひょうへんさせた。

 桜花さんが魔法で対抗しようとすると教会から外へと逃げ出す。


 二人はその後を追う。

 追い詰めたと思った時、その姿は一匹の大きな竜へと変わった。


 そして、二人へ【呪い】を掛ける。

 同時に――また来る――と告げて、霧散したらしい。


 対策として、桜花さんは先祖が使っていたという【杖】を探す事にした。


『結局、見付からなくて、このザマよ……』


 と桜花さん。朔姫にしては珍しく、大人しく聞いていた。

 神月さんはコミカルに動く猫の様子を『可愛い』と思っているようだ。


「だから、菊花も【魔女】の格好をして探していたんだね……」


 どうやら、あの格好には【魔女】の持つ能力を高める効果があるらしい。


「【杖】が見付かる魔法を掛けていたんですけど……」


 と菊花。ご先祖様である【魔女】が残した文献によると――【杖】は学校で見付けた――という記録が残っていたようだ。


 かと言って、この学校は島の開発に伴い、新しく建設つくられた物だ。

 その記録が役に立たない可能性もある。


「朔姫、悪いけど……理事長から【杖】について聞いてもらえる?」


 確か、朔姫の話からすると理事長も【神】のようだ。

 学校に関する事なら、なにか知っているかも知れない。


 俺のお願いに対して、


「ふーむ、仕方ないのう……」


 と朔姫。了承はしてくれたけれど、あまり乗り気ではないようだ。

 恐らく、普段から好き勝手に振舞っているので、小言でも言われるのだろう。


「生徒に関する事じゃしのう……」


 無下に断られる事はあるまい――と朔姫は席を立つ。

 スマホで連絡すると『直接、来い!』と呼び出されてしまう。


なんて勝手な奴じゃ!」


 朔姫はそう言って怒ったけれど多分、向こうも同じ事を思っているのだろう。

 彼女を見送った後、


「【杖】はあきらめた方がいいかもね……」


 俺の言葉に倉岩姉妹は沈黙する。

 最初から、その選択肢も考慮していたようだ。


「後は【悪魔】の居場所だけど……」


 そう言って、俺は菊花達に視線を向ける。

 しかし、首を横に振られてしまった。


 どうやら、二人は知らないようだ。


「でも、この島に居るのなら、場所は限られているよね……」


 少なくとも、この島には神月さんと朔姫、そして理事長が居る。

 三人とも気が付かない――とは考えにくい。


「あっ!」


 と神月さん。俺の表情から、察してくれたのだろうか?


「私、知っているかも……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る