十八話 妹からのおしおき
「にぃ、すごく似合ってるよ!」
妹にそう言われても、全くもって嬉しくない。
それもそのはずで、俺は今、妹に着せ替え人形よろしく扱われていた。
なんでもするってことになったあと、俺が連れてこられたのは今では妹の部屋となってる場所だった。あの殺風景な部屋ではない、もとは両親が使ってた部屋。もっと正確に言うのであれば、主に母親が使ってた部屋だ。
両親の寝室は当時のまま変わらず、主に父親が使ってた部屋は物置とかしていた。
妹からは、そこの部屋はにぃが使うと思ってたらしいのだが、なんせニートとかしてる俺には二つも部屋なんて不要。だから、結果的に物置となっていた。
まあ、そんなことはさておき、もとは主に母親が使ってた部屋に連れてこられた俺だったわけだが、そこには衣服が置いてあった。
基本的にはクローゼットの中に入れられてる衣服たちだが、ところどころ入りきってないヤツらが外で幅を利かせている。
妹はそれからいくつかの衣服を選定してくると、それを俺に持たせる。
俺はといえば、夜なのになぜ? なんてのんきに思いながらも、妹の指示に従い持つ。そして、ある程度の量になったところで、妹は俺にこれらに着替えるよう言ったのだった。
夜ごはんの前に、
すでに、メイクも落としたあとだというのに。
俺は顔を少し引き攣らせ、「マジ……?」とだけ聞くと、妹からは笑顔で、
「マジ」
そう返された。
なんでもするってことを了承した手前、ここで断るなんてことができるわけもなく、俺は
まあ、そういうわけで、すでに一通り着替えて、一旦落ち着いてはいるけど、俺は妹の着せ替え人形となってるわけだった。
しかも、妹に教わりながら自分でメイクをして。
まずはベースを塗って、色味なんかを補正だとか、まあ魔法の詠唱だった。そこからも、ファンデーション、フェイスパウダー、アイシャドウやアイラインといった横文字ネームが登場して、俺は軽くパニックを起こしていたが、妹には「初めてにしては上出来」と言われるぐらいにはうまくいく結果となった。
全然嬉しくはないのだが、なぜか鏡に映る顔は勝手にゆるんでいた。
「にぃ、ほんとにそういう服似合うね」
「全然嬉しくねぇー」
思わず、俺はそう感想を漏らす。フリルのついた白い清楚系のワンピース。肩出ししてるタイプのもので、これから夏という今の時期にはそろそろ売り出されるに違いないという代物である。なんなら、もう売り出されてるに違いない。
「にぃ、しゃべらないで」
そう言われてはもう、しょうがない。今は妹様なのだ。機嫌を損ねて、より酷い状況になってはたまったものではない。
「いっそのこと、アソコをちょん切って女の子にしてもらうというのも──」
「ちょいちょいちょい!」
「なに? てか、しゃべらないでよ。ヘリウムガス吸って出直してきて」
「いや、ちょん切るとか不穏なこと言うなよ!」
「でも、にぃその方が幸せでしょ?」
「なわけあるか!」
「またまた~」
冗談っぽく聞こえはするのだが、絶対に本気でこれを言ってる。とくに理由なんてものはないが、俺の勘がそう囁やいている。
「まあ、冗談はさておき」
「絶対、冗談じゃない」
「今度は女の子らしいかわいいポーズをしてもらおうか」
「はっ?」
すでに散々着替えて少し汗かいてきてるというのに、まだなにかするというのか?
今更になって、なんでもするなんて言わなきゃよかったと後悔してきた。そんなことを思っても、後の祭りでしかないわけなのだが。
けど、
「さすがに、今日は遅いし、それはなしということで──」
「それは、別日にたくさんやってくれるということでいいのかな?」
「よくないです」
「それじゃ、かわいいポーズとって? てか、まだそんなに遅くもないでしょ。夜だけど」
今はだいたい9時過ぎといったところだろうか。
小学生なら寝る時間なのだろうが、高校生である俺たちからしたら、そんな遅い時間だとかそういうことはない。
でも、こんなことをするには遅い時間だろう。
とまあ、そんなことを考えても仕方がないので、俺は妹の要望通りかわいいポーズとやらをとってみることにする。
「おー! いいよ、にぃ! 猫ちゃんのポーズとか、王道だけど、似合ってるからいい!」
俺は恥ずかしさを堪えながら、手をグーにして、よくネットであがってる猫ちゃんポーズをとっていた。ほんと、か細くにゃ~と言う声の幻聴が聞こえてきそうである。
「それじゃ、次っと言いたいところだけど……」
妹は辺りを見回して、意味深な笑みを浮かべたあと、こちらにカメラを向けてスマホを固定すると俺のもとにやってくる。
俺はなにしてんだ、こいつ? なんて思ってると、白いワンピースの裾を掴んだ妹は、あろうことかそれを持ち上げてって──
「きゃっ!」
素直な、それもほんとに女の子らしい悲鳴が俺の口から飛びだす。俺はその信じがたい現実に、これは俺が発した言葉ではないと、現実逃避をしだす。
そして、なにより少し涙目でワンピースを抑えてるポーズをとってることに、今更ながら気づく。
とりあえずそれをやめようとすると、
「にぃ、その状態キープで!」
「な、なんで!?」
「しゃべんな。いいから、それキープしてじっとしてて」
妹様にそう言われては仕方ないので、その状態をキープするしかない思いじっとしてると、なにやらスマホを操作した妹はこっちにむかってそれを向けて、パシャリ。
「ちょ、ちょっと? ねぇ、
「見たらわかるでしょ? 写真を撮ってるの」
恍惚な表情を浮かべた妹は、あっちこっちの角度から俺を写真に収めていく。
「ねぇ、もうやめていいだろ? 身の危険しか感じないんだけど?」
「にぃさ、今ちょっと興奮してたりする?」
「ちょっ! お前、なに言ってんの? なに言っちゃってんの?」
「おや、この反応はそういうことですか?」
「違うわ」
こいつ、マジでなんなの? 俺がこの状況で興奮するとか、あるわけないだろう。あったとしたら、それは別の意味での興奮だよ。
「そういえば、前にお嬢様を椅子代わりにしたときはつまらなかったと言ってたし、もしかしてにぃ、そっち系?」
「違うよ?」
じりじりとにじり寄ってくる妹の目は、すでに焦点があっていない。完全に取り乱している。
「それじゃ。にぃ、椅子役お願いね」
その言葉はもう、完全に妹がおかしくなってるとしか思えなかった。
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