七話 またも女装させられるらしい
俺はスタッフたちにニコニコスマイルを向けておき、事前に予定していた妹との待ち合わせ場所に向かったのだった。
「あっ、にぃ。こっちこっち」
「今度お化け屋敷連れてってやろうかな」
クレープを口いっぱい頬張って、まるで遊園地を満喫してます! みたいな妹を見て、思わずそう思う。
そして、思わず思ったことが口に出る。
「もう、どうしたの? そんな怖そうな顔しないで? ほら、さっき買ったホットドッグについてきたおまけの
「いらねーよ!? いや、マジ一回お化け屋敷の中で永遠とループするドッキリでも仕掛けてやろうかな」
「…………と、そんなことを言いながらも、妹には甘く優しいにぃは、一緒にお化け屋敷の中に入ってしまい、自分で仕掛けたループの罠のせいで出られなくなってしまうのでした。そして、そのお化け屋敷の中で私とにぃは禁断の熟れた果実を吸うように噛り、一夏の春を過ごすのです」
「勝手にナレーションするな!」
全く。どうしてやろうか、こいつは。
そうは思いつつも、妹の楽しそうな笑顔を見ると、少しホッとしてしまう。
それにしても……。
「お前、それはちょっと買いすぎじゃね? 両手にあるその荷物、誰が持って帰るんだよ」
「うん? にぃだよ?」
「はっ? いや、俺はもう帰るっての。お前はまだやること残ってるんじゃねぇの?」
「ううん。だって、お化け屋敷が最後だもん。それに、にぃ。いいの? ここで帰っても」
妹がその華奢な体を生かし、俺の下に入り込んで来て、上目遣いで見られたからドキッとしたというのは、俺が童貞だからとかではなく、男の性に近いなにかでしかない。
決して、妹が関係してたりはしない。男はだいたいみんなそんなもんだ。知らんけど。
「……なんだ? 金でもくれんのか?」
「いや、金はあげないけど」
「なんだよ。じゃ、帰る」
「おいクズニート。待ちやがれやコラ!」
「女の子がそんな端ない言葉を使ってはいけません」
「にぃ、それ差別だから。女の子がー、とか。今どき流行らないんですー」
ああー! うっぜー。なんだこいつ。本当にお化け屋敷のぶち込んでやりたい。
俺はクズニートじゃなく、クズニート予定の高校生だから! まだニートじゃないから! クズしかあってないから!
そんなことを心のなかで思ってたつもりだったが、途中から声に出てたらしく妹から、
「ああ、えっと……。その、にぃ。そんなに、クズでもないと、思うよ? ほら、私の、我儘……に、付き合ってくれたりするし。えっと、その、少なくとも、やさしくはあると思うよ。うん」
そんなフォローも虚しく、俺は気づいてしまった。気づいてしまっていた。
やさしいという褒め言葉は、それ以外に褒めることがないときに使う褒め言葉だってことに。
そんなわけで、ただただ精神的
「ねぇ、にぃ。とりあえず、お願いがあるんだけど」
「この期に及んでなんだよ。なにを言っても俺の心が癒えることはないからな」
「えっ? あ、そう」
なんともどうでも良さげにそう言うと、妹は一呼吸おいてから、俺の耳元に顔を近づける。
こういうとき、理由とかは知らないが、女の子からいい匂いがする。それは、妹でも変わらず、思わずドキッとしてしまった。
甘くとろけるような香りは、鼻腔をくすぐるだけでなく、血の巡りさえもよくする。
そんな俺に構うことなく、妹はボソッとこう言った。
「女装してきて欲しいんだけど」
「…………」
「いい?」
思わず一瞬なにを言われたのかわからず、思考停止してしまったが、間違いなくこいつは女装しろと言いやがった。
ふざけんなよ? すでに女装してきたあとだっての。色々キレイサッパリしてきたあとだっての。
そんなわけで、とりあえず俺は拒否することにする。
「いやだ」
「お願い! ほら、私ってアイドルな声優でしょ? そんなとびっきりかわいい私から漏れる、そこはかとないスター性といったらもう、そこには一般人なら誰もが振り向き、今の子だれ? となる程なわけ」
「はあ。で? それがどうして、俺の女装に繋がるわけだよ」
「反応うっすいなぁー。まあそもそも、期待一つしてないですけどもさ。少しぐらいあってもいいじゃん? そういうやつ」
どういうやつだよ。と、心底どうでもよさげに聞きながら、ため息がついてでる。
「そんなため息して、幸せ逃げちゃうぞ?」
「誰のせいだよ、誰の」
「ほら、お話が脱線事故おこしちゃってるんですけどー! 全く、これだからにぃは」
人のせいにするな。ほとんどお前が勝手に喋って、勝手に脱線していっただけだと言うのに。全く。
「とりあえず、話戻すけど、私から出るスター性の横に冴えない男がいてみてよ」
「ほう。なるほど。彼氏か? と、ネットがざわつくわけか」
「うん? ないない。それはない」
思わず殴ろうかと思ったが、ギリギリのところてセーブする。
なんだこいつ。人に頼み事しておきながら、人に喧嘩を売るだなんて、いい度胸してんなおい。
「じゃあ、なんだよ。それなら女装する必要ないだろ」
「いや、だから。彼氏じゃなくて、
「うん。やっぱ帰る」
「ねぇ、お願い。一緒に遊園地回ろ?」
「女装してまですることじゃないだろ」
「お願い! 今度、私の声優の友人のお胸の大きなかわいい小柄な子と話しをするときに、女装してならついて来ていいから」
「ほんとか?」
「即答するのもそうだけど、そんなとこに食いつくのもキモいんだけど……」
マジで引いた目で俺を見る妹。
そこには侮蔑の念だけがひしひしと込められてる気がした。
「一応言っておくが、声優ってところに惹かれただけだからな?」
「ふーん」
「ホントだから!」
それから、妹はどこから取り出したのか、いつもとは違うタイプのかわいいワンピースを俺に渡して着替えさせると、それからいつもとは違う感じにメイクアップしてくれる。
「ちょっと声出してくれる? いつものあの感じで」
「
「うん、そうなんだけど。それでいいんだけど。うん。………………キモい」
なんだか傷つく一言が、オレの心にクリーンヒットしたような気がするが、たぶん、きっと、そんなことは気のせいであると信じたい!
それから、妹の両手の荷物はコインロッカーに預ける。
そんなわけで、俺たちは遊園地で遊ぶことになったのだった。
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