第一章 あなたは何を怯えているの?

第2話 島での暮らし


 俺には昔から欠けているモノがある。人として大切なモノ。

 けれど、それがなにかは分からなかった――


 この春から、新しい生活が始まる。

 父親の仕事の関係で、日本海に浮かぶ孤島へとやって来ていた。


 島の名前は『鳥憑とりつく島』。

 『取り付く島もない』という言葉があるけれど、島は実在していたようだ。


勿論もちろん、字は違うけれど……)


 これからは地球に優しいクリーンなエネルギーが求められる!――そんな理由で実験都市ならぬ『実験島』として選ばれたのが、この『鳥憑とりつく島』だ。


 自然エネルギーや国産の資源だけで、人々が暮らせるのか?

 その実験を行うようだ。


(国産と聞くと、それだけで高くつく気がする……)


 太陽発電、風力発電、海洋発電。

 その他にも、ゴミ処理時の火力発電。


 また、天然ガスや海底資源の発掘にも力を入れている。

 海洋発電については、島の漁師が真っ先に反対しそうなモノだ。


 けれど、海水の温度が上がり、漁獲量も減っている。

 彼らも――このままでは食べていけない――と判断したのだろう。


 今は発電施設などに投資し、そのリターンでお金をもうけているようだ。

 今後は新しい技術との共存を模索しているらしい。


 俺の父は、そんな発電施設で働く技術者だ。

 作る側の人間である。


 最初は父が単身赴任で仕事をしていた。

 その仕事も、今は一段落したらしい。


 今度は島に俺と母を呼び、一緒に暮らしたいそうだ。

 それを後押ししたのが、テストモデルとなる住民の募集だった。


 一般的な家庭として、会社からの打診があったそうだ。

 美味おいしい話はあるモノで、住む家は会社が用意してくれるらしい。


 ただ、三年間の期間限定ではある。

 けれど、父と一緒に暮らせるという事で、母は喜んでいた。


 正直、新天地で一から友達を作る事には抵抗がある。

 更に俺は高校受験をひかえていた。


 しかし――両親が喜ぶのなら――と島の高校を受験する。俺の受験の合否に家族の命運が掛かっているのは、はっきり言ってプレッシャーだ。


 受験生が少なかった事がさいわいしたのだろうか?

 見事受かり、俺達家族は島で暮らす事になる。


 俺こと――『天寺あまでらひかる』――は改めて友達作りにはげむ事になった。


(人付き合いは苦手なんだけどな……)


 島の西側――つまり日本海側――は山や森の自然が手付かずのまま残っていた。

 波や風除けのためだろう。


 所々に風力発電のための風車がいくつか建っているのが分かる。

 対する東側は近代的な都市となっていた。


 ちょっとした地方都市と言ってもいい。観光客の姿も目立つ。

 一部、旧市街や漁港が残っているけれど、それはそれで風情があった。


 ――という訳で、暮らす分には不都合はない。


 問題は――俺が学校に馴染めるのか?――だろう。

 どうやら、中高一貫の学校は俺と同じ境遇の生徒が何人なんにんもいるようだ。


 仲間がいた事に、俺は少し安堵あんどする。

 孤立してしまうと本当に三年間がキツイものになってしまうからだ。


 最初は島の人間達から余所者よそものあつかいされ、険悪なムードになるのでは――と想像していた。


 今のところ、街はにぎわっていて、住民達も感謝しているようだ。

 俺はそれなりに、学校生活を無難にこなす。


 ただ誰かと一緒に居ても、距離を感じてしまう事があった。

 物事を俯瞰ふかんしていると言えば恰好もつくけれど、冷めているだけだろう。


 愛想笑いを浮かべ、相手に同調するようにうなずき、興味のない遊びに付き合う。

 この島に来る前とあまり変わらない日々が続く。


(彼女の一人でも出来れば、変わるのかも知れないけど……)


 生憎あいにくと俺にモテる要素はない。

 このまま、変わらない日々が三年間、続くのかと思っていた。


 そんな矢先、転機が訪れる。運命といってもいい。

 いや、そう思いたいだけだろう。


 俺は彼女と出会った――



    ◇    ◇    ◇



 大抵の場合、ピンチとチャンスは同時にやってくるモノなのかも知れない。

 母方の祖母が倒れたと連絡が入った。


 家の階段から落ちて、足を骨折したらしい。頭を打たなかった事が救いだ。

 祖母の面倒を見るために、母は一度、実家のある北海道へと帰る事にした。


 祖母の容態ようだいが心配だ。

 けれど、別の問題も同時に発生する。


 家族三人で暮らせないのなら、テストモデルの役割を果たせない。

 そのため、家を出なければならないそうだ。


 家族会議の結果――父は会社の寮へ、俺は学校の寮へ――それぞれ、バラバラに暮らす事になった。母は心配していたが、俺としては少し楽しみでもある。


 別に両親が嫌いな訳ではない。色々と面倒な事もあるのだろう。

 しかし、一人暮らしというモノにはワクワクしてしまう。

 

 こういう経験を一度してみたかったのだ。

 しかし、俺はぐに後悔する事になる。


 学校の寮とは名ばかりで、その建物は元病院らしい。

 その昔、流行はややまいなどが起こった際、この島へ患者が送られたそうだ。


 隔離かくりというヤツだろう。くなった人も多くいると聞く。

 つまりは――出る――とうわさらしい。


(バカバカしい……)


 俺としては、学校のそばにある新しい寮に入れる事を想定していた。

 そのため、ガッカリ以外のなにモノでもない。


 新しい方の寮は人気で空きがないそうだ。

 その代わり、山の上にある元病院だった寮はガラガラらしい。


(当然といえば、当然か……)


 こうして、俺の快適な一人暮らしは実現する事なく終わってしまう。

 ちなみみにオバケの方は怖くない。


 どうやら、俺には『恐怖』という感情が欠けていたようだ。

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