三十六話 終わらせない、終わらせたくない
「それじゃ、
確信した。だから聞いた。告白じゃないならそれしかない。だからこその言葉だった。他に思いつくこともないから。
「いや、にぃが来たからにぃに任せようと思ったの」
「俺に任せる?」
「ほんとは告白しようと思ってたんだよ? でも、にぃがいるならにぃが言うべきなんだよ」
「俺が」
「そう。にぃの本当の気持ちを伝えるべき。だから、告白も振ることも私はしない」
ここで交代、そう言ってるのだ。今まで、女装して美少女を演じさせて来た張本人である妹が、もう女装なんてお終いと。もう、そんなことをする必要なんてないと。これからは自由にしろと、そう言ってるのだ。どうしようもないクズに妹は、自由を与えるとそう言ってるのだ。
なんでなんだよ。なんでいつもそうなんだ。俺は妹に好きなこと一つさせてあげられないというのに、兄である俺が妹の自由を奪ってるなんていうクズなのに、それでも妹は俺に自由を与えようと言っている。
「それじゃ、時間もないことだし、早く着替えないと」
「は?」
「今のままじゃにぃ、美少女だからね。メイクも落として、いつものかっこいいにぃに戻って」
「かっこよくはないだろ」
「そういえばそっか。かっこいいのは私がメイクしたにぃのコスプレしてるときだけか」
「はいはい、そうですよー」
「もう、ツッコミっ! どうしたのにぃ、今日はキレがないね」
「いつもねぇだろ」
「それもそっか」
妹は「それじゃ」と言うと、俺の手を引く。引いて、この場から連れて行こうとする。ああ、そうか。俺は女装をやめるって、そういう話になったんだった。
これはただの演技で、演技である以上いつか終わりは来る。それが少しばかり早くなっただけのこと。俺は今まで美少女を演じたきた。それが終わるんだ。いいことじゃないか。ゲームの時間は増えて、クズとしてはヒモとしてはそれは喜ぶべきことだろう。
それなのに、なんで、なんで俺はこんなにもつらいのか。なんでこんなにも悲しいのか。気持ちが、感情がどうしてこれほどまでも制御できないのか。役者なら、演じるなら、ここは内心では喜ぶべきなんだよ。だから、これじゃ俺は演技までもできないほんとにこれまでの人生がムダになって……。
そんなのはダメで。
ダメでも感情は止まらない。とめどない感情が溢れ出してどうしていいのか自分でも理解できない。
「にぃ?」
立ち止まって動こうともしない俺に、妹は疑問を感じたのか、一度振り返り「なにしてるの?」と問いかけてくる。そりゃそうだ。妹からしてみれば時間がない状況でなにしてるの? という話である。そんなことしてるヒマなんてない。
「にぃ、ほんとになにしてるの? 時間ないんだよ。女の子を待たせるなんて、さすがのにぃでもダメだからね?」
「そうじゃない」
「じゃあ、なんなの? なにがしたいの?」
「なにって言われても……」
言葉が出てこない。実際自分がなにをしたいのかなんてわからない。わかるわけもない。自分の感情の整理の一つついていないのだから。それでも、そんな気持ちのままでもどうにか言葉にしなきゃいけない。そうしないと、このまま終わってしまうから。
俺の感情はすでに終わることに拒否を示しているから。まだ終りたくないとそう言ってるから。理屈じゃない。理論でもない。そこに正当性のある理由なんてない。だって、普通の物語でもなんでもなくなってしまってるから。日常なんてものはすでにそこにはないから。けど、俺にとっての日常はそこにあって、それを今は手放すことができない。したくないでいる。それなら、その感情に従うしかない。
それがもっともらしいと信じて演じるしかない。そうであると感じているのだから。
「俺は、そうじゃないんだ」
「なになに? どういうこと。そうじゃないってなに? さっきからなにを言ってるの、にぃ」
「俺は別に
「ならそのことを本人に自分で伝えてよ。それならそうとそうすればいいでしょ」
「そうだけどそうじゃないんだ」
「にぃ本人からの言葉のが絶対にいい。それがにぃの答えで本当の気持ちなんだから。私なんかの偽物のことばなんかよりも、絶対」
妹はその点を譲る気はないのか、全くもって引く気配はない。しかし、そんなときにドMお嬢様こと
「俺はな、お前のことが好きなんだ」
そう言うと、一瞬怯んだ妹が、あわあわとしだす。完全に狼狽える。そりゃそうだ。こんな場所で、こんなことを叫ぶなんてどうかしてる。それでも、これしかなかった。
それから、俺は妹が動揺してるうちにその場を離れた。途中で
そうして歩いていると、そこには
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