二十九話 告白はいつも突然に
取引が成立した次の日。
俺は彼女との約束の通り行動するつもりでいた。
けど、それはもう必要なくなった。なんてことはない、妹が、いや、
あのあと、家に帰ってもまだ妹は帰ってきていなかった。なにかあったのかという心配の気持ちと、忙しいのだろうという気持ちが対立して連絡するべきなのか悩んでると、妹からの連絡があった。それには仕事が長引いたとだけとあった。
だから、珍しく俺はキッチンに立ち、夕食を作ることにした。
もちろん妹の分もちゃんと用意した。上手く作れた自信はないがオムライスを作った。それから俺は先に寝たのだった。
朝起きてから、妹に変わりなんてなかった。
いつもの妹がそこにいて、そこには俺に化ける美少年がいるだけだった。なんてことないやりとりに、いつものじゃれ合い。
「にぃ、さすがに引くよ?」と言われたのはさすがに驚いたが、それぐらいだった。なにをしたかは黙秘権を行使させてもらうが。
ただ、そこになにか意図などは感じなかった。
だから、予定通りに計画を進める予定だった。彼女との約束のためにも、自分のためにも。
けど、学校に着き、教室に入って数分、公然で兄は
話一つ聞いてなかったことだけに、その行動の意味も、理由もわからなくて動揺する。頭が真っ白になる。
現状、妹がいなきゃ生きていけないクズに、ただのヒモに相談することなんてないのかも知れないけど、今までと違うことだけに、俺はどうすればいいのかわからなかった。
「
どうやらかなり深刻な状態であったらしいと、自分で気づくことはできた。
「近い」
「キスでもしますか?」
今度は小声でなく、周りに聞かれてもおかしくない声でそんなことをほざく。
しかも、ご丁寧に言葉遣いも変えて。
なにより、自分の抱える秘密を考えればそんなこと些細なことで、彼女のそれがかわいく思えてくる。罪悪感が胸を刺してやまないというのに。
チクリと感じながらも、冗談はやめてという風に彼女に言葉を返す。
「するわけないでしょ」
「あんなことがあれば気になるのも無理ないですね」
「別に」
「そうですか?」
「う、うん」
「どこか放心なされてるようでしたので、少しでもお力添えになれればと思ったのですが」
「正気?」
「正気ですわよっ!」
もうっ! と、かわいく口を膨らませ、俺になんてこと言うんだとポカポカとしてくる。それでも、彼女の表情はどこか嬉しそうであった。
そこでなにを思ってるのかはわからないけど、彼女が幸せそうな表情をしてることに安心し、安堵し、気持ちが落ち着いてるのがわかる。
「でも、ありがとう」
「どういたしまして……?」
「なんで疑問形なの」
「なにに感謝されたのか、わからなかったものでしたので」
「そっか。それならまあいいかな。でも、ありがとう」
「ちゃんと説明して欲しいのですけどっ!?」
それから彼女はしつこく話を聞こうとする。けど、それもチャイムの前では無力。
クラスの代表、お手本である学級委員がいつまでもチャイムに反抗するわけにもいかないので、彼女は悔しそうに自席へと戻っていった。
それから間もなく教室に先生は入って来て出席なんかを確認しだす。
退屈な時間なだけに手元にあるスマホを開くと、そこには妹からのメッセージがきていた。全ての元凶たる妹からは、全部大丈夫だからと、それけあった。
なにも心配する必要はない、そういうことなのだろう。
あのときと同じようなものを感じる。今なにを思ってるのかなんて想像もつかない、それでもなにをしようとしてるのかだけはなんとなくわかってしまう。
それは
それでも、それに甘えるわけにはいかないと、それだけは思った。だからといってどうしていいのかはわからない。だからどうにかしたいという思いだけが、行き場もなくモヤモヤと自分の中を駆け巡る。
「──これで連絡事項は以上だ」
担任の先生はそう言うと、朝の学活を締めくくった。
それから彼女も同じことを考えてたのか、
俺も彼女を追いかけるように教室を出る。すぐに彼女はいた。
「ここじゃ目立ちますから」
そう言うと彼女は歩き出す。
まだなにも考えてない。なにを話すべきなのかもわからない。ただ、予定が変わるほどの出来事があった以上、話し合わないわけにもいかない。
そう、なにもかもわからないし、なにも思いついてないけど、話さなければいけない。あのときは黙ってることしかできなかった。なにも意見することができなかった。
けど、そんな自分から変わりたい、いや、変わらなければいけない。なんでもかんでも妹に頼って、自分のことも自分でできないなんて兄失格なんだから。
普通の
前に、進まなくちゃいけないんだ。
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