三話 ギャンブル(前編)
俺はとある屋敷の部屋にいた。
やたらと装飾過多で、どこを見ても
そして何より目立ってるのは天蓋付きベッド。
そういうのを見ると俺とは住む世界が違うんだと再認識させられてしまう。
あのあと、昼休みに妹に少し話をしておいた。まあ、問題ないだろうということで、適当な話に花を咲かせ、昼食をとった。弁当を家に忘れたせいで妹には怒られたが。
放課後になってすぐ、体育館裏を目指した俺だったが、途中でオカルト研究部に捕まった。
どうやら、俺はオカルト研究部、略してオカ研より、
とりあえず、俺たち
幾分か捕まった後、今度こそ体育館裏に行った。
体育館裏ではすでに彼女が待っていた。
「お待ちしていました。来てくださると思っていました」
貼り付けたような笑顔で出迎えてくれる。詳しい要件についてはあとで話すから、とりあえず家に来てくれとのこと。
正直怪しいし、行きたくはないというのが本音だが、彼女は確実に
そうなればここで断ることはできない。はっきりさせる必要がある。妹のために。
俺の意思でも汲み取ったのか、彼女はこう言った。
「それではついてきていただけますか?」
その言葉に対して、俺は渋々ながらも頷くしかないのだった。
その結果が屋敷に一人にされた俺という現状である。
なんというか、今は別の意味で落ち着かない。俺なんかがこんな場所にいるという不自然。唐突に大きな水槽に入れられた熱帯魚の気分だ。
待たされること十数分。ティーセットに手をつけようかと思ってるところにドアをノックされる。
開いた扉からメイドに促されるようにして入ってきたのは、大きな白いリボンを基調としたボウタイワンピースを来た俺をここまで連れて来た彼女だった。
なんというかエロいとかふと思うが、すぐにそんな思考は振り払う。
「お待たせしました」
丁寧にお辞儀したかと思うと、彼女は俺の隣に座る。近距離だからか、ふわりとフローラルな香りが俺の鼻腔を
「紅茶、お嫌いでしたか?」
まだ一口も手をつけていないティーセットを見て判断したのだろう。正直それどころじゃなかっただけなのだが、そんなこと言えるわけもないので首を横に振る。
彼女はどこか安堵した様子を見せると、「せっかくの美味しい茶葉ですから」と言って、紅茶を注いだティーカップを渡してくれる。
一口飲んでみるが正直よくわからなかった。
とりあえず、一段落したところでなんか書くものない? ということを動作で説明する。俺のメモとペンを持ってるしぐさで伝わったらしく、彼女はドアの前に立つメイドに指示を出すと、すぐにそれらは用意される。
俺は手渡されたそれを使い彼女に「名前なんていうの?」と書き、隣に座る彼女に見せる。
彼女は一瞬、哀しそうな表情をするが一呼吸おいてから自己紹介してくれた。
「私は
俺を見ながら笑みを浮かべ会釈する。
俺は持ってたティーカップを置くと、
「
なるほど。俺はそれで全てを察した。
つまりは、
お兄様が好き。そういうことだろ? とりあえず諦めろ。それこそ幻影だぞ。
心の中でそう思いながら身構える。
「実は、初めて聞いたときからあなたの声に惚れてしまいまして」
思わずポカンとする。
なにを言われたのか理解するのに数分要した。
こいつはなんと? なに? 声? 俺、入学式の日以来声なんて……。
あ。
そうだ。そうだった。入学式の日、俺は話した。
入学式の日にほんの少しだけ、妹と話していた。
その日から俺は女装していて、話しかけられたらどうしたらいいかと妹に尋ねていたのだ。
で、ちょっと女声で話してみてくれる? と、無茶振りをされ、答えた結果、
『とりあえず、喋らないこと。人見知りってことで』
と、淡泊に切り捨てられた。
そんなわけで、あの日以来、俺が校内で喋ったことはない。
でも、あのとき他に人がいないことは確認したはず。それならどこで?
急いでメモとペンを取り、「どこで?」と書く。
その文字に一瞬ポカンとした彼女だが、すぐに理解したのかすぐ口を開く。
「どこでお聞きしたのか、ですか?」
俺は首を縦に振って肯定する。
「入学式の日、体育館近くの階段です。職員室にお寄りした帰り、偶然話し声が聞こえ、お兄様とご歓談なされているのを見まして、少し聞き耳を立てておりました」
なるほど。盗み聞き、盗聴か。
お嬢様だからといってしていいことと、しちゃいけないことはあるんだからな。
それはそうと、あの話が聞かれてたとなると、わりと困る。あのとき出せた声なんてたかが知れてる。
今ならまだしも、あのときの数日程度じゃなにも変わらない。
妹曰く、素質はある、というかいいと言われた。これは元子役だったことでも影響してるんじゃなかろうか。
「あのときの
彼女は
その声、聞いちゃダメなやつなんだよ、とでも言いたい。
これだったらまだ告白される方が楽だったと、そう思わずにいられなかった。
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