九話 ゴスロリドレスと密室の試着室
かわいいお化粧に、フリフリのドレス。いわゆる女の子の憧れともいえるお姫様、それが今の俺の姿であった。
もちろん、俺が男の娘に目覚め、自分からかわいい服を着たわけではない。着せられたのだ、やつらに。
そして、なにが腹立つって、地味に似合ってしまってるところだ。
こうして、目の前の鏡を前にしてると思ってしまうこともある。もしかしたら神様、俺が女の子になったらあまりに可愛すぎるから男にしたのでは? と。
けど、そんなバカげた思考なんてほんの一瞬の気の迷い。ただ魔が差したにすぎない。
けどまあ、どう見ても俺のルックスが悪くないということは事実なんだろうと錯覚してしまうのは仕方ない。
それほどに今の俺は美少女を会得していた。
「よし! やっぱり私の予想通り」
「
「ちょっ、言い方!! 無理矢理って、なんか私が悪者みたい」
「でも、無理矢理ですよね?」
「ねー?」と俺に振ってくる
いや、そこで俺に振らないでほしい。ほんとに困る。迷惑してるので。適当に流しておくことにする。
まあ、ここに来たときに外で待ってるからと逃げ出そうとしたことを思えば、明らかに嫌がってるとしか取れないと思うのだが。
「それでは今度は
「ああ、うん。そうだね。いやー、でも、私はもういいかなって、ね? ほら、なんというか、もう私はそういう年ごろじゃないし?」
今になって恥ずかしくなったのか、それとも俺を無理矢理脱がし、そして着替えさせた結果、自分の姿をそこに重ね合わせることで、実感したのか。とにもかくにも、今彼女が逃げようとしてることは理解した。
もちろん、俺がそれを許すわけがない。
さっき決めた取り決めが頭を過ぎったために、数瞬の間のあと、俺はこう切り出した。
「み、
俺がそう呼びかけると、ドキッとした顔で俺の方を見る。ああなるほど。どうやら、無理矢理したことには罪悪感というものもあるらしい。なるほどなるほど。
「私、お姉ちゃんはあれに着替えた方がいいと思うなー」
そうして、俺が指を指した先にあるのは、いつもの妹じゃ着ないようなかわいいゴスロリドレス。
妹のプロポーションから考えれば絶対に似合う。そして、無双できる。なにがとは言わないが、少なくとも俺はイチコロされる自信がある。いや、普通にそんな自信いらんのだけど。
ただ、俺の隣の、つまりは
「ほら、妹ちゃんも言ってることですし、ね? あ、そういえば、妹ちゃんの名前聞いてませんでした。お名前はなんですか?」
「
俺は咄嗟にそう答える。
それにしても、ほんと誰だよ。
「それじゃ、
「ちょちょちょー! ちょっとまって。私、着るって言ってないんだけど!? 着ないからね? あんなかわいい服、私なんかじゃ似合わないってか、もっとほら、年相応な──」
「それじゃ、私は
「えっ? ちょっ、
それから彼女は俺の方を少し睨む。
おーこわいこわいとか思いながら、
それから、やっと踏ん切りがついたのか、ゴスロリドレス片手に行ってしまった。
そんなわけで、俺と
とくに話題もないため、無言の時間が続く。
少し気まずいなぁー、なんて思い始めたとき、
「ねぇ、
その一言に俺はドキッとする。
どうして気づいた? そう思いながら、ホントは気づいてないのでは? という考えも浮かんでくる。
とりあえず、冷静に、落ち着くことにする。
「お兄さんって、誰ですか? 私にいるのはお姉ちゃんだけですよ?」
「なるほどなるほど。お兄さんは演技がお上手ですね。私もすぐにはわかりませんでした」
「
「そうですか。あくまで、わからないで通す予定なんですね。それなら、そうですね」
そう言うと、俺の手を取り、一着のドレスを手に取ると、彼女はそのまま俺と一緒に試着室に入る。
そうして、いわゆる密室が出来上がった。
この空間には文字通り
なにをする気なのかと思ってると、彼女は自分の服を脱ぎ始める。
思わず後ろに向いてしまい、あっと思う。しかし、すでにとき遅し。
「やっぱり、お兄さんなんですよね? 同性なのにそんなに気にします? それとも、同性愛者だからといいわけしてみますか?」
そう言われて、どうしていいかわからなくなる。
けど、そんな俺とは対象的に余裕の態度で、俺の方に近づいて来るのがわかる。
そして、彼女はなにを思ったのか、俺にピタリとくっつくようにして俺を抱きしめた。
あのあと彼女は上を脱いだらしく、柔らかな感触とともに温かい素肌の体温が伝わってくる。
ドキドキと心臓の鼓動は早くなっていく。そして、あそこはイキり立ち始める。
こんなのもうどうしようもない。
「ねぇ、お兄さんなんですよね?」
「…………」
「そうだ。それなら、今ここで脱いで証明してみてくださいよ。お兄さんじゃないならできますよね?」
心のなかでお兄さんだったら大問題だろとツッコム。しかし、それもお兄さんだと確信してるからの一言なんだとわかる。
そして、その証明ができないことも。
「ねぇ、お兄さん。いい加減認めてくださいよ」
耳元でそう囁やかれては身が持たないなと理解する。いわゆる、理性の崩壊が間近に迫ってることを確信する。
だって、あいもかわらず彼女は俺に抱きついてるのだから。
そして、それはその感触が、そのやわらかな感触が背中に押し付けられるようにして感じたままだというわけで。
それをわかっているのか、
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