第29話 反動明けの訪問者達
白狼族族長の息子フィロウとの決闘を無事乗り越えたライトは、翌日、案の定というべきか、全身の痛みに苛まれて動けなくなっていた。
普段も野良仕事をする為に、『エセ降霊術』で『聖なる農家』の霊の能力を自分に降ろしているので翌日は体が痛くなるのだが、それでも最近はその痛みにも慣れてきている気がしていたのだ。
しかし、今回降ろしたのが『この地で亡くなった最強戦士の霊』だったから、これまで以上の反動が来ていたのは確かである。
「これまでは、激しい頭痛や、筋肉痛のような痛みだったけど、今回は体中の筋繊維が断裂したような凄い痛みだ……。これは動けない……!」
ライトは寝台で痛みに苦しみながら、安静にするのであった。
ライトは丸一日寝台で横になって激しい苦しみ続けたが、翌日の朝には何事もなかったように痛みが無くなっていた。
「何度もこれは体験しているけど、今回の痛みは治らないかもしれないと思っていたから、安心したよ……」
ライトは安堵のため息を吐くと、改めてこの『エセ霊媒師』の能力の凄さに感謝する。
「私も、いつも以上に坊ちゃんが苦しんでいるので、このまま寝たきりになるような怪我なのかもしれないと心配しました……」
専属メイドで、赤髪に茶色い目で日々美人になっていくアリアも安堵してそう心配していた事を口にした。
「ごめんね。僕もまさかこれほどの反動が来るとは思っていなかったから……。──やはり降ろす能力はその質や使用度によって反動も変わるみたいだ。それを知ったのは大きいかもしれない。次からはうまく考えて能力を降ろすよ」
ライトも反動が怖いのでそう判断する。
「それでは坊ちゃん、朝食を済ませてください。それと執事のロイドさんが昨日、坊ちゃんに面会を求めた人々を全員断っていたので、今日は忙しくなるかもしれないですよ」
アリアが今日の予定をそう口にした。
「面会? 僕、ここに来てから今まで、面会なんて白狼族族長の朝一番の訪問くらいしかないのだけど? 昨日はそんなに来たの?」
ライトはアリアの言葉があり得ないことのように聞こえてピンと来なかったのか首を傾げた。
「一昨日の決闘騒ぎを心配したゴヘイ村長や白狼族の使者としてロウという族長の側近が一人、あとは決闘相手だったフィロウ君も白狼族のガウという戦士と一緒に会いに来ましたよ」
アリアは指を折りながら、ライトの疑問に答える。
「村長はわかるけど、他は白狼族じゃん! でも、使者を追い返すのはマズいよね?何のようだったのかな? まさか、決闘のやり直しじゃないよね? でもそれなら、別にフィロウ君と一緒にガロという戦士も来ないか……。うーん、なんだったんだろう……?」
ライトは村長以外は用件に想像がつかないので考え込む。
「坊ちゃん、悩むのは後にして、朝食の用意がしてあるので食べてくださいね」
アリアはそう言うと、寝間着姿のライトを着替えさせるのであった。
朝食を済ませたライトは、執事のロイドから改めて昨日、面会を求める人物が来たという報告を受けて用件を聞いた。
「族長の使者は、直接ライト様に申し上げるように言われているというので、ライト様が決闘の反動で倒れたことを告げて追い返しました。決闘相手の少年もガロという戦士を連れてやってきましたが、こちらも同じように面会を断りました。ですが、その少年はショックを受けていた様子なので私も少し言い過ぎたかもしれません」
ロイドは悪役執事よろしくどうやらきつい事を言ったらしく、決闘の件で白狼族に対して悪感情を抱いているようだ。
まあ、執事としては主であるライトを負傷させた(反動が来ただけだが)相手を許さないというのはわからないでもない。
しかし、相手は白狼族だ。
些細な事で敵に回したくないというのがライトとしては本音であったから、ロイドの反応については注意することにした。
「申し訳ありません。確かに私の短慮だったかもしれません。しかし、ライト様は現王を近い将来討伐しなくてはいけないお方! その身を案じるのも我が使命ですので、あちらにもそれを理解してもらうには、多少きつく言っても罰が当たらないかと思うのですが……」
ロイドはまだ、ライトが辺境で兵を上げて王都に上り、国王ザンガを討伐するという夢を抱いているようだ。
その為に、せっかく仲良くなった『白狼族』を怒らせたら、その前に殺されるよ!
ライトは内心でツッコミを入れる。
そして、声に出しては、また、ロイドを注意して、二度と同じ過ちを犯さないようにと念を押すのであった。
この後、ゴヘイ村長が面会に訪れたので、ライトは応接室で出迎えると、子供同士の遊びみたいなものと説明してなんとか納得してもらった。
そう説明する以外になかったからだ。
実際、白狼族の族長フェルンは楽しんでいる様子だったし、他の者達も娯楽とばかりに騒いでいたから、白狼族に関しては問題はない。
まあ、あの騒ぎで領民が心配になったのは確かだから、そこは村長にこう言うことでみんなに安心してもらうしかないのであった。
そして、昼過ぎには白狼族の使者ロウがやってきた。
応接室に通されたロウは青い髪に黒い目の沈着冷静な雰囲気を漂わせる戦士で、見た印象としては族長フェルンの相談役といった様子の男性だ。
年は、三十五くらいである。
「──それで今日はどんなご用件で?」
お互い挨拶を済ませたあと、ライトは単刀直入に用件を聞く。
白狼族は回りくどい貴族の応答を嫌っている節があるからだ。
「……族長フェルンは先日の決闘のお詫びに、ライト殿を我が領地で歓迎したいそうです。自分はその返事を聞く為に参りました」
ロウは、淡々と用件を述べる。
ライトはこの使者の言葉から、色よい返事をもらえない限りは帰るつもりがないように見えた。
「……それは、いつ頃のご予定なのでしょうか?」
ライトも即座に断れないから、日程を聞いてから理由を付けて断るつもりでいる。
なにしろ、すぐ、決闘になるような部族であったから、歓迎式と言いつつ、また、戦わされる羽目に陥りそうだと警戒しているからだ。
「一週間後でどうでしょうか? 族長は数日後には、と急かしておりましたが、そちらにもご都合があるでしょう。──いかがですか?」
ロウはライトの反応から何かを察したのか、独断で予定を伸ばしてくれた。
お? この人、話せる相手かもしれない。白狼族では珍しいタイプじゃないの?
ライトは少し好感を持つ。
しかし、それは、断りにくい状態になることを意味した。
「お気遣いありがとうございます。……わかりました。一週間後、訪問させてもらいます」
ライトは、ロウの顔を立てる為に承諾する。
「……ありがとうございます。それでは、失礼します」
ロウは色よい返事を聞くと、感謝を述べて、退室するのであった。
「……あのタイプは、嫌いじゃないから断れないよなぁ」
ライトは嘆息すると、一週間後、白狼族による歓迎式典について、どうするか頭を悩ませる。
しかし、入れ替わるように、今度は族長の息子フィロウが白狼族一番の戦士という話のガロを連れて訪問してきた。
こちらも、応接室に通す。
フィロウは異国の応接室が珍しいのか、少し、きょろきょろしていたが、ライトがすでにいるのに気づくと、すぐに駆け寄って来た。
「ライト師匠、先日は本当にごめんなさい! まさか、体が弱いとは知らず、無理をさせてしまった……。当初の目的は師匠にあの剣技を教わる為だったのだけど、師匠の部下に『ライト様は倒れて横になっている』と聞いたんだ。だから、本当にごめんなさい!」
フィロウはかなり、反省しているのかそう言うと深々と、頭を下げる。
「もう、大丈夫だから安心して。まあ、無理をするとすぐに反動が来るのは本当だから、ああいうのはもう避けたいけどね」
ライトはフィロウが悪い少年ではないというのはわかったので、念押しをしつつ、許した。
「うん、これからは、僕がライト師匠の剣になるよ!」
「いや、それはちょっと……。というかさっきから僕のことを師匠って呼んでいるけど、違うから止めてくれる?」
ライトはフィロウの申し出を断ると、話を変えて問題を指摘した。
「あれだけの剣技の持ち主はこの白狼族一番の戦士ガロ以上だと思うんだ。だから、師匠のような存在だと思ったのだけど駄目かな?」
どうやらフィロウはライトの事を尊敬の対象にしているようだ。
一方のガロは不満そうであったが、何も言わない。
「師匠は駄目だけど、友達ならいいよ」
ライトは師匠呼びは恥ずかしい以外の何ものでもなかったので、新たな提案をする。
「友達……? 師匠と僕が……? ──それでいいのかい?」
フィロウは嬉しそうだが、それを我慢するように聞く。
「もちろん! フィロウ君が友人になってくれたら嬉しいよ」
「わかった! これから僕はライトを守る友人だ!」
フィロウはライトの言葉に満面の笑みを浮かべると、嬉しそうにそう宣言する。
「うん。これからよろしくね!」
ライトもフィロウの返事に安堵すると、心強い友人が出来たことを喜ぶのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます