第47話 感謝のひと時

 ネイの商売の腕は、ライトが持ち込んだ魔石と毛皮を高額で取引してくれた事で、証明された。


 ライトはそれだけで十分であったし、ネイという商人と契約を結べた事も大満足であったのは言うまでもないだろう。


「明日は、一日、自由時間にして、明後日の朝一番で帰ろうか。みんなそれでいいかな?」


 ライトは、護衛役を買ってくれた族長フェルンやガロ、そして族長の息子フィロウに感謝の意味を込めて、そう提案する。


「やった! 商人探しの時に気になっていたお店とか、食べ物がいっぱいあるんだよな。──母上、そこに行ってもいいですか!?」


 フィロウはライトの提案に素直に喜ぶと、母であるフェルンに確認した。


「ふふふっ。ああ、少年領……、ライト、感謝するよ」


 族長フェルンは、少年領主と良いかけるが、途中で止めてお礼を言う。


「じゃあ、あたしはミディアム領に向かう前に、貰った報酬で必要そうなものを買っておこうかしら」


『強欲の女商人』の異名を取るネイもこれまで住んでいたチポケット子爵領とおさらばになるのだが、そんな素振りは見せず、さばさばした態度でそう答える。


「じゃあ、僕とアリア、ソルテで明日は美味しいものでも食べにいこうか」


 ライトは専属メイドと元災害級魔物であるヘルボアディザスターであり、現在は守護精霊のような存在であるウリ坊姿のソルテに確認した。


「坊ちゃんが望むのであれば、問題ありません」


 とアリア。


「『ご主人様と美味しい食事、嬉しいでしゅ!』」


 とソルテ。


 ソルテの方は、ライトの能力『読心術』で心の声を聞いているので、みんなには聞こえていないのだが、ライトの頭の上で跳ねているので喜んでいるのはよくわかる。


 みんな賛成という事で、この日は早めに全員が就寝するのであった。



 翌日の朝──


 夕方に宿屋前集合という事で、ライト達は街に繰り出す。


 フィロウは母と親子水入らずという事でかなり嬉しそうだ。


 地元に戻れば、族長の息子として、一人前の戦士として見られる七歳の少年であったから、この日はそれを意識せず、母親に甘えられそうなので当然だろう。


 いつもの護衛役であるガロは、そんな二人と別行動を取る事になっていたが、遠くからその姿を見つめて満足する事になる。


 そしてネイは、これから第二の故郷になり、さらには、商売の本拠点となるミディアム領に何を仕入れていくと喜ばれるかを楽しみながら市場で歩き回る事になった。


 そして、ライトはと言うと、メイドのアリアと魔物精霊のソルテと共に、賑わいのある通りを散歩して楽しんでいた。


 王都とは比べものにならないが、ミディアム領というド田舎の辺境に一年近くいた事もあり、仕事抜きで見て回るとなると、二人共やはり心が躍るというものだ。


 ある程度、田舎に馴染んでいたとはいえ、娯楽も限られ、食事もアリアが少ない食材で工夫していたとは言っても限界がある。


 特に甘いもの、焼き菓子などはしばらく食べていなかったので、二人共甘いものを体が欲していた。


 だから、宿屋で朝食を済ませたばかりであったが、すぐに露店で焼き菓子を購入してライトとアリア、そして、何もかもが初めてのソルテは、広場で隅で甘いものを堪能するのであった。



「幸せ……」


 アリアは思わず、そう漏らす。


「『うまいでしゅー!』」


 とソルテの心の声。


「はははっ。やっぱり、アリアもミディアム領では食べられない甘いお菓子を食べたかったんだね。ソルテも初めての甘いお菓子は嬉しいみたいだし」


 ライトは最近、心の声が表に出がちな専属メイドにそう指摘する。


「あ、すみません……。──別に今の生活に不満があるわけではないですよ? 王都にいたら不幸な未来しか見えませんでしたから、こちらに来てよかったと思っています」


 アリアはライトに改めてついてきた判断が間違いではなかった事を強調した。


「別に疑っていないよ? それに、アリアには僕に付いて来てくれただけでも感謝でいっぱいだからね。あの時、僕一人で辺境に来ていたら、それだけで絶望感に圧し潰されていたと思う。頼れる人がいるのといないのとでは、全然違うもの」


 ライトはアリアが打算があったとはいえ、一緒に来てくれたのは、本当にありがたい事であったから、改めてその事について感謝を口にした。


 心で思っていても伝えないと意味がないからだ。


 いつ自分は兄であるザンデ国王に謀殺されてもおかしくない身。もちろん死ぬ気はないし、生き延びるつもりではいるが、後悔の無い生き方をしておきたいと思えば、やはり、アリアへの感謝の言葉は必須であった。


「……坊ちゃん。私も結婚するまでは、専属メイドとして坊ちゃん第一で仕えますのでこれからもよろしくお願いします!」


 アリアは正直過ぎる言葉をライトに伝える。


「『僕もご主人様第一でしゅ!』」


 ソルテも自分の存在を忘れてほしくないのか、ライトの頭上でそう告げた。


「うん、アリアもソルテもありがとう。──よし、この後も、甘いものを食い貯めていこうか! はははっ!」


 ライトは、信用できる仲間を得たという思いで、アリアとソルテの存在に感謝するのであった。

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