十四話 暗闇のパンツ

 そんなわけで、俺は一人寂しく家に帰ってきた。

 玄関から家に入る。そこで、少しの不自然さに疑問を感じる。

 すでに外も暗くなってきているのに、家の明かりが一つもついていない。それどころか、家の中は真っ暗だ。

 さっきまで、暗いと言ってもそこそこ明かりのある外にいた俺の目では、家の中は普通に真っ暗同然という感じである。

 妹のが先に帰ってると思ってたけど、そうじゃなかったのだろうかと、そう考えれば自然な気もするけど、今までそういうことがあった気がしない。

 こういうとき、というか妹が一人で帰ってるときは、大体俺より先に家に帰ってることが多い。

 今回もそうなのだろうと思ってたけど違ったということなのだろうか?

 もしかしたら、自室に籠もって寝てるのかもしれないから、それならこの暗さなのもおかしくはないんだけど、やはり不自然っちゃ不自然である。

 とりあえず、こうして玄関に突っ立っていても仕方ない。

 なにかあったときにはいつでも逃げられるように、あえて玄関の鍵は開けたまま家の中に入ることにする。

 それから、ゆっくりと進んでいき、最初にリビングルームに入る。案の定というか、やっぱり真っ暗だ。

 けど、そこで雨戸が閉まってることに気づく。

 つまり、先に妹が帰ってきていたということだろう。それじゃやっぱり、自室にこもって寝てるのだろうか?

 まあ、よく考えれば、あいつも疲れてるのかもしれない。いつもあんなに元気にしてるから気づかないだけで、ストレスとか結構溜まってたのかも。

 それなら、そっと寝かしておいてあげたい。

 そういうわけで、持ってたカバンをゆっくり床に置く。

 そして、それから少しずつ暗闇に目が慣れてきたところで、電気をつけるのを忘れてたことに気づく。

 そんなわけで、電気をつけようと振り返ると、そこには座ってる人の影が。

 なにかと思ってじっくり見てると、急にそれは動き出す。


「わあああぁぁぁぁぁ!!!!」


 そんな近所の人になんの配慮もない大声を出しながらそれから後ずさる。

 どうやら手にはなにかを持ってるらしく、わずかな光を反射して光っている。形状からして包丁だろうか。

 そして、それがなんなのかわかる。

 それは、妹だった。妹が包丁のようなものを持って、俺ににじり寄って来てるのだ。


「な、なぁ、川和かわわさん? そのフリルのお洋服かわいくて似合ってるね」


「にぃ、なにを言ってるのかわからない。でも、安心して? 私もちゃんと覚悟を決めたの。にぃを殺して私も死ぬ。だから、ね……? 安心して。一緒に、死の?」


「やだよ。てか、ほんと、まじでそれ言ってる? ねぇ、それまじで言ってる? 冗談だよね? それ、冗談なんだよね? 悪い冗談だだって言って!」


 自分が今、女子高生もとい、妹の格好をしてることを考えると、この状況は明らかにシュールでヤバい状況だったりするわけだけども、現状そうも言ってられない。

 だってこれ、ヤバいもん。アニメとか漫画なら、今妹の目にはハイライトが入ってないそれだもん。一歩間違えたら地獄行き確定のそれだもん。

 そんなわけで、この状況どうにかくぐり抜けなくてはならない。

 そうして、頭の中に選択肢を三つほど思い浮かべる。


1、『なんとか妹を説得する』

2、『妹と一緒に心中する』

3、『目の前にいる妹のスカートをめくる』


 なるほどなるほど。なるほど……? いや、三つ目の選択肢おかしいだろ。いや、なんでここでこの選択肢? 何度も言うがここは現実なんだけど? 現実でその選択肢はおかしくない? まあ、そもそもそんな選択肢は俺の頭の中での話で、それを考えたのもまた俺なわけだから、おかしいのは間違いなく俺の頭ということになるわけなんだけど。

 いや、まじで誰だよこの選択肢考えたの。頭がイカれてるとか、そんなレベルじゃねぇぞおい!

 そういうわけなので、ここは無難に『1』以外ないだろう。『2』はまずありえない。戦闘放棄にもほどがある。

 で、『3』はまあ、言わずもがなといったところだ。消去法でこの場合は『1』しかない。

 そんなわけで、暗闇の中、妹に呼びかけることにする。


「な、なあ、最後に話をしないか?」


「なに? 命乞いなら聞かない。私ね、にぃを守る方法はこれしかないってわかったの。だから、おねがい。にぃも、覚悟を決めて?」


 上目遣いでおねがいしてくる妹の可愛さに少しやられかける。というか、いい加減目が暗闇に慣れ始めてるせいか、わりとハッキリと妹の影をとらえている。

 そして、その結果どうやらフリルのお洋服なんか着てないことも判明した。

 つまり、ある意味止めを差したのは俺だったのかもしれないと頭の中をそんな考えが通り過ぎるが、気のせいだったとそんな愚考は消し去る。

 それにしても、このまま説得してどうにかなるのだろうか。正直、今のところいける気がしない。

 でも、それしかすることも思いつかないので、それにかけるしかない。


「ほ、ほら、どうせ死ぬなら一生の思い出になるようなことをしよう。ね?」


「一生の思い出? 具体的にはなにをするの?」


「それは、その…………」


 一瞬、頭の中をセから始まる4文字の単語が通り抜けていくが、さすがにヤバいと自主規制的なにかをかけて否定する。

 けど、ほんとにどうしたものか。なにかいい思い出は……。

 そこでさっきの三つの選択肢の『3』が脳裏を過ぎる。

 目の前にいる妹のスカートをめくる。

 実際、妹は今スカートを履いている。

 俺はこれしかないと思った。愚考にも、愚行にも、この愚策しかないと思った。

 そう思えば、それをすることなど容易い。そう、容易いのだ。命欲しけりゃ、そんな一時の恥、容易く安い。

 少しでもミスれば包丁が刺さる。

 俺は少し心臓の鼓動を速めながらも妹に自ら近づいて行く。


「な、なにをするのにぃ」


「安心してくれ。なんにもしないから」


 そう言って、俺は妹のスカートを掴んでめくって見せた。

 そして、一瞬ではあるが妹のかわいいピンクのパンツを視認する。

 けど、その刹那に妹の包丁は俺の腹を刺した。

 俺はとっさに手で腹をさする。

 しかし、傷らしきものもなければ、手に血がつく感覚もない。そもそも、これまでに血がつく感覚を覚えたことがないけども。

 とりあえず、刺されたはずなのにそこに傷はない。

 疑問を感じながら妹を見ると、すぐ近くに満面の笑みの妹の顔がそこにあった。

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